「さて」
「うむ」
シャルロットと別れ、対峙するのはディガスという名の地獄の騎士。
「では、いざ。さ、遠慮なされるな」
ただし、ディガスの手にしていた武器は全て砂の上に転がっており、骨の腕は俺に縛られる為纏めて突き出さしたところ。シュールすぎる光景である。
「人生何が起こるかわからんものだな」
しかし、骨を縛ることになるなどと誰が予想できるだろうか。
「いやまったく、我もあの隊長が人間に頭を垂れる日が来ようと……失礼」
「ふっ、構わん。俺とてこの展開は想定外だ。もっとも、甘いと言われるかもしれんが少し安堵している。侮辱と受け取られるかもしれんが、女に刃を向けるのは気が進まなかったからな」
砂漠で倒した魔女については、例外だ。外道だったし、そもそも拳で殴ったのであって刃は使っていないし。
「ほう、貴殿ほどの者が意外と言うべきか……」
「我ながらこれでよくやってこられたと思う面もある」
だが、同時にこれだから俺とも思う。女性に刃を向け、斬りつけて怪我を負わせたり殺害する自分など想像も出来ないのだ。
「ん?」
「どうなされた?」
「いや、何か忘れてるような気がしたのだが……思い出せない所からすると、大したことではなかろう」
もしくは気のせいだったか。
「まぁ、必要とあれば思い出すだろうからな。気を遣わせた」
「お気になさるな。貴殿らには隊長の命を救って頂いた恩があると聞く。しかも、かっての我らが主たるバラモス様に刃を向けるどころか圧倒したとも。強者に仕えられるとあらば、我にとってこれほど嬉しいことはない」
「……そう言って貰えれば、重畳だ」
何というか、このディガスという地獄の騎士。割ととある方向に突き抜けてる気がするのだが、それでもであった中では常識人の方と感じてしまう自分が居て、微妙に複雑だった。
(逆説的に、これまで出会った人に変人が多いってことなのかなぁ)
とりあえず、シャルロットはガーターベルトのせい、バニーさんは呪いのせいで、女戦士も性格を変える本のせいと外部的要因の人達も居るから一概に全員を変態認定してしまうのは暴論なのだが。
「あ」
「何か?」
「いや、さっき忘れていると思ったことを思い出しただけだ。そう言えば一人と言うか一体だけ刃を向けた相手が居たな、とな」
いやぁ、思い出せて良かったやまたのおろち。後でシャルロットをあんな風にしたお礼をたっぷりしないといけないのに、どうでも良いで流してしまいかけたのは、本当に不覚だった。
「と、言われると?」
「わざわざ言う必要もない。このイシスに居るらしいからな。その内会うことになるだろう」
ただ、その時妙なことを口走ったりしなければ良いのだけれど。これは、シャルロットから魔物の躾かたとか倣っておくべきかも知れない。もちろん、せくしーぎゃるで無い時にであるが。
「ただ、つい先日までとんでもない変態だったのが気がかりではあるが……」
本を読んで性格は変わったはず、きっとこれはただの杞憂だろう。
「よし、腕の方はこれで良かろう。そこの剣はシャルロットに預けるが、構わんな?」
「御意に。ただ、貴殿ほどの方には必要なきことかも知れぬが、扱いには気を付けられよ。あれなる剣は、使えば吹雪を巻き起こす名剣。名を吹雪の剣と言う」
「な」
そう言えば何処かで見たことあるなと思ったら、割と強力な武器じゃないですか。
(って、地獄の騎士が吹雪の剣を落とさなくなった気がしたんだけどなぁ)
シャルロットが苦戦していたのも頷けるが、ゲームとの齟齬が出てきてちょっと混乱しつつも問うた。
「しかし、バラモスの城にいたお前の仲間こんな剣は持って居なかった気がするが?」
そう、記憶をひっくり返してみたが地獄の騎士の手にしていた剣は、吹雪の剣ではなかったのだ。重り代わりにバラモスのマントを結びつけて投げたのが部下になった地獄の騎士から借りた剣なので、間違いはない。
「さもありなん。これは剣の腕を讃えられ、我らのみが特別に頂いたもの。剣の腕に秀た我ともう一人だけが授けられた品なのだ」
「成る程な」
疑問は解けた、ただ。
「ならばもう一人の地獄の騎士はどうした?」
あくまで物欲目当てではなく、もう一人侮れない地獄の騎士が存在することに危惧を覚え、俺は聞いた。仲間になってくれるなら、問題はないがバラモス城には思い当たる地獄の騎士は居なかったし、イシスに戻ってきてからも見た覚えがない。
「やはりそれをお尋ねになられるか。だが奴は……弾けた」
「は?」
「つい先日のことだ。砂漠をこの地に向けて行軍していたところ、何者かから呪文による襲撃を受けたのだ」
思わず聞き返してしまった俺にディガスが語った話を整理すると、ほぼ先頭に居て一番槍を狙っていたその地獄の騎士は完全な不意打ちになった呪文によって騎乗していたドラゴンごと消し飛ばされてしまったのだ、そうだ。
(うわぁ)
間違いなく犯人は俺であった。もしかしなくとも。
「あの者、剣の腕は我に迫るものがあり申したが、性質は残虐。一番槍を狙ったのも数多くの者を殺したいという欲求に駆られてのものと見ますれば、貴殿とは相容れますまい」
などと、ディガスが無自覚フォローしてくれたので少しは救われたが、呪文ぶっ放した位置によってはエリザやエピちゃんのお姉さんまで吹っ飛ばしていた可能性があったのだ。
「これも戦争と言うことか」
トイレを借りに行って親衛隊を丸ごと引き抜き、バラモスの邪魔をしたであろうことだけは正解だったと思う。次にこの手の戦いがあったとして、範囲攻撃呪文を放てるかと問われたら、頷く自信はなかったから。
「一発芸、ふなのりのほね……」
何かを誤魔化す為、俺はディガスを縛ったロープの端を持って呟いた。当然だが、幽霊船の方角なんてわからなかった。
すみません、一カ所だけパロディ入れちゃいました。出来心です。
うぎぎ。
サイモンさんだとおもった、おろちのことでしたというサブタイトル詐欺。
え、いつものことですか?
次回、第二百三話「かくかくしかじかで本当に説明が終われば楽なんだけどなぁってたまに思う」
ああ、話が進まない。