強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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・前書きでどうでも良い補足をしてみる

主人公のエロジジイ語尾ですが、実はバラモスと一人称や口調が被ってしまってるので、混同されないようにと言う意味合いもあったりするのです。

語尾無しのスレッジだと非常に紛らわしいことになってしまうんですね。



第百九十九話「なにをするきさまらー」

「先程からあること無いこと言いおっ」

 

「そのマント貰ったあぁぁぁ!」

 

 だが、いくら恐ろしい掟があろうともそれとこれとは話が別だった。俺は帰らなくてはならないのだ、みんなの所に。

 

「ぇぶっ」

 

 狙うは首もとマントの留め具を掴むとそれを握り拳にして勢いのまま上へと突き上げる。言わば、アッパーカットだ。

 

「おおおおおおっ」

 

「ぐほっ」

 

 宙へと舞揚げた巨体の前でくるりと一回転し、遠心力を乗せた右足が落ちてきたバラモスの腹にめり込み、いきなり重くなった足をそのまま振り抜く。

 

「ふぅ」

 

 飛距離は水色生き物と比べるべくもない。だが、俺の右手の中にはマントの留め具があって、留め具から生えたマントの布地は、回転した身体に引っ張られる形で俺へと半ば巻き付いていた。

 

「なんと 怪傑エロジジイ は バラモス から マント を 盗んでいた」

 

 といった感じだろうか、テロップが流れるとしたら。

 

「さて、盗るモノは盗った、エロジジイ。ほれ、お前さん、これで前を隠さんか、エロジジイ」

 

「あ、え? あ、ありがとう……ございます?」

 

 とりあえず、奪い取ったマントを呆然としていたレタイトに投げると、何故か疑問系な感謝の言葉を受けつつ、バラモスへと視線を戻す。

 

「うぐぐ……」

 

「自ら手にかけるぐらいじゃ、もはや親衛隊は要らんじゃろ、エロジジイ。よって、こやつと愉快な仲間達は頂いて行くぞ、エロジジイ」

 

 殆ど強奪のような気もするが、断りなく貰って行くよりはマシだろうし、このままバラモスの部下をやらせていたらおそらく俺かシャルロット達に殺される末路しか待っていない。呻きつつ身を起こそうとする自称大魔王へ一方的に宣言すると、俺は踵を返す。

 

「さて、皆の所に戻るとしようかのエロジジイ」

 

 やたら長く感じたバラモスとトイレとエビルマージの騒動もようやく終わりを迎えるのだ。

 

(親衛隊もごっそり引き抜いたし、これでイシスへ増援を送ったり他の国を侵略するような余裕はないはず)

 

 後はイシスに戻るか、ここでシャルロット達がやって来るのを待つか。エピちゃんや親衛隊のみなさんの前でこの城の魔物を殺戮する訳にもいかないので、残って修行するならシャルロットを見習い模擬戦と言う形になるんじゃないかと思う。

 

「それはそれとして……警戒は無駄になったようじゃの、エロジジイ。変態っても大魔王と言うこ」

 

「誰が変態じゃ!」

 

 人の言葉を遮って後ろで叫び声がしたが、それはこちらの独り言へ即座に反応出来るぐらい注意を俺に傾けていたと言うことでもある。今後のことを考えつつも、バラモスがマントを奪還せんと襲ってくる可能性を考慮してすぐさま反撃出来るようにこちらも先方に意識の何割かを残していたのだが、気づいたらしい。

 

「エロジジイ様?」

 

「なぁに、飛びかかってきたら本気の一撃で教訓をくれてやろうとしておったのをあやつが察して手控えしていた……ただそれだけのことじゃエロジジイ」

 

 怪訝そうにこちらを見たレタイトに解説してやると、俺は右の袖を徐にめくってみせる。

 

「ほれ、この通り。今度は遊びじゃなくて本気という訳じゃエロジジイ」

 

 バラモスにもレタイトにもきっとまじゅうのつめの刃部分が覗いているのが見えたと思う。

 

「これの鋭さはトイレを借りる時に見せた筈じゃからの、エロジジイ」

 

 ついでに言うなら何度かやり合って力量の差も理解したのだろう。だからこそ、俺の背中に襲いかからなかった訳だ。

 

「ワシに呪いをかけてくれた礼は後日返す、それまでは復讐される日を恐れ震えて暮らすがいい、エロジジイ」

 

 長居して言いつけを破り追いかけてきた誰かと鉢合わせした、何てことになったら面倒と、俺は捨て台詞を残して歩き始める。

 

(良かった。ひょっとしたら服を剥いでるところにエピちゃんか誰かがやって来て誤解されるなんてオチがあるんじゃないかとか考えちゃったけど、取り越し苦労だったかぁ)

 

 ここのところ散々な目に遭っていたからか、どうも思考がネガティブに寄ってしまって困る。

 

「エロジジイ様……ありがとうございました」

 

「む?」

 

「蘇生させてくれたこともですが、何より駆けつけて下さったこと。あの場で朽ち果てることも当然と思っておりましたところ――」

 

 だから、背中に投げかけられたレタイトの感謝に少しだけ報われた気がして、俺は口元を綻ばせる。

 

「それでは、困る者がおるじゃろうに……エロジジイ」

 

 この転換期に要となる隊長が抜けてどうするというのだ。副隊長が居るならそちらを代行にするという手もあるかも知れないが、それっぽい人物も見受けられなかったし。

 

「副隊長ですか? それなら、今イシスに侵攻している軍の総大将として指揮を執っている筈です」

 

「ひょ?」

 

 気になって問いかけてみたら、レタイトはとんでもない爆弾を投げてきた。総大将なら、不意打ちの範囲攻撃呪文で消し飛ばした外周部には居なかったとは思う、だが。

 

(下手したら今頃シャルロットかクシナタ隊と交戦中じゃないですか)

 

 激しくめんどくさいことになった気がする。

 

「ワシの見立てじゃと、イシス侵攻軍は壊滅するぞ、エロジジイ?」

 

 捕虜にでも鳴らない限り、まだ見ぬ副隊長の生存は絶望的だろう。まぁ、蘇生呪文という反則ワザがあるにはあるが、助けたことが露見すれば、イシスを襲っていた魔物の親玉をどうして助けるのかという非難は免れ得ぬと思う。

 

「これはもうイシスに戻るしかなさそうじゃの、エロジジイ」

 

 はっきり言ってこんな事態は想定外だが、見捨てると後々の禍根になりそうな以上、ぜひもない。

 

「それで、その副隊長とやらはどのような人かの、エロジジイ」

 

 片手で顔を覆いつつ訊ねると、レタイトは言った。

 

「彼女の名は、ウィンディ。エピニアの姉です」

 

 と。

 




あっさりマントを入手し、これで一安心と思った主人公はレタイトから驚愕の事実を知らされる。

流石にこれは捨て置けないと、イシスに戻る決意を固めたお人好しもとい主人公。

その頃イシスでは――。

次回、番外編15「勇者シャルロット1(勇者視点)」

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