(バラ……モス?)
俺の認識からするととっくに倒した相手だった。第一、この身体が身につけている装備の幾つかは少なくともバラモスを倒した後でしか入手出来ないものも含まれているのだ。
(何という、強くてニューゲーム)
ゲームクリア時の能力やレベル、装備を引き継いで遊ぶことの出来るゲームは幾つかプレイした覚えがあった。どういう理屈かはわからないがこの身体も近しい状況にあるのだろう。
(まぁ、中身が俺じゃなきゃソロは無理でもフルメンバーなら余裕でゾーマ倒せるスペックだしなぁ)
ゲームそのものの世界に居ることで刺激されたのか、ポツポツと思い出すのは所謂クリア後のお楽しみのこと。
(確か二回は勝ったよな)
倒せば願いを叶えてくれるゾーマを凌駕する強敵との戦い。一応報酬も受け取ったはずなのだが。
(バラモスが生きてるなら報酬はリセットされてると見るべきか、よし)
ともあれ、逃げるなら今しかない。俺同様に勇者も魔王を倒した状態のままなら、ゾーマの手先に過ぎないバラモスなどソロでも充分倒せるはずだ。
(このキャラが行方をくらましても、控えメンバーで充分フォロー出来るし)
一応、ダンジョンの宝物が持ち去られた状況か確認する必要もある。
(魔物が蔓延る世界なんだ、魔王と戦わなくても襲われる可能性もあるからな)
パニックに陥らない為にもならしておくべきだろう。
「お代はここに置いておくぞ」
女主人ことルイーダさんはまだツンツン頭と取り込み中のようだったので、それだけ言うと俺は席を立ち、ルイーダの酒場を後にする。
「さてと、まずは道具屋によるかな」
呪文が使えるかの確認とどっちを優先すべきか迷ったが、必要になった時に「中身が俺なので使えません」なんて残念展開になりでもしたら目も当てられない。
(スタート地点の雑魚に手傷を負わされるとは思わないけど、魔物に襲われて怪我をした旅人とかに出くわすかも知れないしな)
まずは『やくそう』の確保。酒場で飲み食い出来たことからすれば保存食みたいなモノも要るかもしれない。
(全てがゲーム通りだとか考えてたら痛い目見そうだし)
備えあれば憂い無し。中身が一般人の俺ならば尚のことだ。
「いらっしゃいませ」
「邪魔をする。少し遠出をするのだが――」
声をかけてきた道具屋の店員に要望を伝えた俺は、念のためルーラと同様の効果がある『キメラの翼』を購入しておく。
「以上でよろしいでしょうか?」
「ああ」
火打ち石とか寝袋のような野営用の道具も買うべきか迷ったが、ぶっちゃけ魔物が出歩く野外で安眠出来るような心臓の持ち合わせもない。
(日が暮れてきたらルーラかキメラの翼で戻って来れば必要ないしな)
そもそもこの世界の状況確認をするにしても、いきなりダンジョンは無謀すぎるというもの。
「まずは呪文だ」
町中で使える呪文を試してみることも考えたが、生まれて初めて使う魔法なのだ。
(やっぱ、攻撃呪文とか使ってみたいよな)
火事になると拙いし、火の系統であるメラや熱を放出するギラは自重するとして何を使ってみるべきか。
(あぁ、ワクワクするなぁ)
このアリアハンの城下街を出るまでの短い時間とはいえ、俺はこの先に待ち受けているであろう問題や脅威への不安や恐怖を忘れることが出来ていた。
(バギじゃわかりづらいし、ヒャドかな。イオは爆発の音で魔物に気づかれるかも知れないし)
ちなみに強力な呪文を使う気はない。下手に目立つことをして勇者の目に留まったら逃げ出した意味がないのだから。
(呪文が使えるようなら武器での戦闘も経験してみよう)
動物も殺せなかった俺だが、魔物が山野を跋扈するこの世界ではきっとそんな甘いことなど言っていられない。極力逃げるとしても追いつめられたら戦える程度にはなっておきたかった。
(「ここはアリアハンの街です」とか言うのかな、あの人)
入り口に立っていた人を横目で見つつ、通り過ぎ。
(さて)
俺の目の前に広がるのは風にそよぎ波のように揺れる草原。
(流石に入り口から見えるところでやるのは拙いよな)
かといって離れすぎて帰り道がわからなくなったりするのも拙い。
(ゲームだと十歩分も離れていなかったと思うんだけどな、ナジミの塔)
考えてみれば当然でもあるゲームと乖離する状況に思わず唸りつつ、俺は足を進め。
「ピキーッ」
「うひょわぁぁぁっ?!」
飛び出してきた影に間の抜けた悲鳴をあげるのだった。
さて、次はいよいよ最初の戦闘……になるのかなぁ?
ステータス的には負ける筈無いんですけどね。
ちなみに、プロローグで主人公の持ってたダガーははぐれメタル狩り用のアサシンダガー。
装備他は以下の通りです。
E:魔獣の爪
E:闇の衣
E:水鏡の盾
もちもの:
ミスリルヘルム(酒場で脱いでそのまま)、賢者の石、幸せの靴×2、アサシンダガー、薬草、キメラの翼 他
うん、スライムに負ける方法が思いつかない。
続きます。