強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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番外編13「ついにここまで来たけれど1(勇者視線)」

 

「あ、まだ出てきちゃ駄目、メタリンっ」

 

 臆病だから大丈夫だと思っていたのに、気を抜いたのが悪かったんだと思う。

 

「ピキ?」

 

「このお爺さんにまだ説明してないんだから。お爺さんも驚いてるじゃない」

 

 このメタルスライムを倒すと強くなれるみたいだったから、人前に出るような癖はついて欲しくない。スレッジさんなら大丈夫だとは思うけど。

 

「えーと、どこから説明しようかな」

 

「ピキー?」

 

「よいしょっと」

 

 ボクは頭を悩ませつつ、とりあえずメタルスライムのメタリンを捕まえた。

 

「んー」

 

 それにしても、スレッジさん本当に語尾をエロジジイにしちゃったんだ。もちろん、突っ込んで聞くのはいけないことだと思うし、言及はしないよ。

 

『やれやれ、難儀しておるようじゃな』

 

「あ、おろちちゃん。えへへ、ゴメンね?」

 

 突然心に語りかけられて振り向くと、呆れたような五対の視線を向けられて、ボクは苦笑する。そもそも、ボクがここバラモス城に来ることが出来たのも、メタリンを仲間に出来たのもおろちちゃんの協力が大きい。

 

「もうちょっとボクに慣れてくれたと思ったのになぁ」

 

 アリアハンを旅立った後、スライムに襲われて、一時期スライム恐怖症になりかけたボクがまさかメタルスライムを仲間にすることになるなんて、風邪で寝込むまでは思いもしなかった。

 

(全ては、あの日――)

 

 そう、懺悔をするためにアリアハンの教会に足を運んで、二人目のお師匠様に出会ったのが、きっかけだった。

 

 

「そ、そこの君」

 

「えっ?」

 

 教会の廊下を歩いていたボクが振り返ると、ベッドに寝かされてるやつれた男の人がいて、訊ねてきたのだ。

 

「サマンオサが平和になったというのは……本当かね?」

 

「あ、はい。勇者サイモンさんが、魔物に化けていた偽物の王様を倒して、囚われの身だった本物の王様も救い出されたって聞いてます」

 

 流石にその討伐に同行していた何て言えないので、サイモンさんのことだけ言うと、その人は「そうか」と呟いてからしきりに「良かった」と繰り返した。

 

「ひょっとして、あなたはサマンオサの人なんですか?」

 

「ああ。私はサマンオサで魔物使いをしていてね……」

 

 反応から予想して問うと、二人目のお師匠様となるその人は、頷いて身の上を語り始めた。

 

「サマンオサには魔物同士を戦わせる格闘場があるんだけど、私はそこで戦わせる魔物を外でてなづけ、魔物が戦う時には影から指示を出すのが仕事なんだ」

 

 この人、名をロディさんと言うのだけど、ある日新人の魔物使いが連れてきた魔物が城下町に出て行くのを目撃してしまったそうなのだ。

 

「おそらく、王様に化けていた魔物と言うのがその魔物だったのだろうね。拙いところを見られる形になった私を偽物の国王は適当な理由をつけ、ほこらの牢獄という僻地にある牢獄へ幽閉したんだ」

 

 それで、助け出されはしたものの衰弱して今だ満足に身体が動かないのだとか。

 

「あ、そう言えば……」

 

 よくよく考えると、ボクは前に一度この人と会っていた。確か、マシュ・ガイアーと名乗ったサイモンさんと出会った時、ロディさんと同じ髪の色をした人がサイモンさんに抱かれていたのを朧気ながら覚えている。

 

「そっか、あの時助け出されたんですね」

 

 事情がわかってからロディさんとは一気にうち解けた。いろんな話もしたと思う。

 

「そうか、そんなモノがあるとは世界は広いね」

 

「ですよね、ボクも最初はただのえっちな下着だと思ったんですけど――」

 

 風邪もだいぶ良くなって、念願の二枚目の小さなメダルを見つけ、メダルのおじさんからガーターベルトを譲って貰ったこととか。

 

「そこでアランさんが何て言ったと思います?」

 

「え? 僧侶の人ならこう、無難なことを言ったのでは?」

 

 真面目なのに時々とんでもないことを言い出すアランさんのこととか。

 

「そろそろ返事が来ても良いと思うんですけど」

 

「そうですね。じゃあ……」

 

 ロディさんからは家族がサマンオサにいるはずだが、投獄されてから連絡出来ず、ようやく安否確認の手紙は出せたが返信はまだだと聞いて、ボクがルーラで確認してこようかと提案した時は、やんわり断られ。

 

「魔物のてなづけ方、ですか」

 

「お願いしまつっ」

 

「……仕方ありませんね」

 

 仲良くなったボクが、魔物使いの心得を教えて欲しいと頼み込むことになるとロディさんは、いやお師匠様は見抜いておられたのだと思われる。

 

「私も人に助けられた身、出来ればその方にお礼をと思っていましたが、この身体ではいつ果たせるかも怪しい。貴方も見た私を抱えてここまで連れてきてくださった方の力になって下さるなら、お教えしましょう」

 

「じゃ、じゃあ」

 

「風邪が治ったら旅に出られるのでしたよね? 時間もありません、指導は厳しくなりますよ?」

 

 実際、二人目のお師匠様の指導は厳しかった。その上、魔王の影響下にあるこの世界ではてなづけた魔物も大半が自分達を襲わせないようにするのが精一杯で、一緒に戦ってくれる戦力にもならないとも教えられた。

 

「ただ、中には例外も居ます。高い知力を持った魔物や高位の魔物、呪文などの影響を極端に受けない魔物ならあるいは」

 

 結果から言うなら、メタリンを仲間に出来たのは、このお師匠様の助言があったからだ。それともう一つ――。

 




いやー、ほこらの牢獄で蘇生した人の伏線、ようやく回収出来ました。

長かったなぁ。

次回、番外編13「ついにここまで来たけれど2(勇者視線)」

アリアハンに戻ったシャルロットがその後何をしていたか、回想は続く。


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