「そこの者、エロジジイ」
「えっ、えろ……じじい?」
「フシュオッ?」
かけた声に、推定シャルロットが弾かれたように振り返る。迷いに迷ったが、黄緑のローブを脱ぎ介入することにしたのだ。このままいきなり城に突入でもされたら、一歩出遅れるのは確実であるし、判断は間違っていなかったと思いたい。
「うむ、ワシは怪傑エロジジイ。バラモスの僕に語尾へ『エロジジイ』がつくの呪いをかけられ、復讐の為に戦う者、エロジジイ」
バラモス対策にスレッジも拙いと怪傑エロジジイの装いを着込んでいた俺にとって、名乗る名前はそれしかなかったエロジジイ。
「え、ええっと」
覆面マントのビキニ少女が言葉を探す様を眺めながら、フードの奥で密かに緊張する。ローブの色こそ変えているが声音もスレッジの時そのままのモノに語尾を付け加えただけなのだ。余程鈍くなければ、スレッジと同一人物であると気づくと思うのだ。その上で、わざわざこんなまどろっこしいことをしてる理由に気づいてくれるかどうか。
「あー、頭が幾つもあるドラゴンはさておき、お前さんは魔物でないようじゃが、何者かのエロジジイ?」
確認の為、俺は再び口を開いて問いかけた。さつじんきもどきの覆面マントもこちら同様バラモスに素性を悟らせない為の可能性もある。だからこそ、何と呼ぶべきかと問うたつもりだったのだが。
「え、ぼ、ボクは通りすがりのドラゴンライダー……名乗るほどの者じゃ」
うむ、この反応からするときっと偽名とか考えてなかったのだろう。俺が知るシャルロットなら相手が名乗ってるのに自分が名乗らない何て失礼をするような子じゃなかったのだから。
「ほう、竜乗りじゃったか、エロジジイ」
ともあれ、一つ解ったことがある。
「しかし、ワシの名乗りを聞いて襲って来ぬと言うことはその多頭ドラゴンもお前さんもバラモスと敵対、もしくは中立の立場であると考えて良いのじゃな、エロジジイ?」
「グルォゥ」
直後に肯定するようにおろちが鳴かずとも、状況から察した。バラモスに復讐すると言ってのけた者へ即座に襲いかからずにいるというのは、騙すつもりがないならバラモスの部下としては背任以外の何ものでもない。しかもシャルロットまでバラモス城に連れてきたところを見るに、保身の為完全にこちらへついたと言ったところか。
決めつけるのは危険かも知れないが、一度戦ったおろちは知っている、俺の強さを。だからこそシャルロットに味方することで点数を稼ごうとしたなら、一応納得は出来るのだ。
「あ、うん。ボク達人を探しに来たんだけど、お爺さ……怪傑エロジジイさんは見てせんか? 爪のついた手甲を装備して暗い青色のマントをつけた盗賊なんですけど」
更に推定シャルロット自身の発した問いで、目的と言うかここまで来た動機もおおよそは知れた。
「むぅ、こんな場所まで人捜しとは大変じゃの、エロジジイ。しかし、その人物はこんな危険な場所まで足を踏み入れる様な御仁なのかの、エロジジイ?」
「今、イシスが魔物の侵攻に遭ってるって聞きました。それで、お師……その人なら二つに一つかなって思ったんです。イシスを守りに行くか、元を断つ為ここに来るか」
成る程、発想はカナメさんに近いケースで予想した訳か。
「おろちちゃんならここにキメラの翼で飛んで行けるって知って、まずは飛んでみて戦闘の跡があるかで判断しようと……」
「ふむ、エロジジイ。戦闘の跡があれば、捜し人が城に乗り込んだかも知れぬと言う訳じゃな、エロジジイ」
「はい」
多分、戦闘の跡がなければルーラで戻ってイシスに向かうとか言った辺りの計画だったのだろう。ならば、この推定シャルロットがどう動くかはこちらの返答次第とも言える。周りの魔物の死体について、自分の仕業でないと言えば、お師匠様を捜して城に乗り込むと思う。
「ところで、あの魔物達ですけど」
やはり来たと言うべきか、とぼけると言う手はないらしい。
「ワシが片付けたエロジジイ」
少し迷ったが正直に告げることにし。
「え、全部お一人でですか?」
「む、エロジジイ」
自分の攻撃だけで倒したのは事実だが、厳密には一人でなく。隠れていたままだった同行者のお姉さん達を紹介するかでまた悩む。シャルロットにクシナタ隊の存在を明かす訳にはいかないのだが、かと言ってこのまま隠れていて貰うことも出来ない。複雑な事情と関係があるからこそ、対応一つとってもめんどくさく。
「ピキー?」
「あ、まだ出てきちゃ駄目、メタリンっ」
「ひょ? ……エロジジイ」
葛藤していた俺は少女のマントの中からいきなり出てきた灰色生き物に思わず語尾を忘れるところだった。
まさかの灰色生き物ことメタルスライム登場。
そして、隠し事をしてるからこそ言えないことがあって主人公は悩む。
次回、第百八十二話「灰色生き物」