強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第十九話「ルビスの使い」

「っ」

 

「あら、起きたの?」

 

「起き……た?」

 

 身を起こした俺は、横から聞こえた声の方へ首を向ける。

 

「そうよ、寝不足だったんでしょ? 話の途中で静かになったと思ったら座ったまま寝てるのだもの」

 

(じゃあ、あれは夢か)

 

 夢オチとはベタだなと思うべきか、夢で救われたと思うべきか。

 

(そうだ、助かったんだ。もしあのままなし崩しに神の使いだとかルビスの使いだとかに勘違いされていたら)

 

 ゾッとする。今以上に面倒なことになっていたかも知れない。

 

(少なくとも王様との話は機先を制さなきゃ駄目だな。いっそのことこっちからある程度の実力はあると打ち明けて追求を避けるのも)

 

 とにかく、失敗も神の使い扱いもごめんである。

 

(今度こそヘマせず王にあって帰ってきてみせる)

 

 俺は決意も新たにベッドにしていたソファから腰を上げると。

 

「ところであなた、『ルビスの使い』がどうのって寝言で口にしていたのだけど」

 

「えっ」

 

 ルイーダさんからの爆弾発言で見事に石化した。

 

(おもったやさきに、まためんどくさいことになりましたよ)

 

 夢オチで失敗は無かったことになったかと思ったら、とんでもない自爆をしていたらしい。

 

「ルビスってあのルビス様のことじゃないわよね?」

 

(っ、どうしよ? ここはどう答えるべき)

 

 正直に話すのは、王様が勝手に勘違いしたという方向ならアリかも知れないが、この場合どうして勘違いしたんだと言う話になってくる。

 

(となるとでっち上げるか、そんなことは言ってないととぼけるか)

 

 ルイーダの酒場の女店主相手に聞き違いだろうととぼけて誤魔化せるなんて俺は思わない。酔っぱらいからヒャッキ達のような手練れまでを相手にする大人の女性に中身が一般人の俺がどうこう出来ないのは、眠ってしまうまでのやりとりで既に発覚済みでもある。

 

(下手すれば手玉にとられて、かえって弱みを握られかねないよなぁ)

 

 いつものように棒読みで「わかります」とか付け足してしまいたくなるほどに、予想出来る未来で。

 

「女だ」

 

「女?」

 

「女の夢を見た。あまりに美しかったのでな、ルビスの使いかと思った。ただそれだけのことだ」

 

 俺が短い時間で必死に考えた言い訳は、全く関係ない単なる比喩表現ということにするものだった。

 

(うんうん、これならツッコミどころはないはず)

 

 美しい女性を「天使」や「天女」だと思ったとか褒めること自体はままあるはずだ。

 

「ふぅん、女ねぇ。ところで、その人って私と比べたらどうかしら?」

 

 だから、俺はそんな切り返しが来るとは言われるまで気づかなかったのである。

 

(いやー、女性の前で他の女の人が美しいといった時点で失敗だって気づくべきだったよね)

 

 ルイーダさんからようやく解放された俺は、遠い目をしつつ気づけば衛兵さんの後ろを行く形で城の中を歩いていた。

 

「王様はこの上におはします」

 

「そうか、手間をかけた」

 

 そう、いよいよテイク2であった。二階の階段まで送ってくれた衛兵さんはそこで立ち止まり、俺は礼の言葉を口にして階段を上がる。

 

(二度と失敗はしない、まずは機先を制して圧倒する)

 

 ここからは、俺の戦場だ。

 

「ひっ」

 

「うわっ」

 

 滲み出る俺の気魄に圧されたのか、目のあった兵達がいきなり仰け反り。

 

「っ、お、王をお守りしろっ!」

 

(え?)

 

 それでも声を張り上げた一兵士の発言で、俺は内心慌てて、ゆっくりと周囲を見回す。

 

「き、貴様、武器を捨てて手を上にあげろっ!」

 

(あー、気合い入れすぎて殺気と受け取られちゃったってオチですか?)

 

 予想外だった。ぶっちゃけ解錠呪文アバカムを使える身としては、このまま捕まって牢獄に放り込まれたところであっさり抜け出せるのだが、勇者達に火の粉が降りかかりかねない。

 

「まったく、呼びつけたのはそちらだろうに」

 

「なっ」

 

 俺の言い様に兵士達が気色ばむが、動じた様子を見せず「まじゅうのつめ」を絨毯の敷かれた床に落とす。

 

「はっ、えらそうなことを言っておいてそれか。まあいい、次は両手を頭上に――」

 

 嘲るように笑いつつも武器を捨てたことに気をよくした兵士の一人が命令してくるが、聞く気など更々ない。

 

「遅い」

 

 レベル99盗賊の素早さを舐めて貰っては困る。命令が終わるよりも早く兵の合間をすり抜けた俺は王のすぐ側にいた。

 

「ばっ」

 

「馬鹿な」

 

 愕然とした兵士達が此方を振り返るが、いくら中身が一般市民の俺でも水色生き物やおおがらすと戦いを経てこの身体もある程度は使えるようになっているのだ。

 

(対人戦の訓練になるかと思っていた女戦士との果たし合いは、アレだったけどね)

 

 ああいう手合いと事を構えることは、もう無いと思いたい。

 

「俺が王を害する気なら、貴様等など居ても居なくても変わらん」

 

 これは、純然たる事実だ。使っていないがそもそも俺は呪文が使える。武器が無くても攻撃呪文で兵士ごと纏めて消し飛ばしてしまうことだってスペック的には出来るのだ。

 

「そして、これが何かわかるか?」

 

「そっ、それは俺の剣」

 

「サブウェポンの注意を疎かにしすぎだ。俺が刺客なら王はお前の剣で今頃刺されて居るぞ」

 

 言いつつ、俺は兵士の一人から失敬した剣も絨毯の上に投げ捨てる。

 

「うぐっ」

 

 実際剣を奪われ王のすぐ側までくせ者を通した兵士は、呻きこそすれ何も言えない。

 

「で、次はどうする?」

 

「くっ」

 

「むむむ」

 

 挑発的な目を向けつつ俺が聞き返しても、兵士達は俺をにらむだけ。

 

「っぷ、くくくくく……ふはははは」

 

 かわりにすぐ側から聞こえた吹きだし笑いが、爆笑にかわり。

 

「……見事じゃ、流石は勇者の師よ」

 

「この程度、たいしたことはない。それよりも俺を呼んだ用件だが、勇者の近況報告のみで間違いないな?」

 

 不遜な態度で俺は王に尋ねた。

 

 




気合いを入れすぎたら暗殺者と間違われたでござる、ニンニン。

これはあり得たかもしれないもう一つの展開。

(元本編は別のお話に移転されました)

カンストキャラだとばれるのが、別のお話。ばれないのがこのルートですね。

そんな訳で、実は展開を複数考えていたので、夢オチにして二つ目も使ってみたというのが真相。
別のお話の方が突発的に思いついた展開で、こっちが前々から考えてた展開です。
主人公がポカしすぎるのも不自然ですからね。
かといって没にするのも勿体ないと言う。

感想見ると最初の展開が予想外に好評でしたがその後に問題がありましたので、以後このルートをメインルートで進めようと思います。

そんな感じで続きます。

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