強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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番外編14「イシス攻防戦4(勇者視点)」

「とりあえず、空を飛んでいる魔物の群れについては、来るとすれば早くて明日だな」

 

「地上の魔物はどうなったのでありまするか?」

 

「ああ、そっちだったらアンタのくれた情報通りだった。砂漠をうろつくミイラ共が傷だらけのかえんむかでを襲ってるって目撃例もあった。あの様子じゃ相当足止めを喰らってるだろうからな」

 

 末席で話を聞く限り、決戦は明日なのだろう。格闘場でおろちちゃんと別れたボクはエリザさんとそのお知り合いと合流し、イシスのお城に向かい、今こうして打ち合わせに加わっている。

 

「しかし、内部潜入しての工作まで行っていたとは、魔王も本気のようだな」

 

「ああ、末席にいる魔物使いの嬢ちゃんが何とかしてくれたって言うヤツか」

 

 こちらに視線が集まったので、ボクは頷いておく。男の人達の視線が身体に行くのがちょっと気になるけど、視線の主がお師匠様じゃないとどうもあんまり嬉しくない。

 

「戦いに魔物を出すと混乱の元になると思いますので、明日はボクだけで参戦させて貰います」

 

「むぅ、戦力が少しでも欲しい時期ではあるが致し方あるまいな」

 

「ま、魔王の影響で格闘場の外じゃ大半の魔物は魔物使いの言うこと聞きゃしねーし、しゃあねぇな。かといって格闘場まで魔物を引っ張ってくる訳にもいかねーし」

 

 やはりおろちちゃんの出番はなさそうだった。

 

「その件はもうそれぐらいで良かろう。次に、空から襲ってくる魔物についてだ。空を飛ぶ魔物相手では城下町の壁も足止めにはなるまい。勿論隠れ場所、魔物の攻撃を遮る盾には使えるものの」

 

「真上から狙われた場合何の意味もありませぬな」

 

「うむ。むしろこちらが逃げ場を失うことにもなりかねん。その前に撃退出来ればいいのだがな」

 

 話を聞く限り、空を飛ぶ魔物達が相当厄介だと言うことはボクにだって解る。アリアハンでナジミの塔に向かう途中、おおがらすに空を飛ばれて倒すのに苦労した記憶だってあるのだ。

 

「……武器が届きにくい場所に居るって言うのが厄介でつね」

 

「ああ。高い位置にいる場合は攻撃呪文の使えるモノと弓や投石に投げ槍、砲撃くらいしか対抗手段がない。鍛冶屋は昼夜を徹し、矢や槍の生産に追われているが、それで充分な数が揃うか……行商人を襲った愚か者共め、こんな場所までまで足を引っ張ってくれる」

 

「襲った?」

 

「ああ、君はまだここに来たばかりだったか」

 

 耳を疑ったボクの言葉へ首を縦に振ったのは、青い鎧を付けたお城の兵隊さんだった。

 

「この国がバラモスの軍勢に襲われるかもしれないと聞いて、様々な物資を売りつけに来た商人達が居たのだが、その中のがめつい連中が足元を見て品物の値段をつり上げてな」

 

「怒った町の連中がそのぼったくり商人を襲って品物を奪った。ただ、それを見て自分達もモノが欲しいから同じ事をやってやろうととでも思ったのか、一部のアホがごく普通の商人や善意で物資を届けに来た奴にまで襲いかかって、イシスに物を持ってくる人間が殆ど居なくなっちまったって訳さ」

 

「……そんなことが」

 

「どうも、そっちの方も嬢ちゃんの始末してくれた格闘場に潜入してた奴らが煽ったり後ろで糸を引いていたって説もあるんだけどな、証拠もないし、アホやらかした連中も主立った奴は見せしめに処刑されちまってるか、奪ったキメラの翼で逃げ出してる。後者は指名手配されたらしいけどなぁ」

 

 そっちに人を割くことも出来ないと言うことなのだろう。

 

「忌々しくはあるが、無い袖は振れん。町の住民は地下にあるモンスター格闘場へ避難させ、我々は壁や建物の影から空を飛ぶ魔物共を撃ち落とすと言う戦いになるだろう。時に、君は攻撃呪文を使えるか?」

 

「えっと、少しくらいなら。ベギラマとかイオラとか……」

 

 ライデインをあげるべきか少し迷ったけど、成り行きで魔物使いと言うことになってしまったので無難なモノだけにしておく。

 

「おおっ、それは凄い。なら、これを持っていってくれ」

 

「これは?」

 

「いのりのゆびわと言ってな、指に填めて祈ると精神力を回復してくれる品だ。何度か使うと壊れてしまうらしいが、出し惜しみはしていられん」

 

「いいんですか?」

 

 わざわざ聞いてしまったのは、この人が指輪を裸ではなく箱に入れて大切そうに持っていたからだと思う。

 

「ああ。うちの家宝だが、死んでしまってはもともこも無い。第一私は呪文が使えないのでね」

 

「……ありがとうございます」

 

 少し迷ったものの、ボクは差し出された指輪を受け取ると荷物袋にしまい込んだ。

 

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。君には我々が見過ごしていた脅威を排除して貰った借りがある。もし使うことが無くこの戦いが終わったとしても、それは君が今後に役立ててくれ」

 

「えっと……兵士さん」

 

「ヴァイス、だ。一応兵士長をしている」

 

「ぼ、ボクはシャーリーって言います。あの、本当にありがとうございまちた」

 

 ちょっとだけ決まり悪そうに名乗った兵士長さんに、名乗り返して頭を下げる。いい人だった。

 

(勝たなきゃ、この気持ちに応える為にも)

 

 ボクは後ろ手に拳をぎゅっと握りしめると密かに決めたのだった。全力を尽くすと。

 




その口調
名前は出ぬに
関わらず
居るの隠せぬ
クシナタさんかな

                        闇谷 紅


シャルロット「あれ?」

そんな感じで、次回、番外編14「イシス攻防戦5(勇者視点)」

多分そろそろ開戦っ!

何一句詠んでるんですかと言う苦情は受け付けませんっ!(キリッ)

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