強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百七話「夜中に女の子達部屋へ侵入する男」 

「ディガス、後のことは頼むぞ?」

 

「は、承知っ」

 

 シャルロットが寝息を立て始めたのを確認するなりベッドから抜け出すと、骨だけの騎士に後のことを任せ、あてがわれた部屋を後にする。

 

(しかし、シャルロットも良い子過ぎるというか……)

 

 最初は男女一緒は拙かろうと女王は二つ部屋を用意してくれたのだが、戦いに疲れた人達が沢山居るのにそんな贅沢は出来ませんとシャルロットが断ったのだ。別々であればすんなり抜け出せたというのに、こんな所にも想定外が転がっているとは。

 

(一応俺も男だし、もうちょっと危機感を持てもらわないとなぁ)

 

 せくしーぎゃるっていた時の自分から受けた精神的なダメージを考慮すれば父親の不在なシャルロットが俺に甘えてくるのは仕方ない一面もあるのかも知れないが。

 

(かといってアリアハンに戻して母親に慰めて貰うなんて、手の込んだ自殺だし)

 

 もちろん、俺の社会的な立ち位置のである。アリアハンに連れ帰った時点でシャルロットのお袋さんは理由を聞いて来るであろうし、俺が言わなくてもシャルロット自身が聞かれて話してしまう可能性もある。そうなれば、あとは責任をとらされる未来しかない。

 

(シャルロットは良い子なんだけどなぁ)

 

 俺は師匠であり、身体は他人の借り物。最初から責任なんてとれないのだから、その選択肢はあり得ない。

 

「と、人のことを考えている場合ではないな」

 

 バラモス城を出るところまでのことは、クシナタ隊に合流したカナメさんやスミレさん達から説明が行っているとは思う。

 

「やはり、問題はその後だな」

 

 シャルロットとの合流は、つまりクシナタ隊との離別を意味する。クシナタ隊の存在をシャルロット達勇者一行には秘密にするという方針上、一緒に行動することは出来ない。

 

「せいぜいが、こうして夜中に抜け出して繋ぎをとるぐらいだが……」

 

 もしくは、シャルロットの足を踏み入れられない様な場所を落ち合い場所にして会うか。アッサラームでぱふぱふしないかとお誘いしてきた娘さんの様にいかがわしい場所を装ったならば、シャルロットもついて来ないと思うのだが。

 

「駄目だな。純真な瞳で『あそこはどういう場所なんですか、お師匠様?』とか聞かれたら答えられん」

 

 それで済んだならまだいい。シャルロットの家でバニーさんと張り合った時の様なことになれば、ピンチ再びである。

 

「何より、おおっぴらに会えなくなると言うのをクシナタ達が納得してくれるかの方が問題か」

 

 一応、クシナタ隊がシャルロット達勇者一行を影から支える集団であることは説明してある。バハラタの人攫い騒動では別行動もした。下地は出来てると思うのだが、まるっきりもめないかと聞かれたら自信はない。

 

「夜中に女性の部屋に行くというのに、これほど足が重くなるとはな」

 

 冗談めかして皮肉を口にしてみるけれど、気の重さは変わらず。

 

「それはどういうことかしら、スー様?」

 

「え゛」

 

 身体はふいにかけられた言葉によって、鉄の塊か何かにでもなったかのように固まった。

 

「隊長はスー様をお待ちかねよ?」

 

「あ、いや……今のは皮肉というか冗談でな?」

 

 カナメさん何時の間にアストロンの呪文を、なんてボケをかます余裕なんて無い。

 

「さ、行きましょうか」

 

「いや、ちょっと待」

 

 夜中に女の子達部屋へ侵入する男改め、夜中に女の子達部屋へ引きずり込まれつつある男となった俺はカナメさんにぐいぐい手を引かれ、もの凄く見覚えのある部屋へと。

 

「こ、ここは」

 

「ふふふ、はい一名様ご案なぁ~い、よっ」

 

「うおっ」

 

 つまり、スレッジとして訪れた時クシナタ隊のお姉さん達にあてがわれたあの部屋へと押し込まれ。

 

「った、んぶっ」

 

 勢いのまま顔から何か柔らかいモノに突っ込んだ。

 

「いらっしゃいまし、スー様」

 

 その柔らかいモノがしゃべった様な気がするのは、気のせいだと思う。歓迎の言葉に聞こえるはずのそれは声のトーンが殆ど対極にあったのだから。

 

「「ルカニ」」

 

「「ボミオス」」

 

 まして、続いて出迎えたのは複数人による守備力と素早さを下げる呪文である。これを歓迎と思える趣向を俺はしていない。

 

「「ふふふ」」

 

「「うふふふふ」」

 

 ええと、と言うか何故そこで笑うんですかお姉さん達。

 

「ぷはっ」

 

「スー様、あのね? あたしちゃん実はちょっと試したい縛り方があったんだ」

 

「え」

 

 柔らかなモノから解放された俺が声に振り返ると、そこにいたのは、まるで全員を代表するかのように一歩前に進み出ていつもの表情でロープの束を腕に通したスミレさんだった。

 

「いや、ちょっと待て……お前にロープの組み合わせだけで嫌な予感しかしな」

 

「問答無用」

 

「罪には罰が必要なんですよっ」

 

「申し開きは罰の後で聞きますね、スー様?」

 

「いや待」

 

 その後、事情説明が出来るようになるまでに何があったかは、絶対に言いたくない。ちくしょう、俺が何をしたって言うんですかぁっ。

 

 




さようなら、クシナタ隊。

主人公は、勇者と立つ。

……ってことになっちゃうんでしょうかねぇ?

私、気になります。

次回、第二百八話「別れと旅立ちの前夜曲」

ええーっ、作者さんこれってサブタイでネタバレしてませんかぁ?

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