「……それ、で……バラモスが本腰を……入れてきた以上、猶予はもうあまり無いと思うんだ」
長かった。弁明でなく、これからどうするかについてと言う本来俺がクシナタさん達の元を訪れた目的の話に辿り着くまでは本当に長かった。ちなみに、師匠モードやれる程の余裕はないので口調は素だ。
「確かに、スー様が城で暴れた上にエピニアはさておき、レタイトさん達を引き抜いてしまったものね。今は再び何処かを侵攻する余裕なんて無いとは思うけど」
「喉元過ぎると熱さを忘れるってあたしちゃんは言ってみるよ。スー様の懸念には概ね同意」
カナメさんとスミレさんが揃って頷けば、クシナタさんもそうでありまするなと、首を縦に振る。
「となれば、ここからは時間が勝負になる。俺としては、まずクシナタ隊を幾つかのパーティーにわけて、やり残しというかバラモスを倒す為にしておかなければいけないことを分担してこなして行こうと思うんだ」
「「え」」
一様にお姉さん達が驚いた顔をして固まるけど、ぶっちゃけ、これは避けて通れない。
「世界に散らばる不死鳥ラーミアを目覚めさせる為の宝珠、一個はおろちが持っている筈だけど、他はまだ手に入れてないし、ダーマ神殿にも到達していない。ゾーマを守るバリアを取り除く為の光の玉も入手する必要がある。あと、盗賊のカンダタは野放しになってる上、ノアニールの人々は呪いがかかって眠ったままなんだよね。幾つかは、俺とシャルロット……それに勇者一行で何とかするとしても……一塊で回るなんて効率が悪いにも程がある」
だいたい、シャルロットとクシナタさん達はこのイシスの英雄になってしまっているのだ。一緒に行動したら目立つことこの上ない。
「バラモスの目を惹いてしまえば、まず間違いなく刺客を差し向けてくる。幾ら何でもそれぐらいはすると思うんだ」
当初のアリアハンに偽勇者を置いてバラモスの目を欺くと言う作戦は没にせざるをえないが、パーティーを複数つくることで分散し、狙いを定めさせないと言う作戦ならまだ有効だと思う。
「何より俺はシャルロットのお袋さんに約束をしてるから、それを反故には出来ない」
同時に感情以外の面でクシナタ隊という人材を遊ばせておく訳にもいかなかった。
「スー様……」
「妙なところで人が良いというか」
「軽はずみに約束するからそんなことになるんだとあたしちゃんは思う」
スミレさんの指摘には正論過ぎてぐうの音も出ない。
「ごめんなさい」
「スー様が勇者様と行くつもりと言うことはわかったわ。おそらくだけど、理由はそれだけじゃないんでしょ?」
謝る俺に見透かしたような目を向けて、カナメさんは言う。
「……うん。と言うか今のクシナタ隊なら編成次第で大抵の場所は踏破出来ると思うけどね」
一箇所だけクシナタ隊のお姉さん達には任せたくない場所があったのだ。
「宝珠の一つが安置された洞窟、地球のへそって呼ばれてるんだけど、ここは単身で挑まないといけないんだよね」
クシナタ隊のお姉さん達はバラモス城での嫌がらせやイシス防衛戦で成長はしてると思うが、単独で挑まなければいけないこの場所を攻略するのには向かないのだ。
「呪文の使い手は打たれ弱く、カナメさん達には回復手段が薬草くらいしかない」
その点、シャルロットはいくらでも入って重さを無視出来る反則的な袋を持っている。
「あの袋に薬草を入れられるだけ入れて行くだけでも全然違う。ただ、シャルロットの持ち物だから、あの洞窟に向かうのは勇者一行じゃないと拙い。しかも、単独で突破しなきゃいけない洞窟という意味で難易度が高い。俺が挑まないにしても助言は必要かなぁって」
そも、クシナタ隊のお姉さん達には俺から原作知識を伝えてあるが、シャルロット達にはそれがない。アドバイザーと言う意味合いでも同行するとしないとで大きな差が出来てしまうのだ。
「宝珠の中でも本来スーの東で町作りを手伝った商人が手に入れることになる宝珠については一応手が打ってあるんだけど、ここも念のため誰か商人に行って貰わないといけない。勇者一行の予備人員にも商人は居たと思うけど、その商人だと革命はおそらく防げないから……」
「私が行くんですねっ、解りますっ」
即座に答えつつも視線が遠くを見ているのは、商人のお姉さん。
「ダーマ探索にはタカのめが使えるカナメさんと、賢者になって欲しいという理由でスミレさんに行って欲しいんだけど」
「その理由では断れないわね」
カナメさんは肩をすくめてあっさり承諾してくれ。
「うーん、じゃあ、スー様もう一度『して』くれる?」
「え゛」
条件を出してきたスミレさんに俺は固まった。
「あ、じゃあ私も『して』欲しいです」
「ええっ、何それ?! じゃああたしもっ」
「私もー」
「ちょ?! 俺もうへろへろなんだけど?」
スミレさんの一言をきっかけにあちこちからお姉さん達が手を挙げて、顔は否応にも引きつる。
「でもさ、スー様。幾つかのパーティーに別れて行動すると危険度が増すんだから、これは必要」
「スミレの言うとおりですよ、スー様」
「そうです、そうです」
難色を示す俺を前にお姉さん達は聞いてくれなければ、承諾しかねると結託する。何この展開、どうしてこうなるの。
「じゃあ、ちょっと待ってて下さいね、準備しますから」
「あ、うん」
かず の ぼうりょく って おそろしい と おもう。気がついたらベッドに腰掛けて頷いている自分が居て。
「どれにしようかなぁ」
「あたしちゃん、この勝負下着とかオススメ」
背後からなんだか恐ろしい会話が聞こえてくるのですよ、奥さん。
(ああ、架空の主婦に話しかけてしまう程にやばい状態なんだなぁ、俺……)
これから何があるのかを俺は知っている。もう逃げられないであろうことも。
「スー様、下着は白と赤と黒どれが良いですか?」
「とりあえず、がーたーべると じゃなきゃ どれでも いいです」
ああ、そうそう。さっきからさんざん下着についてどうのこうの言ってるお姉さん達ですが、あれを着るのは俺ですからね。って、だれにはなしかけてるんだろう、あはは。
「ところで、スー様、モシャスはあと何回ぐらい出来そう?」
そう、お姉さん達が望んでいるのは、自分にモシャスした俺が二回攻撃やら連続呪文を行使する姿を見ることでそれを自分のモノにすることなのだ。ちなみに、よりしっかり動きを見たいという理由から、服を剥がされて女物の下着を着せられ、下着姿で実演することになる。何でも、俺へのお仕置きを兼ねてるらしい。
(うん、もう おとこ と しての ぷらいど こっぱみじん だね)
世にある性転換モノとやらで女の子になっちゃった方々がどういう気持ちだったかを、思い知らされたこの日。
俺の精神的ぢごくはアンコールが待っていたという訳で。
「スー様ぁ?」
「……モシャス」
「はいはーい」
「うおっ」
半ば諦めの境地で目の前のお姉さんに変身した直後、がしっと腕を掴まれて引っ張られる。
「さぁ、お着替えしましょおねぇぇぇ、スー様ぁ?」
「いや、ちょっと待って、最初は解らなかったけどもう一人で着替えられ、だから止め」
「遠慮することありませんよぉ、呪文の効果時間きれちゃいますからぁ、あたし達がぱぱっとやっちゃいますから」
「そうですよ、痛くしませんから」
「痛くって何する気ぃ?! あ、ちょ、アーッ!」
服を剥がされながら、俺は思う。本当にどうしてこうなった、と。
くしなたたい は しゅじんこう を やっつけた!(せいしんてきに)
287638 の あぶのーまる ぽいんと を かくとく。
くしなたたい の なんにんか は にかいこうどう を おぼえた。
まさかの主人公が同人誌みたいに弄ばれる回でした。
次回、第二百九話「ゆうべはおたのしみでしたね」
本当にお楽しみでしたよね~。うんうん。