「しかし、まさかバラモスの城に潜り込む為に苦労して手に入れた『きえさりそう』をまさかこんな所で使うことになるとはな」
うっかり呪文を唱えてしまっていたことに気づいた俺の思いついた苦しい言い訳がこれだ。
(と言うか、本当にパニくってたんだなぁ、俺)
一応シャルロットはまだ気づいていないようなので、幸いにも言い訳の出番はまだ来ていないが、近年まれに見る大失態である。
「ともあれ、まずはお前と一緒に戦っていた兵士達に魔物達が引き上げることと休戦を求めていることぐらいは伝えておかねばなるまい」
「そっか、さっきまで戦っていましたもんね」
「ああ」
話題そらしの意味もあるが、これからまずすべきことを口にすればシャルロットはすんなり納得したようで、素直なのはシャルロットの長所だよなぁと言うべきか、ひとまずの脅威は去ったと思うべきか。
(ふぅ、良かったぁ)
俺は後者を選んで密かに胸をなで下ろした。これなら何とかなりそうではある。もっとも、ここからが勝負でもあり、更に言葉を続ける。
「それでだ、流石に裸で事情説明は拙かろう。その後は城に報告に向かうことも考えられるからな」
それに名を付けるなら、「何とか言いくるめてシャルロットに服を着て貰う大作戦」とでもしようか。
「マントも見たところ使い物にならなくなってしまったようだったからな、これに適当な空き家で着替えてくると良い」
そう言って俺は荷物から取り出した鎧をシャルロットが居た方向へと突き出した。親衛隊と戦った時、動く石像から宝箱を盗んでいたのだ。返却しようか迷ったのだが、今はただ快く譲ってくれた名も知らぬ動く石像に感謝である。
「え、この感触は鎧ですか?」
「ああ。女王陛下と謁見するなら礼服の方が良いかとも思ったが、持ち合わせもないし今は戦時下だからな。鎧でもギリギリ許されるだろう」
と言うか、ぶっちゃけあの際どい水着よりは絶対マシだと思う。
「ありがとうございます、お師匠様っ」
「ま、まぁたまには師匠らしいこともしなくてはな」
ひょっとしたら今の水着の方が守備力が高い何てこともあるかも知れないが、あんな格好で町を歩き回って貰う訳にはいかないのだから、やむを得ないだろう。何はともあれ、一件落着だと、思った瞬間だった。
「じゃあ、お師匠様……ボクに着せて貰えますか?」
「え゛」
やばい、素が出た。じゃなくて、なにがどうしてそうなるんですか、シャルロットさん。
「お師匠様?」
「あ、いや……どういうことだ? 確かに鎧の着用は大変なモノがあるが、一人で着用出来るようになっておかないと自分しか居ない時に困ることになるぞ?」
今困ってるのは俺だけどね、うん。
「え、えっと……確かにそうかも知れないんですけど、ボクお師匠様に着せて欲しくて……はぁ、お師匠様に着せて貰うことを想像したら……あっ」
「……そう言えば今財布に何ゴールド入っていたものか。1ゴールド、2ゴールド、3ゴールド」
おちつく には なにか を かぞえる と いいんだった よね。
(おれ、おちつける かな?)
落ち着かなくても良いからルーラで大空に舞い上がりたい。と言うか、逃げたい。
「はぁはぁ……お師匠様?」
「162ゴール……どうした、シャルロット? 俺は今、財布のゴールドを数えている。ちなみに、今日の宿代は何とか工面出来そうだ。まぁ、この状況では宿もやすみかもしれんがな、はっはっはっはっは」
いかん、キャラまでぶれてきてる気がする。
(と言うか、誰か助けて)
俺は祈った。救いを求めた。
「そこの御仁っ」
「ん?」
そして、願いはおそらく叶ったのだと思う。
「先程の会話からするに、そちらの勇者シャルロットの師とお見受けした。我はディガス。おおよそのことは隊長から伝え聞いた。されど、この勇者をして師と仰がせる人物……是非とも一手手合わせを願いたい」
たださ、帰らなくてよかったんかい地獄の騎士。
「……あー、それは構わんが今度のことをあちこちに報告する必要があってな」
「おお、ならば我も共をしよう。敵対していた我が証言すれば信憑性も着くというもの」
「ほぅ」
ゲームだったら「じごくのきし ディガス が なかま に なった」とかテロップが出て仲間になった時のテーマでも流れそうな展開だが、何というか。
「しかし、それでは敵に通じているというあらぬ誤解を招かんか?」
「ならば我を縛って捕虜と言う形にされよ。それで問題あるまい」
「ふむ」
何だかんだ言って、うまく話が逸れてくれたと思う。
「……こういうことなのでな、悪いが鎧は一人で着てくれ。俺はディガスを縛らねばならん」
「そんなぁ」
ありがとう、地獄の騎士。落胆するシャルロットにはかわいそうなことをした気がすこしだけしたけれど、ともあれこうして俺は何とかピンチを切り抜けたのだった。
ある意味元親衛隊が大活躍でした。
え、レムオルの効果? ゴールド数えてる頃には効果切れてますが、何か?
次回、第二百二話「でっかい船乗りの骨にあらず。ん? 誰か忘れてるような……」
お前のような六本腕で焼け付く息を吐く船乗りの骨があってたまるか。