強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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番外編13「ついにここまで来たけれど2(勇者視線)」

 

「ジーンさん、だっけ」

 

 ロディお師匠様から魔物使いとしての心得を学んだボクがルーラの呪文でまず向かったのはジパングだった。

 

「さっちゃん達は居ないし……」

 

 今からポルトガに飛んでもきっとサラ達には追いつけない、だいたいスレッジさんに修行して貰って強くなったみんなからすればボクはたぶん足手まとい以外の何者でも無いと思う。だから、ジパングに向かったのは、修行の為。

 

「一緒に修行したジーンさんならきっと詳しい修行方法とかも知ってるよね」

 

 魔物を呼ぶ口笛の吹ける遊び人と、ピオリムの呪文が使える僧侶が必要なのは知っている。

 

「遊び人のあてはないけど、詳しい修行方法が解れば代用がきくかも知れないし」

 

 エミィとサハリさんなら実力的な面の問題でサイモンさんの所には向かわずアリアハンで留守番していた筈なので、遊び人と盗賊以外なら人員心当たりはあった。

 

「うん。まずはジーンさんを探して話を聞いてみないと」

 

 ただ、この時のボクはジーンさんを捜し当てて修行のことを聞こうと思っていただけだったのだ。

 

「お前かえ、ジーンを探しているというのは?」

 

「あ、はい」

 

 なのに何故か、ジパングのちょっと偉そうな人に呼び止められて、気がついたら女王様の前にまで引っ張り出されていた。

 

(確かこの人……魔物なんだよね)

 

 風邪で寝込んでいた時、ベッドのボクにお師匠様は手作りのご飯を食べさせながら教えてくれたのを深く心に刻み込んだから、しっかり覚えている。あ、うん、別にふーふー覚ましてからスプーンを差し出してくれたところとかがメインでこっちの情報がおまけだったなんてことは無いと思う。

 

(お師匠様は変なことはしないだろうって仰ってたけど)

 

 だったら、何故自分が呼ばれたのか、と言う謎が残る。けど、流石に当人と言うか、当の魔物に効く訳にも行かない。

 

「ジーンの追っ手が娘一人と言うことはあり得ぬ、となれば……お前、わらわのことを誰ぞより聞いて居らぬかえ?」

 

「えっ」

 

「ふむ、即答はせぬか。まぁよい。これ、お前達は席を外せ。わらわはこの者に話がある」

 

「話?」

 

「右手に爪のついた手甲、身体には暗い青のころもを纏った男、お前は知っておろう?」

 

 本当に話で済むのか、ひょっとしたらお師匠様達に対しての人質に捕まえるつもりなんじゃないか、とも思って密かに警戒するボクの前で、偽の女王、やまたのおろちは語り始めた。今まで何人もの若い女の人を食い殺したこと、その日も生け贄に捧げられた娘を喰らおうとして、とある男に襲われたこと。

 

「わらわは、その男と約定をかわした。じゃから、人は襲えぬ。もっとも、今は約束に縛られずとも人を襲うつもりなどないのじゃがな」

 

 どことなく自嘲するように語ったやまたのおろちは、言う。男に自らの愚かさを思い知らされた、とも。

 

「わらわはの、あの男の力になりたいと思うておる。最初は保身の為じゃった……じゃが」

 

「今は違う、と?」

 

 ボクが問うと、おろちは複雑そうな顔で首を横に振った。

 

「あの男に逆らえば、わらわの命はない。故に、今、お前にこうして協力したいと申し出て居るのにも保身の意味合いがないとは言いきれぬ」

 

 ただ、他にも理由があると偽の女王は言った。

 

「お前の言うジーンと言う男が修行をする姿をわらわは密かに見ることとなったのじゃが、その時にとある方の姿を見たのじゃ」

 

 そのとある方というのは、おろちの話を聞いたところジーンさんと言うよりもどうやらサラ達に力を貸していてくれたみたいなのだけれど、一頭のドラゴンなのだとか。

 

「修行に付き合っていたあの方に、もう一度お会いしたいからでもあるのじゃ」

 

「そっか」

 

 裏があるんじゃないかとか色々警戒していたけど、男の人を慕う気持ちからと協力したいと言うなら理解も納得も出来た。

 

「ほ、他にも理由はあるのじゃが……お前を強くすれば、あの男の心証も良くなろう」

 

「えっ、じゃあ、まさか……」

 

「幸いと言う訳ではないが、修行に使われていた洞窟はわらわの支配下、魔物も大半はわらわの僕じゃ。一部例外もあるのじゃがな」

 

 ボクが強くなる為の修行に、バラモスの部下であるはずの魔物から協力して貰うなんて、アリアハンを旅立つ時には思いも寄らなかった。

 

「と言うか……今でもちょっと信じられないけど」

 

 おろちは言う。

 

「今までのこともある、信じて貰おうなどと虫の良いことを言うつもりはない」

 

 と。

 

「どちらかというと本を燃やしてしまったことがバレた時のことを考えると、ここで点数稼ぎをしておかないと、わらわは……わらわは」

 

「本?」

 

「な、何でもない。そも、お前には関係のない話じゃ」

 

 譫言のようにブツブツ言っていたのでちょっと気になったけど、協力してくれると言う相手に深く突っ込んで聞ける筈もない。

 

「と、とにかく。ジーンと言う男のことも知って居る。家まで案内させるからお前は詳しい話を聞いてからもう一度わらわを訊ねよ。修行場所の洞窟ならばわらわの力を使えばここから一瞬で行ける」

 

「あ、ありがとう……ございます?」

 

「何故疑問計なのじゃ?」

 

「えっ、保身の為だって言ってたし、魔物に敬語も変かなぁって思って」

 

 一応偽物でも女王様だからつけておいた方が良いかなぁとも思ったけど、こんな会話聞かれていたら不敬罪とかどころじゃないような気もするし。

 

「くっ、事実だけに言い返せぬ。と、ともかく修行は手伝うが、手は抜かぬ。厳しいものと覚悟して望むのじゃぞ?」

 

 悔しそうに呻いたおろちはその後ボクに退出を促し、屋敷にいたジパングの人に案内されてジーンさんと再会したボクは知ることになる。

 

「そうか、あれをやるのはあの男が居ないと厳しいと思うが、まあいい……メタルスライムという魔物は知っているか?」

 

 スレッジさんの行った修行の目的がメタルスライムを効率よく倒すことであったことを。

 




まさかのおろち全面協力で次回、シャルロット強化計画発動。

うん、バラモス城にやって来たシャルロットが強くなってないなんて誰が言った?

次回、番外編13「ついにここまで来たけれど3(勇者視線)」


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