強くて逃亡者   作:闇谷 紅

220 / 554
番外編14「イシス攻防戦6(勇者視点)」

 

「フシュアアアアッ」

 

「ひぃっ」

 

「おい、びびってんじゃねぇ!」

 

 ドラゴンというのは巨体も相まって外見だけで人を恐怖させるには充分だと思う、けど。

 

「イオラっ」

 

「グギャァァァッ」

 

 ボクが呪文で咲かせた爆発の花は先陣を切って突っ込んできた細長い水色をしたドラゴンたちの殆どを巻き込んだ。

 

「グゥゥ、フシャァァァッ」

 

「っ、やっぱり」

 

 だが、その呪文も一発ではドラゴンを倒すに至らない。視界に捉えた一体が片腕を失っているところを見るとそれなりに手傷は与えたみたいだけど、このままじゃ反撃が来る。顔をしかめたボクは――。

 

「いや、よくやってくれたぜ! 後は任せろ」

 

「え」

 

 思わず振り向きかけた視界の片隅で勢いよく何かが飛んで行くのを目にした。

 

「ギャアアッ」

 

「おらぁ、野郎共! 細長トカゲは弱ってんぞ、お前等も撃てぇっ!」

 

「「おおっ」」

 

 飛んでいったモノを視線で追った先には、顔に矢を突き立てて空中でのたうつドラゴンの姿があって、矢を放った人のモノと思える声に呼応するように鬨の声があがる。

 

「うらぁ、落ちろぉ!」

 

「てめぇを仕留めて防具にしてやるぜ、当たれぇっ!」

 

「メラッ」

 

「纏めて燃やし尽くしてやるっ、ギラッ!」

 

 飛んで行く、矢と投げ槍、石や火の玉。あちこちから放たれる攻撃に晒されたドラゴンたちは数匹纏めて包み込む様に放たれた呪文の炎に包まれ、炎上しながら身をくねらせ、墜ちて行く。

 

「ドラゴン共が墜ちてくるぞ、落下に巻き込まれるなよっ」

 

 誰かがあげた警告の声を待たずして、巨体が落下した衝撃によって地面が揺れ、砂煙が上がる。

 

「くはははははは、ざまぁみろ! この程度でこのイシスを落とせる訳ねぇだろ!」

 

 ピオリムの呪文で素早く動けるように援護して貰ったことと、物陰に隠れて不意をついたのが良かったんだと思う。ここまでは、目に見えた被害もなかった。

 

「馬鹿野郎油断すん」

 

「ベギラマ」

 

「っぎゃぁぁぁぁぁ」

 

 空を指さして笑っていた男の人が一瞬にして燃え上がる。

 

「っ」

 

 ボクは咄嗟に建物の影に飛び込んで伏せ。

 

「ひぇひぇひぇひぇひぇ、全部倒したと思ったかの? 油断しすぎじゃわい」

 

「っ」

 

「ちぃっ、呪文の効いて無いのが混じってやがったか。応戦しろぉ、それからあの馬鹿を引っ込めて手当を」

 

 笑い声に釣られて見上げれば、箒に跨った人影がボク達を見下ろしていて、最初に矢を放った人の声が周囲に響いた。

 

「させぬわ、ベギラマっ」

 

「な、うぎゃぁぁっ」

 

「うぐっ、新手か。野郎共っ隠れろっ」

 

 何処かで上がる絶叫と、苦々しげなさっきの人の声。

 

「呪文で不意打ちしてくることは、学習済みじゃ。まぁ、馬鹿なスノードラゴンやフロストギズモ共はワシらと違ってその程度のことも理解出来んかったようじゃがなぁ」

 

「高く飛び上がれば、矢も槍も届かん」

 

「ひひひ、さっきの爆発やら火の玉でやり合ってみるかのぅ?」

 

 上空から聞こえる声の数からすると、建物で死角になってる場所にも、おそらく箒に乗った魔物は居る。しかも、ボクのイオラや周囲に居る人の攻撃呪文は殆ど効果がないみたいだった。

 

(これは、躊躇ってる場合じゃないよね)

 

 ボクにはまだ使ってない呪文が、一つある。

 

「おやおや、打つ手無しと見て黙りのようじゃぞ?」

 

「なんじゃ、つまらんのぅ」

 

 こっちからの反撃が殆ど脅威で無いと見たのか、周囲の人達が反撃を止めて隠れてしまったからか、上空の魔物達は明らかに油断していた、だから。

 

「ライデイン!」

 

「あぎゃぁぁぁっ」

 

 ボクの唱えた呪文で生じた雷は、一瞬で魔物の一体を焼き焦がした。

 

「ばっ」

 

「何じゃ、今の呪文は?!」

 

 見慣れぬ呪文で、しかも仲間を一撃で倒された驚愕で空にいた魔物達の動きが止まり。

 

「今だ! 野郎共ぉ!」

 

 いつの間にか屋根に登っていた男の人が、矢のつがえられた弓を引き絞り叫んだ。

 

「があっ」

 

 同時に放たれた矢が、魔物の一体を貫き、バランスを崩したその魔物は傾ぎ、箒を手放して地面に激突、そのまま動かなくなる。

 

「高さが足りなきゃ補えばいい、動いてねぇのに当てるなんざ余裕なんだよ」

 

 どうやらさっきの人は隠れるだけじゃなくて反撃の方法も考えていたみたいだ。

 

「お、おのれ! 皆、もっと上に逃げるんじゃ!」

 

「じゃ、じゃがあまり離れては呪文が届かなくなるのでは……」

 

「ライデイン」

 

「ぎゃあっ」

 

 上空でもめ始めた魔物を見つけたボクは、隠すつもりだった呪文で更にもう一体を焼き焦がす。姿はあまり違わないように見えたけど、他の魔物と服の色だけ違う赤い服を着た魔物が居たのだ。多分指揮官だったんじゃないかなと思う。

 

「ひ、ひぃっ」

 

「に、逃げろ、このままではあの呪文でねらい撃ちじゃぁっ」

 

 先程の繰り返しを見せられているかの様に空で一瞬固まった魔物達は、先を争うように逃げ始め。

 

「はぁ……」

 

 ボクは脱力してへたり込んだ。

 




魔女達が逃げ出したのは、主人公の不意打ちがトラウマになってたからだったりします。

もっとも、シャルロットはそんなこと知らない訳ですが。

次回、番外編14「イシス攻防戦7(クシナタ視点)」

同じ攻防戦を今度は別の戦場から見る形になります。一応、ヴァイスさんがいるのもこちら。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。