強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百八十話「やまたのおろちライダーが現れた! こまんど?」

「っ、呆けてる場合か。皆、下がれ! 潰されるぞ」

 

 おろちに翼がない以上、あれはキメラの翼を使っての移動だろう。ならば、ちょうどこちらの降り立った場所に着地すると言うことで、頭を振って自分を叱咤した俺はお姉さん達に警告を飛ばしつつ、後方へ引く。

 

「あ、あぁ……」

 

「ちぃっ」

 

 しかし、相手が悪かった。飛んでくるのはお姉さん達を一度喰い殺した者なのだ。恐怖が再燃してしまったのか、立ちすくんでしまっているお姉さんを視界に捉え、舌打ちするなり地面を蹴る。

 

「レムオルっ」

 

 飛び出しながら、同時に呪文を唱える。精神力を喰らう割には効果時間の短い透明化の呪文だが、何故おろちがよりによってここに現れたのかが解らない今、安易にこちらの姿を晒す訳にはいかない。

 

「他はいいな? よし」

 

 口に出して聞きつつも周囲を見回すが、幸いにも足を止めてしまったのは一人だった。そのまま後ろからお腹のあたりに腕を回して抱くと、もう一度地面を蹴る。

 

「スー様」

 

「とりあえず間に合った。だが、ここから私語は厳禁だ」

 

 透明になっても音は消えないのだ。まだ距離はあるが、声を出せば聞こえてしまう可能性がある。

 

(しかし、想定外にも程があるというか、何故このタイミングでおろちがわざわざバラモス城へ来るのやら)

 

 声に出せないが故に、心の中で呟くと、近づいてくるやまたのろちの方へと俺は目をやった。

 

(それに、あの覆面マント……)

 

 おろちの身体が影になってよく見えないが、色合いはジパングで別れたジーンの物に似ている気がする。ただ、さつじんきのジーンがわざわざバラモス城へおろちと一緒にやって来る理由がない。おろちが約定を違えてバラモスへ密告する為にやって来たのだとしても、何故ジーンを連れて来るというのか。

 

(人質……にはならないしなぁ)

 

 じゃあ、何だと問われると他人を納得させる様な答えは思い浮かばない。

 

(うーん……)

 

 考える間にもおろちの姿はどんどん大きくなり。

 

「は?」

 

 背に乗った人物の姿をより近くで見ることになった俺は、私語厳禁と言ったにもかかわらず声を漏らしてしまっていた。覆面マントの下にあったのは、比率の大きな肌色とそれを申し訳程度に隠すビキニ。

 

「なん……待て、落ち着け」

 

 しかも色っぽい下着までつけた少女のようなのだ。これで黙っているという方が無理だ。と言うか、俺の持っていた危険物ことガーターベルトは刀鍛冶に預けたと思ったのだが。

 

(まさか、あいつ権力を使って刀鍛冶の人からビキニとガーターベルトを無理矢理?)

 

 流石に今度は声に出すのを自重したが、これは看過できない。

 

(くっ)

 

 とは言え、まだ出て行くのは早すぎる。あの覆面マントを許容出来る少女という時点でもう俺には心当たりが一人しかいないのだが、想像通りだとしても、向こうの事情をもう少し知る必要がある。

 

(静まれ、静まるんだ俺)

 

 おろち達はまだ地面に降りても居ないのだ。

 

「フシュルォォォ」

 

「……あれ……ラモスの……」

 

 固唾を呑んでと言う表現が正しいかどうか考える余裕もないままに、途切れ途切れに聞こえた少女の声に確信を強め、透明のままで俺達は迎えた。おろちと勇者シャルロットの到着を。

 

「グルォォ」

 

「っと」

 

 地響きさえ立てそうな勢いで地面に降り立ったやまたのおろちの背を推定シャルロットは滑ると、地面に足を着け、首を巡らせた。

 

「魔物の死体がこんなに……じゃあ、お師匠様はやっぱり来てるのかな」

 

「グルォォ」

 

 おろちは本性のままなので鳴き声だが、きっと以前俺にもやった人の心に語りかけるテレパシーもどきでやりとりしているのだろう。

 

(となると、聞き耳を立てるにしても情報源になりそうなのはシャルロットの言葉だけか)

 

 とりあえず、お師匠様はやっぱりとか言ってるところを見るに、こっちの狙いの何割かは見透かされていたようだ。

 

「フシュオオオッ?」

 

「うん、死体から流れてる血からすると時間も経ってないみたいだけど、どうしよう? おろちちゃんはきっと問題ないだろうけど、ボクは見とがめられるよね……魔物に見つかったら」

 

 しかも何やら俺に先へ行かれたと思って後を追いかけようとしている模様。って、どうしろと言うんですか。

 

(ここで怪傑エロジジイとしてでていったらシャルロットに「お師匠様は?」って聞かれるよなぁ)

 

 だが、師匠の格好で出ていったらドラゴラムで嫌がらせ計画が破綻する。

 

(と言うか、そもそもあの下着って……あれ、だよな)

 

 一時期所持していたので、解る。シャルロットのつけてるのは、見間違いようもなくガーターベルトだった。

 

「お師匠様、今のボクを見たら……なんて言うかな? んっ、想像しただけで……」

 

 たすけて、るびすさま。シャルロットまで、せくしーぎゃるになってるの。

 

(おろちの性格が本で治ったとおもったらこれですか。何これ、イジメ? イジメなの?!)

 

 あんなシャルロットの前に師匠の格好で出て行ける訳ないじゃないですか。

 

 うぐぐ、世界の悪意が。

 

「グルル」

 

「あ、うん。ごめん、想像したらちょっと興奮しちゃって……え? 気持ちはわかる?」

 

 何故だろう、情報収集しないといけないのに、思いっきりこの二人のやりとり聞きたくないですよ。何だかアイドルの汚れた一面を知らされるファンの心境というか、それに近い感じがするので思いっきり耳を塞いでいたいですよ。

 

(まぁ、それはそれとして……シャルロットに変なこと吹き込んでたらあの首だけ多めのハ虫類、ぶっ殺して良いよね? 首一本残して全部斬り落としてからベホマで再生させてのループを精神力切れるまでやってからぶっ殺しちゃっていいよね?)

 

 約定なんて知ったことか。俺にはシャルロットのお袋さんとの約束があるのだ。

 

「いやー、目を離した隙に娘さん変態さんになっちゃいました。てへぺろ」

 

 では済まされない。

 

(どうする、ここで介入するか。それとも……)

 

 いや、ここで介入して何とかなる問題なのだろうか。シャルロットのせくしーぎゃるがお師匠様だけでなく男性なら誰にでも向けられるタイプだった日には、飛び出した所で詰む。

 

(うぐぐぐぐ)

 

 俺は今まさに、決断を強いられようとしていた。

 




満を持して登場の勇者シャルロット。

やけにおろちと仲も良さそうだが、いったい何があったのか。

次回、最終話「シャルロット、お前がナンバーワンだ」……っと、間違えた。

次回、第百八十一話「顔を隠した者同士の複雑な関係」に続きます。

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