「ううん、さっきの話でボクもおろちちゃんと相談してたから」
「そうじゃったか、エロジジイ。ならばおあいこじゃの、エロジジイ」
おろちと何を話していたかが微妙に気になるが、こっち側の内緒話の中身を明かせない以上、何を話していたかとは聞きづらい。
「イシスに行って欲しいと言った理由はもう一つあっての、エロジジイ。少なくともここに来ておる人間はワシらだけじゃと言うのがもう一つの理由なんじゃよ、エロジジイ」
シャルロットがここに来た理由がお師匠様捜しなら、もう一押ししてやればとどまる理由は完全消滅する。
「もしお前さんの捜し人がこちらに来たなら、イシスに向かうよう伝えておくこともここで約束しておこうエロジジイ」
「そっか……じゃあ、伝言宜しくお願いしまつ」
「う、うむエロジジイ」
騙していることからくる罪悪感で心が痛いが、これはもう仕方ない。何処かで、埋め合わせはしないとなぁ。
「行こ、おろちちゃん、メタリン」
「フシュオオオオッ」
「ピキーッ」
何処か寂しげな覆面マント少女の背中に魔物達が従う姿にやはり胸は痛くて。
「仲間のことを想って厳しい修行に耐え成長したというなら、お前さんの捜し人はきっと誇らしく思うじゃろうよ、エロジジイ」
俺は思わず、その背に声を投げかけていた。
「っ、ありがとう……怪傑エロジジイさん」
振り返ったシャルロットの口にした感謝の言葉は、今の俺には受け取る資格もない。だが、応じなければこの場面では不自然すぎる。
「礼を言うのはワシの方じゃ、ありがとうエロジジイ。伝言をよろしくの、エロジジイ」
こちらから頼み事をしたことにかこつけてありがとうを返し。
「エリザさんだっけ? 宜しくお願いしまつ」
「あ、は、はいっ」
袋を漁ってキメラの翼を取り出し、エリザに差し出すシャルロットを眺めながら強く手を握りしめる。
「いっ、イシスへっ」
やがてエリザがキメラの翼を放り投げれば、三人と一匹の身体が中に浮かび上がり。
「えっ、ちょ、おろちちゃん?!」
「何じゃ、町の前に本来の姿で降りるのは拙かろう?」
「た、確かにそうかも知れませんけれど、そっ、その服を着た方が――」
何だか約一名素っ裸で北へと飛び去っていった。
「あー、うん、その、何じゃエロジジイ」
あれはきっと着いたところで騒ぎにはなるんじゃないだろうか、別の意味で。
(おのれ、バラモス)
そも、バラモスが侵攻など始めなければシャルロット達と普通に冒険の旅を出来た筈なのだ。いや、エリザのことを考えるなら悪いことばかりではなかったけれど。
「どちらにしても、魔王が侵攻なぞせなんだら平和に暮らしていけた人々がどれ程いたことかの、エロジジイ」
後悔は、させてやろう。
「べ、別に八つ当たりとかそんな訳ではないぞエロジジイ?」
「……スー様、あたしちゃんいくら何でもそれは無理があると思う」
「ぬ?」
独り言にツッコミが返ってきたと思えば、いつの間にかそこには黄緑ローブの覆面さんがいて、口調からするとスミレさんだろう。
「けどっ、まさかおろちが来るなんてっ」
「話を聞く限りは、こちらに協力するつもりの様だったけれど……」
ぞろぞろ姿を現した偽エビルマージなお姉さん達の言わんとせんことは解る。解るつもりだ。
「お前さん達からすると複雑じゃろうな、エロジジイ」
あの態度が擬態であるなら話は早いのだが、それならわざわざシャルロットを育てる何て手の込んだ自滅行為はしないだろう。
「だが、このまま行けば顔を合わせる事態もありうる、エロジジイ。何らかの決着をつける機会は作るべきじゃろうな、エロジジイ」
自分で選んでおいて何だがめんどくさい語尾にちょっとだけ煩わしさを感じつつ、ポツリと漏らした俺はちらりと城の方を見た。
「ともあれ、今はそんな余裕もないようじゃの、エロジジイ」
感じ始めた地面の揺れ。巨体を動かし城門を出てこちらにかけてくるのは、石で出来たもみ上げが特徴的なオッサン。
「うごくせきぞう、じゃのエロジジイ。まぁ、外で魔物を倒しておるのじゃからもう味方だとは思わんじゃろうエロジジイ」
「と……言うことはっ?」
「嫌がらせ開始じゃな、エロジジイ」
声色から覆面の中で顔が引きつってる推定商人のお姉さんにサムズアップを返すと、俺は声に出さず呪文を唱え始める。
「始めるぞ、エロジジイ。一人目の僧侶はピオリムをエロジジイ、ドラゴラムッ」
「はいっ、ピオリム」
返事に続きツバキちゃんが呪文を唱えた時には既に俺ノ身体ハ竜に変ワリ始メテオリ。
「グルァァァァァッ」
イヨイヨ始マルノダ、俺達ノ嫌ガラセガ。
短くてごめんなさい。
イシスへ飛んで行く裸の偽ヒミコ。
着替え渡してやれば良かったと主人公が気づいた時にはもう手遅れで、いろんな意味で鬱憤の貯まった主人公は大暴れする。(おそらく)
次回、第百八十五話「おじゃまします、もしくは蹂躙します?」
限りなく後者の気がする12月の早朝。