強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百五話「謁見」

 

「とりあえず、その顔をどうにかしなくてはな」

 

 これから城に赴いて女王と謁見すると言うのに泣き腫らした顔は拙い。ホイミの呪文で治るなら良いが、駄目ならスレッジの様にフードを被せるべきかもしれない。いや、謁見なのに顔を隠すのは不敬か。

 

(って、スレッジの時はフードしっぱなしだったし、今更かぁ)

 

 あの時注意さえされなかったことを思い起こすとイシスの女王は懐が広いのか、物資を持ってきた恩人に当たるからスルーしてくれたのか。

 

「お師匠様、ごべんなさい……ボクが泣かなかったら……」

 

「責めている訳ではない。だいたい、元を正せばこれの危険性をきちんと説明しなかった俺が悪い」

 

 鼻をすすってまた泣きそうになるシャルロットの頭を撫でつつ、俺は摘んだ全ての元凶を示してみせる。そう、シャルロットの脱ぎ捨てたガーターベルトは俺が回収した。もちろん、変態的な理由などではなく、シャルロットをもう二度とせくしーぎゃらせない為だ。

 

「すまんな、シャルロット」

 

 アリアハン在住のメダル集めてるオッサンこそ諸悪の根源である気もするが、敢えて言及せず弟子へと頭を下げる。復讐を忘れる気はないが、今はシャルロットに立ち直って貰うことこそ最優先にすべきなのだから。

 

「お師匠様ぁ」

 

 なすがまま再びシャルロットに抱きつかれ、ポーカーフェイスを保ちつつ、己の中の何かに抗う。

 

「ふむ」

 

 シャルロットに渡したのが、鎧で良かった。お腹の辺りに当てられてるのが鎧の硬い胸甲でなければ、即死とは言わないが何かがゴリゴリ削られていたと思う。ありがとう、動く石像。

 

「お師匠様?」

 

「何でもない。それより、鎧にきついところはないか?」

 

 頭の雑念を追い払って尋ねたのは、渡した鎧が元敵の魔物から盗んだ品であるからだ。

 

「ううん、大丈夫です」

 

 一応、目で見て解るほどに大きすぎたり小さすぎたりはしていないが、当然お店で購入した訳ではない。フィットしなかったりする可能性に遅れて思い至ったからなのだが、シャルロットは首を横に振る。

 

「この鎧、留め具の所である程度調整出来るみたいで」

 

「そうか、ならいい。だが、もし不都合があるなら早めに言え」

 

 この町の住人は格闘場に避難していて留守だろうが、他の町ならば武器屋に預ければ調整して貰えると思う。

 

「戦いは少しの不具合が命取りになる可能性もある。下手に遠慮する必要はない」

 

「え、ええと……じゃあ」

 

「ん?」

 

 その時俺は自分がプチ地雷を踏んでいたことに気づいていなかった。

 

「じ、実は……胸の部分がちょっときつくて」

 

「っ」

 

 シャルロットは正直に答えてくれたのだろう。だが、俺としては、透明呪文を唱える直前に水着から零れそうになってしまったモノを思い出してしまった訳で。

 

「そ、そうか。ならば謁見が終わって魔物共が退いたら何処かで装備を調えるか。この後の行動指針も決めるべきだろうしな」

 

 動揺は殆ど漏れなかったと思いたい。

 

「さて、では行くぞシャルロット」

 

「あ、はい。ええと、ホイミ」

 

「……ほぅ」

 

 結論から言うと、シャルロットの顔はホイミの呪文であっさり治った。腫れや目の充血は怪我と判定されたのだろう。回復呪文、侮りがたし。

 

「とりあえず、これであとは謁見し説明するだけか」

 

 レタイト達が仲間になった件については、外で話した男の言葉を参考に「魔物使いの技術を使って屈服させた」とでもしておけばいい。

 

「お師匠様、では行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

 抱きつく場所を身体から腕に変えたことで、武器の変わりにシャルロットを装備した形になりながら、俺は歩き出す。

 

(うん、魔物じゃなくて現在進行形で懐いてきてるのは弟子だけど)

 

 とは言え、復活しつつあるシャルロットを拒絶することなど出来ず。

 

「すまん、待たせたな」

 

「いえ、その様なことあり」

 

 弟子を片腕にぶら下げた姿は、一階に戻ってきた俺を出迎えたディガスを一瞬で絶句させた。もちろん、狙ってやった訳では断じてない。

 

 ただ、その時点で気づいておくべきだったのだ。

 

「おい、誰だあれ? って、うぉ?!」

 

「げっ、魔物?! てか、後ろの男誰だ? うぐ、何て羨ましいっ」

 

 左手にディガスを縛るロープの端を持ち、右腕にシャルロットを装備した俺を見た戦士や兵士の皆さんの反応から二つほど抜粋したものが、前述の二つである。見られていた、目立っていた、注目の的だった。

 

(悪目立ちってレベルじゃNEEEE! と言うか、クシナタ隊のお姉さん達に見られたらあがが……)

 

 最初の兵士集団に出会った時にようやく気づいたのだ、ただ。

 

「えへへ、お師匠様ぁ」

 

 なんて幸せそうに頬を染めて寄りかかるシャルロットを振り払うことも出来なくて。

 

「妬ましい、妬ましい、ねったましぃぃぃっ!」

 

「死ぬ気で戦ったのに、何であいつだけあんな可愛い娘と、ぐっ」

 

 あちこちから敵意や嫉妬の視線と声でグサグサされつつ城下町を抜けた俺は、やがてイシスの城にたどり着く。

 

「スー様、後できっちり説明して下さいね?」

 

 何て遠くから視線で主張してきたお姉さんなんて一人もいなかった。

 

「イシスのおし……な、魔物?」

 

「確かに魔物だが心配は不要だ、この通り武器は取り上げ縛ってある。前線の状況報告に参上した。女王陛下にお目通り願いたい。魔物についてはこれで問題ならば、牢に押し込んでも構わんが、証言をさせる為に連れてきている。牢に入れては二度手間となるが、いかがする?」

 

「むっ」

 

 いくら後で問い詰めが待って居ようとも、あくまで私事。格闘場に住民をいつまでも避難させておく訳にだっていかない。

 

「暫しお待ち下さい」

 

 入り口に立つ兵の片方が城内へ去って行き。

 

「お待たせしました」

 

 魔物を連れたままの謁見を許可する旨を戻ってきた兵が告げるまで、それ程時間はかからなかった。

 

「自分が言うのも何だが、やけにあっさり許可が下りるのだな」

 

「それについては、謁見の間で陛下よりご説明があるでしょう。さ、中に」

 

 意外に思って呟いてみるが、はぐらかした上で入場を促され。

 

「どういうことなんでしょうね、お師匠様?」

 

「さあな。あるとすれば――」

 

 シャルロットと言葉を交わしつつ階段を上った先で見たのは、ある意味俺の予想通り。

 

「英雄が揃ったようですわね」

 

 こちらに視線を向け口を開いた女王と、俺達に背を向ける形で今まさに謁見中と言った様子のクシナタ隊のお姉さん達だった。

 




くそっ、ジーンに続いてシャルロットまで装備するとは、主人公め!

と言うか、謎のイチャイチャシーン長すぎて、女王の出番が一台詞とは、うごごご。

次回、第二百六話「脅威は去った。去ったと思いたい。去ったと言ってよ、クシナタさん!」 

 つるし上げタイムの予約が入って確定したようにしか見えないのは気のせい?


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