強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百三話「かくかくしかじかで本当に説明が終われば楽なんだけどなぁってたまに思う」

 

「……遅いな」

 

 とりあえず、ディガスは縛った。後はシャルロットが着替え終え出てくるのを待つだけだったのだが、近くの民家に入っていったシャルロットがいっこうに出てこない。

 

「骨の我が言うのもどうかとは思いつつ申し上げるが、そもそもこういうことには得てして時間がかかるもの。ましてや鎧ともなれば、着るのにも手間取りましょう」

 

「確かに、言われてみればそうかもしれんな。……しかし」

 

 縛られたディガスはフォローしてくれるものの、やはり気になる。

 

「よう、見ねぇ顔だがさっき嬢ちゃんが『お師匠様』って呼んでたってことは、あんたあの嬢ちゃんの……」

 

「まあな」

 

 ただ、どうやら俺はシャルロットのことだけを気にしていれば良い立場ではなくなっていたらしい。わざわざ声をかけてきたと言うことは、一体どういうことか説明してくれとかきっとそう言う用件なのだろう。

 

「声をかけてきたと言うことは、状況説明を求めていると言うことでいいな?」

 

 一応確認はしたけれど。

 

「あ、ああ」

 

「なら、説明しよう。このイシスがつい今し方まで魔物の攻撃を受けていたことについては説明不要だと思うが……」

 

 その後増援が来る可能性を鑑み、バラモスの城に直接乗り込んで後方攪乱を狙い、暴れ回った人物が居たと俺はまず明かす。

 

「その結果、侵入者へ好き勝手させるを許したことに激怒した大魔王バラモスは、自分の親衛隊長を処刑しようとした。役目を果たせなかった責任をとらせ、見せしめにする為にな。だが、そうはならなかった。侵入者が乱入し、処刑され晒されるはずだった親衛隊長をバラモスの元から掠っていったからだ」

 

 途中でペテンへかけもう部下にしていたことは敢えて伏せる。

 

「結果として仰ぐべき主を失った元バラモス親衛隊長は侵入者へ仕えることとし、新しい主の為それまでの部下を説得する為、この地に現れた。俺はその付き添いで、この地獄の騎士は親衛隊だった頃の部下の一人と言うことだ。見ての通りもうこの地獄の騎士に抵抗する気はない。このイシスを襲った魔物達からしても、主の居城が襲撃されたとあっては、侵攻戦を続けている場合ではなかろう。このディガスが降ったことを差し引いてもな」

 

 侵攻の為の軍勢を送り出して手薄になった最重要拠点が狙われたのだ、このまま戦闘を続けている間に主が討たれれば、本末転倒である。

 

「そして、親衛隊長の処分に関しても魔物の中に不満を持つ者が居てな……こちらに引き抜ける可能性もある」

 

「って、おい! 魔物を味方にするとか正気か?」

 

 俺の続ける説明へあっけにとられていた男が思わず声を上げるが、流石にこれは無理もないと思う。俺自身この展開は完全に想定外だったのだから。

 

(思い返してみれば、最初はおろちか)

 

 あそこから全てが狂い始めたんだと思う。せくしーぎゃると言う名の脅威なら、女戦士しか居なかった時は、ごうけつの腕輪で何とかなってめでたしめでたしだったのだから。

 

(いや、一応おろちも本を読ませたからもう大丈夫だとは思うけど……)

 

 ガーターベルトをメダルのオッサンが前渡しとかしたせいで、シャルロットがあんな事に。これは慰謝料としてすごろく場が遊び放題になるゴールドパスなるアイテムを要求しても許されるレベルだと思う。

 

(もし拒むなら、無理矢理ガーターベルト付けさせて、城下町の真ん中あたりに張り付けにして放置しよう)

 

 生憎俺は根に持つタイプなので、復讐はちゃんとする。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「っ、すまん。疑うのは尤もだが、どう説明すれば納得して貰えるか、少々言葉を探していてな」

 

 いけないいけない、説明の最中に一人脱線したあげく考え込むとか大失態である。とりあえず、言い繕っては見たが、この手の男を納得させる方法を即座に用意しろと言われても、少々感心出来ないモノ一個しか思いついてなくて。

 

「少し、耳を貸せ」

 

「おう? なんだ?」

 

 迷いはしたが、まごついては説得がより困難になる。俺は、覚悟を決めると男の耳に吹き込んだ。親衛隊のうち、ローブをしてる魔物は中身が美男美女揃いだった、と。

 

「な」

 

「男はさておき、女だが誰もかれもローブの上からでさえ解るような胸をしていてな」

 

 こんな台詞、クシナタ隊のお姉さん達や親衛隊の女エビルマージに聞かれた日には、ゴミを見る様な眼で見られること請け合いではあるが、是非もない。

 

「それは本当か?」

 

「さて、どうだろうな。お前は魔物を仲間にするなど正気の沙汰でないと言う」

 

 はぐらかしつつ、肩をすくめた俺は、男の反応を待った。

 

「うぐ……俺の負けか」

 

「いや、何の戦いだったんだ、と言う気もするがな」

 

 そも、こんな姑息な手段で言いくるめようとした時点で、負けたのはこちらのような気もするのだ。

 

「ともあれ、後背が気になった魔物達はもはや戦えず。後退を指示した上、休戦を求めてきて今に至るという訳だ。こっち側の後退が遅れたのは、主に一騎打ちをしていて指揮官と連絡が取れなくなっていたからだな」

 

「いや、その点については面目ない」

 

 説明に割り込む形で縛られたディガスが頭を下げるのは何ともシュールだったが、きっと気にしてはいけない。

 

「なるほど……まぁ、この町に格闘場があって魔物を従えてる奴は珍しくねぇしな」

 

「っ」

 

 そうか、最初からそっち方面で話を持って行けば良かったのか。

 

「ん、どうした?」

 

「いや、まぁそういうことだ。では、ここにいる他の者への説明は頼む。むろん、先程の内緒話は二人だけの秘密でな。ゆくぞ、ディガス」

 

 言われて気付き、敗北感に打ちのめされつつも、何でもないというように手を振ると、建物の影からこちらを伺っている人影の一つを視線で示して依頼し、地獄の騎士に一声かけてから歩き出す。まずはまだ出てこないシャルロットに声をかけ、着替えが終了し、準備ができ次第、城に赴く。

 

「しかし、女王か」

 

 説明するなら、一方的に押しつけた感はあるものの色々貸しのあるスレッジの姿で赴いた方が良いかも知れないが、今スレッジになるとほぼ間違いなくシャルロットに聞かれてしまう。

 

「あれ、お師匠様は?」

 

 と。そも、いくらせくしーぎゃるっているとは言え、暫く会っていなかった弟子なのだ。ここで逃げ出すなんて師として問題だろう。

 

「しかし、本当に遅いな……」

 

 だいたい着替えにしてもあまりに長すぎる。

 

「行ってみるか……シャルロット、入るぞ?」

 

 気になった俺は、民家の戸口で呼びかけると数秒待ってから中へ足を踏み入れた。

 




・ほんじつのNGシーン

「それは本当か?」
「さて、どうだろうな。お前は魔物を仲間にするなど正気の沙汰でないと言う」
 はぐらかしつつ、肩をすくめた俺は、男の反応を待った。
「けどな、俺はどっちかって言うと男の方が良いんだ」
「え゛?」
「そう、どっちかって言うとあんたみたいないい男が好――」

(以下、自主規制)

 と言う展開が一瞬頭をぎったのは、アリアハン在住の僧侶少女のせい。おのれ、最近出番がないからって人の脳に直接語りかけてくるとはっ!

次回、第二百四話「副作用」

ああ、さっさと女王出したいのに。うぎぎ。

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