「わかった。大口を叩いて負けたのは私だ……ただ、恥を承知で頼みがある」
ほら来た、と言うべきか。すんなりと承諾することは無いのではと言う気が、何処かでしていた。
「頼み?」
「ああ。私は主も守れぬ役立たずだが、だからこそバラモス様に会っておきたい。無力と無能を詫びねばならん。隊長として責任をとらねばならん。その結果、失態を命で償うことになろうとも。もちろん、そうなれば、お前……貴方様との約束を違えることになりましょうが――」
「「レタイト様っ」」
「……はぁ」
そこまで聞いて、俺は嘆息する。馬鹿と言うべきか、こういう男だからこそ親衛隊の長に収まって居たのだろうなぁと言うべきか。親衛隊の皆さんが悲鳴に近い叫びをあげたのも、納得が行く。
「詰まるところ、お前さん一人で親衛隊全体の責任をとろうと?」
「はっ」
確認すれば、親衛隊長殿は頷き。
「そんな、レタイト様」
「我々もお供します」
「ならん。もしお前達もついてきて、そこでバラモス様が我ら全員を処分されたとしたら、あの方と交わした約束は誰が履行するというのだ? いや、その約束とて私が勝手に受けたものか。すまん、私が相手の実力も測れぬ愚か者故に」
「ち、違います。あそこで隊長が約束を受けてくださったからこそ、我らは生きているのです」
「そうです、約束が交わされなかったら、あの方にも手加減してくださる理由など無かったのですから」
謝っては自分の言に落ち込み、部下にフォローされるレタイトを俺は無言で見つめていた。美しい隊内の絆、とか賞賛したほうがいいのだろうか。
「もし止めたとしても、脱走して勝手にいきそうじゃの、エロジジイ」
エピちゃんの様に拘束すると言う手段もあるが、誰得であるし、そんなことをした日には恨まれるとも思う。
「ぜひもないの、エロジジイ」
「え」
「「エロジジイ様」」
レタイトだけでなくクシナタ隊のお姉さん達も声を上げたが、敢えてスルーし。
「止めても無駄のようじゃからの、エロジジイ。ただし、行かせはするがもうお前さんは今の時点でワシらの部下、すなわち仲間じゃ。故にこの後どうなろうと、約束を違えたことにはならん、エロジジイ」
「っ、え、エロジジイ様」
驚きに目を見張る親衛隊長殿に俺は無言で頷く。
「流石に人様のトイレの前をずっと占拠するのもあれじゃしの、ワシらも階段の前まで移動するが用事を済ませたら必ず来るようにの」
「あ、ありがとうございます……」
来なかったらスミレさんの一日玩具の刑に処す、と言ったようなことを茶化すようにして付け加えれば、もう一度頭を下げてレタイトは去っていった。
「ふぅ」
「ねー、エロジジイ様、あれでよかったの?」
「まぁね。仲間にするなら信頼関係を築かないといけないから何て事情もあるけど、部下の為に自分が全責任を負うなんて言う者を無碍にはできないし」
スミレさんと小声で会話を交わしつつ周囲を見回せば、レタイトの姿を消した方を見つめて祈るエビルマージが幾人か。何人かは胸の膨らみから女性のようだったが、別に羨ましくなんてないし。
「このハーレム野郎め」
とか吐き捨ててもいない。別に羨ましく何てないのだ、借り物の身体で責任とれない俺にとって女性にモテるなんてただの生殺しな罰ゲームでしかないのだから。
「しかし、バラモスかぁ」
考えようによっては、あのバラモスも親衛隊の女エビルマージを侍らせていた可能性が浮上する。
「うーむ、もっとボコボコにしておくべきじゃったかの、エロジジイ」
こちらは同行者がお姉さんばかりでさんざん苦労しているというのに、ぐぎぎ。
「おのれ、バラモス」
サマンオサが解放されるまでは、きっと一国一城の主なのを良いことに「酒池肉林バラモスっ」とか言いながら毎日面白楽しく遊びほうけていたに違いないのだ。おろちとかボストロールあたりに丸投げして。
(いや、バラモスって名前なぐらいだし……実は同性の方が好きだったりするのかも知れない)
バラモス改め、薔薇モス。そんな感じに。
「はっ」
だとするとレタイトが危ない。お子様には見せられない方面で、色々危ない。
「レタイト、無茶しおって」
「エロジジイ様?」
「む? いや、何でもないエロジジイ」
いけない、いけない。発想がついつい変な方へと行ってしまっていた。お姉さんが声をかけてくれなかったら、どんな恐ろしい結末を予測していたことか。やっぱり、疲れているのだろう。
「このままここに居座る訳にはいかんとさっきも話題に出した通りじゃ、そろそろ移動するぞエロジジイ」
ついでにバラモスの所に寄ってレタイトも回収してこなくては。よくよく考えると地上に出る為の階段はバラモスの真っ正面に入り口がある通路の奥にあるのだ。うっかりしていた。
「まぁ、関わっちゃった以上、捨て置けないからなぁ」
甘いと言われるかもしれないが、それは違う。このまま返ってこなかったら、一瞬の気の迷いで想像してしまった展開を否定出来ないからなのだ。
「もっとも、距離的に結末は嫌が応にも目に入ってくると思うんだけど」
リレミトの呪文を使って脱出すれば話は別だが、そもそもこの場所からリレミトの呪文で脱出出来たかも覚えていない。ゲームなんかだと、リレミトで脱出不能なダンジョンとかもあった気がするものの、今居るバラモスの為の空間がそうだったかは微妙だ。試して脱出してしまった日には、またここまでわざわざ戻ってこないといけないし。
「って、変な方に考えすぎだよな」
むしろ、一番拙い展開は、バラモスがレタイト達を引き留めるパターンだ。ただでさえ俺という厄介な侵入者が居るのだ、罪は不問にする変わり「次に俺が現れたら食い止めろ」なんて無茶ぶりをされてる可能性もある。
「エロジジイ様? 出発の準備出来たよ」
「ん、おお。すまんの、エロジジイ。では、出発じゃ、エロジジイ」
スミレさんに呼ばれて我に返った俺は、周囲を見回し号令を発す。この時、当然ながら俺は何が待ち受けているかを知らなかった。バラモスが居るであろう、あの場所で。
バラモスか、薔薇モスか。
いかにもどこかの僧侶少女の出番な流れの中、主人公は再びバラモスと相対す。
次回、第百九十七話「レタイト、散る(いみしん)」
酷いネタバレを見た。