強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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番外編14「イシス攻防戦7(クシナタ視点)」

 

「ば、馬鹿なワシの呪文が跳ね返るじゃと」

 

「今だ、弓兵っ」

 

「皆様、回復を」

 

 マホカンタの呪文が余程想像の埒外だったと思われまする。跳ね返った呪文に驚愕し、狼狽えるを睨み、ヴァイス様が声を張り上げると同時に、私も指示を出しました。呪文を反射出来るのは、術者の。ならば、攻撃呪文を誘発する為に固まっていた方々はあの魔物の呪文で怪我をされたはず。

 

「「ベホイミ」」

 

「うぐ、すまねぇ」

 

「助かった」

 

 隊にいる僧侶の皆が、指示の通り回復呪文で傷を癒し。

 

「ぎゃぁっ」

 

「うげぇっ」

 

 空に居た魔物達は、ヴァイス様が率いた兵による弓の斉射で射抜かれ、墜ちて行く。

 

「ひ、ひぇぇ、逃げろ! 皆、逃げ」

 

「ヒャダルコっ」

 

「ぎゃぁぁっ」

 

 かろうじて矢を免れた者も、呪文を跳ね返し、手の空いた誰かの攻撃呪文を受けて、悲鳴をあげながら錐もみ落下する。東側、スー様の愛弟子であられるシャルロット様が居られるあちらと比べると、敵の数、質共にこちらの方が上なのは、おそらく本隊と交戦するに相成ったからでありましょう。

 

「うむ。雲と竜は最初の呪文による爆発で一掃、残ったあの魔女共も反射に怯んだところを、部下の弓と魔法使い殿達による氷の呪文でほぼ殲滅。第一陣は何とかなったようだな。あなた達のお陰だ、私と兵達だけではこうは行かなかっただろう。感謝する」

 

「礼には及びませぬ。そも、退けたとは言えそれはまだ敵の一部。魔物達は数も備えておりまする。今の内に休養を。皆様も小休止を」

 

 こちらに頭を下げるヴァイス様に頭を振ると、私は皆にもいったん休息をとるよう告げてから、近くにある建物の影に腰を下ろしまする。

 

(先程の雷、おそらくはシャルロット様の……)

 

 勇者様の使われる呪文については、伝え聞いておりました。覆面で顔を隠しているところから察しまするに、勇者であることを伏せて行動なさっていらしたのでしょう。されど、あの空を飛ぶ老婆には対処手段が無く、やむを得ず勇者にしか使えぬ呪文を使ったのだと。

 

(主戦力を一番重要な場所に置くのは当然とはいえ、申し訳ありませぬ)

 

 秘匿していた呪文を使わせることとなってしまうとは。

 

「あの呪文を知る魔物が居るとすれば、東に注意が向いてしまうやも……」

 

 ある程度数で責めてきても、シャルロット様には爆発を起こす呪文がありまする。ただ、あの呪文の効きづらいヴァイス様が魔女と呼んだ老婆が数で攻め寄せれば、多勢に無勢。そもそも、勇者様の実力を頼りにした東側はその分、実力の低い者が多く割り振られたと聞きまする。町の皆様の避難されている格闘場が西側、お城も北西にある関係上、精鋭をこちらに配す必要がありますれば、この配置に異議など唱えられはしませぬけれど。

 

「隊長、第二陣が」

 

「っ、ゆっくり考える時間もありませぬか」

 

 声をかけられて、見上げれば先程よりも多くの魔物が空を覆い尽くし。

 

「「イオラ」」

 

「グギャァァァッ」

 

 複数の光が、魔物の群れの中に生まれるなり炸裂する。

 

「ぬ、おのれぇっ」

 

「「ヒャダルコ」」

 

「ひっ、ひあがっ」

 

 間髪おかず、今度は冷気が爆発を抜けてきた箒で空飛ぶ老婆達を氷で包み、巨大な雹にに変えて地面へと落とす。

 

「むぅ、流石だな……と言いたいが」

 

「はい、数が多すぎま」

 

「フシュアァァァァッ」

 

 ヴァイス様とこちらの会話を遮るようにボロボロの竜が咆吼を上げ。

 

「よくも仲間をっ、ベギラマぁっ」

 

 半身を凍り付かせながらも箒に跨った老婆が、墜ちるような早さで突っ込んで来ながらデタラメに炎をばらまく。

 

「くっ、これでは応射させても兵に犠牲が出るか、ならばっ」

 

「ひぇひぇひぇひぇ、こうなれば道連れに゛っ?!」

 

「ふ、手負いの相手なら一撃で仕留められねばな」

 

 殆ど捨て身の突撃をかけてきた魔物を、投槍の一撃で撃墜されたヴァイス様は、口元をつり上げると、右手を引かれ。

 

「ふむ、少々拉げたがもう一投くらいは使えるか」

 

 結びつけられた細い綱に引っ張られ戻ってきた槍を見て呟かれました。

 

「と格好は付けたが、君が援護をしてくれたのだろう? 確かその剣には敵の守りを弱める力があると聞いた」

 

「はい。弓を扱う皆様のお力になればと」

 

「うむ、実際助かっている。本来なら重ねて感謝したいところなのだが」

 

 徐に右腕を引き絞りつつヴァイス様が視線を上に向けた時点で、どうしたのかと問う必要などもはやありませぬ。

 

「フシャァァァッ」

 

 落ちてきたのは、片角を折り右目の潰れた竜。大きく開いたあぎとはヴァイス様を噛み砕こうと極限まで開かれ。

 

「おおおっ」

 

 口の中にヴァイス様の投じた槍が飛び込んだ瞬間でありました。

 

「クェエェッ」

 

 空の上で鮮やかな薄い紅色の猛禽が鳴いたのは。

 

「なっ」

 

 ヴァイス様が声を上げた直後、潰れていたはずの竜の目や折れた角が一瞬にして元に戻り。

 

「ガッ、フシュオアアアアッ」

 

 投じられた槍を咬み負った竜は再び口を開けて、ヴァイス様へと襲いかかってきたのでありまする。

 

 




ああ、ヴァイスさん、フラグなんて立てるから。

おのれ、極楽鳥。このタイミングでベホマラーとか。

そんな感じで、次もクシナタさん視点。

次回、番外編14「イシス攻防戦8(クシナタ視点)」

バラモス軍の物量に、クシナタ隊は打ち勝てるのか?!

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