強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百七十九話「空からやって来た者」

 

「やはりルーラは便利だな」

 

 眼下に広がるは、ゲームでは徒歩で通行不可能だった高山からなる山脈。目に目をやれば低めの山地の先に平原が広がり、川を挟んで再び高山からなる山脈が見える。

 

「向こうの山脈に囲まれた湖だったな、バラモスの城がある島は」

 

「はっ、はい。人間のあたしが足を運んだのは、その、イシスを攻める為の軍勢が集められた時だけでなので……中のことはわかりませんけど」

 

 エリザに確認をとらずとも進行方向からどっちに向かってるかぐらいはおおよそ解るのだが、このやりとりもどっちかというと同行してるお姉さん達に聞かせる意味合いが大きい。

 

「いや、構わん。聞いての通りだ。前方の山脈に至れば高度が下がり始めるだろう。周囲にたむろする雑魚は俺が一掃するつもりだが、取りこぼしに備えて戦闘態勢は整えておけ」

 

 後半はお姉さん達の指示をしつつ、確かめたのは、先日袖に仕込んで大活躍したチェーンクロス。強い武器ではないが、敵を纏めてなぎ払えるのは、大きい。

 

「それから、一応俺もアイテムは回収するつもりだがカナメ達はアイテムとゴールドの回収を頼む」

 

「ええ、もちろん」

 

「ううっ、カナメさんは良いですよね。スー様手伝って下さるしっ」

 

 頷いた推定カナメさんを恨めしげに見ているやっぱり推定商人のお姉さんには「生きろ」としか言えないなぁ。

 

「そうは言うが、カナメは徹夜で消耗しているし、その原因を作ったのも俺だからな。この程度で罪滅ぼしになるとは思えんが……」

 

 埋め合わせは、させて貰う。

 

「……スー様」

 

「俺が言うのも何だが、これから向かうのはバラモスの城、敵の本拠地だ。無理はするなよ?」

 

 反則的な身体スペックの俺ならともかく、現地に居る魔物は同行するお姉さん達にとっては格上の相手なのだ。お姉さん達だけで遭遇した場合、先手をとられて範囲魔法やらブレス攻撃で一方的に全滅させられたとしても不思議はない。

 

「一応、呪文への備えにまほうのたてを買って装備するよう言ったが、あの盾はあくまで呪文攻撃の被害を軽減するモノだ。ドラゴンの吐く息には効果がないし、呪文とて無効化する訳でもない。僧侶は回復は早めを心がけ、先手をとられないよう予めピオリムの呪文をかけておけ」

 

「「はい」っ」

 

「いい返事だ」

 

 覆面のせいで誰が僧侶のお姉さんか不明だが、振り向いた俺は頷いてくれたので良しとして、前に向き直った。

 

「さて、鎖の届く範囲に固まっていてくれるといいのだがな」

 

 到着後、まず始めに行うのは周囲の魔物の始末だが、呪文で一掃では精神力が必要になるし、音で周囲に気づかれる可能性もある。となれば、袖に仕込んだ鎖分銅での対応になるが、このチェーンクロスが攻撃出来るのはゲームで言うところの敵一グループ、纏めて攻撃出来ると行っても効果範囲内に居る敵ならと言う条件付きなのだ。先程取りこぼしに注意するようにとは言ったものの、場外の敵もお姉さん達にとっては格上の敵。

 

「ふむ、ままならぬモノだな」

 

 やはり、イシスへの侵攻が痛かった。もっと余裕があればお姉さん達を適正レベルまで鍛えられたし、ダーマの神殿へ到達して転職させることだって出来たかも知れないと思うと歯がゆい。

 

「が、是非もないか」

 

 もし、バラモスを油断させもっと時間を得ようとすればサマンオサではボストロールの化けた偽の王によって更に数多くの人が処刑され、クシナタさんを含むクシナタ隊のみんなを救うことも能わなかった可能性があるのだから。

 

「スー様?」

 

「いや……無益なことを考えていた。もう少し時間があればなどとな」

 

 独り言を耳にしたのであろうお姉さんに名を呼ばれ、頭を振って苦笑する。覆面してるので、きっと苦笑は見えなかったと思うが、そこはニュアンスと声のトーンとかで察して貰えたらなと思う。やがて、俺達は二度目の山脈を眼下に見ることとなり。

 

「バイキルト」

 

 高度が下がって行くのを感じつつ、呪文を唱える。

 

「侵攻軍に居た奴か」

 

 近づいてくる城と地面の間、最初に見えたのは宙を泳ぐ水色の東洋風ドラゴン。上空というのが着地前に敵対行動とらなければいけないという意味でめんどくさいが、飛んで空に逃げられたら拙い。

 

「でやぁっ」

 

「グフシャァァ」

 

「シュウォォォ」

 

 一閃させた左の袖で軌道上にあったスノードラゴン達の頭部を角ごと粉砕し。

 

「「フシュオォ?!」」

 

「次は貴様等だ」

 

 降ってきた水色東洋ドラゴンの死骸に慌てふためく甲羅を背負った赤いドラゴン達目掛け、右の袖から伸ばした鎖分銅で薙ぐ。

 

「「シギャァァァァッ」」

 

「ふっ、造作もない……ん? これは」

 

 まさに鎧袖一触。振るった鎖を引き戻せば何故か宝箱に巻き付いていて、箱から出てきたのは一粒の種。

 

「流石スー様ですっ! あ、ラックの種ですね、食べると運の良さが上がるらしいですよっ」

 

「そ、そうか」

 

 こういう時、鑑定が出来る商人のお姉さんが一緒に居て良かったと思う。

 

「さて、戦利品についてはこの後増えて行くことだろう。余計な荷物を増やす訳にはいかん。誰か欲しい者は居るか?」

 

「はい」

 

 言いつつ見回すと、ちょうど一人覆面のお姉さんが手を挙げる。

 

「他にはいな」

 

「あ、すみません。希望じゃなくて質問です」

 

「だあっ」

 

 希望者一人ならちょうど良い、そんな風に思った俺は被せるようにまくし立てたお姉さんの声にすっ転ぶ。典型的なコントの流れだった。

 

「……お前な」

 

「紛らわしくてごめんなさい。ええと、運の良さって恋愛運とか男運も含みますか?」

 

 しかも質問も割とどうでも良い感じじゃないですか、やだー。

 

「ええと、普通は『状態異常呪文とかがたまたまかからない』運の良さ何ですけどっ」

 

 うん、ゲームではそうだった。だが、恋愛運をあげてどうしようというのか。

 

「けど?」

 

「クシナタ隊に男の人って居ませんよねっ? 同行者と言うことにしても男の方ってスー様以外いらっしゃらないのですけどっ?」

 

 そう、商人のお姉さんが言うように、この場に男性は自分だけなのだ。だが、俺自身は人の身体を借りてる皆のでお付き合いは出来ないとしっかり予防線を張ってある。

 

「うぐ」

 

「と言うことは、スー様狙いと考えて良いのですねっ?」

 

「そっ、それは……」

 

 えーと、張ってあるんですよ、もしもーし。

 

「そうか」

 

 いや、これまでの経緯を考えれば、一つ思い当たるモノがある。ドッキリだ。カナメさんのアレに味を占めて二匹目のドジョウ狙おうとしたのなら説明がつく。

 

「成る程、俺を引っかけるのが狙いか」

 

「「え?」」

 

 図星であったのだろう。お姉さん達はこちらを見て呆然としている。心を見抜かれて驚いたのだ。まぁ、ドッキリにかけられる原因となった行動を顧みれば、俺がモテる筈もない。だが、この短期間に二度も騙されるほど俺かでもないつもりだ。

 

「引っかけられるモノなら、引っかけてみると良い」

 

 条件に無理があったなと内心でドッキリの評価をしつつ、俺は宣言する。

 

「え、アタックOKってことですか? やったぁ」

 

「「す、スー様?」」

 

 どうやら仕掛け人のお姉さんは最初の設定を貫くようだが、初志貫徹という一本筋が通った所を褒めるべきか、既にバレてる演技を続けることに生産性はないと窘めるべきか。あと、何驚いてるんですか他のお姉さん達。

 

「ん?」

 

 ひょっとして、そのリアクション自体もドッキリの仕込みなのか。一人のお姉さんがこちらに気があると思わせておいて実はドッキリでしたと言うのを隠れ身にして、実は別の手で俺を騙すつもりなのではないか。

 

「充分あり得るな」

 

「え、えーと、スー様?」

 

「ん、すまんな。少し考え事をしていた。そうそう、先程の話だがあの城での嫌がらせを終えた後でと言うことにさせて貰うぞ? 流石に他のことを考え」

 

「スー様、あ、あれを!」

 

 ドッキリ自体は構わないが、流石に嫌がらせ破壊活動中に何かさえるのは拙い。故に釘を刺そうとしたときだった。俺の声に被せて一人のお姉さんが東の方を指し示し。

 

「ん? なっ」

 

 釣られて東の空を見た俺は思わず声を上げていた。見覚えのある多頭のドラゴンが背に覆面マントつけた人物を乗せてこっちに飛んでくるところだったのだから。

 

「やまたの……おろち、だと?!」

 

 しかも背中に何か乗せている。どうして、こうなった。

 

 




自己評価だだ下がり中の主人公は、クシナタ隊のお姉さんの好意をドッキリと勘違いしてしまう。

そこに現れたやまたのおろちと謎の騎乗者。覆面マントと言うことはあの男が帰ってきたと言うのか、それとも。

次回、第百八十話「やまたのおろちライダーが現れた! こまんど?」

ファンのみんなお待たせ、いよいよあいつが再登場だ!
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