強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百十話「おろちとはそろそろOHANASIしようと思っていたんだ」

 

「さて、と」

 

 広がる青空、差し込む陽光に当たると灰になってしまいそうな気がするのは、寝不足だからだろうか。

 

「格闘場でしたね、お師匠様?」

 

「ああ」

 

 朝食を終え、用件を告げてから外出することとなった俺は、先を行くシャルロットの確認を首肯すると、その背中を追いかけ歩き出す。

 

「……おろちちゃん元気にしてるかな」

 

「気になるか?」

 

 ポツリと漏らした同行者に問うてしまったのは、一つ気になることがあったから。

 

「え?」

 

「ふ……何、俺はお前とあのおろちについての関係を人づてにしか聞いていないからな」

 

 不思議そうに振り返ったシャルロットに弁解してみせ、視線を逸らしたのは、後ろめたさがさせたことかも知れない。ただ「お前がおろちにどれだけ変なことを吹き込まれたか知りたい」などと馬鹿正直に聞く訳にもいかなかったのだ。

 

(断罪するにも罪状を調べ上げないことにはなぁ)

 

 鬱憤を晴らす為に八つ当たりで酷い目に遭わせるのではなく、シャルロットという一人の少女に対して道を誤らせた罪を問い罰を与えるのだから、そこはきちんとするべきである。

 

「そう言えば、お師匠様にはまだ話していませんでしたね」

 

「ああ、スレッジから間接的に聞いただけだ。こんな男でも一応師匠だからな、弟子がどのような修行を経てどう成長したか、何を身につけたかは知っておく必要がある」

 

 なんてシャルロットには建前を話したが、もし修行と称してシャルロットにロクでもないことをやっていたなら、クシナタ隊直伝のOSIOKIの数々で後悔させてやるつもりだ。

 

(べ、別に自分がやられて酷い目にあったから、他人を同じ目に遭わせてやろうってわけじゃないんだからねっ?)

 

 声には出さず、ツンデレ風味に呟いてみるが、これは一体誰に向けたモノなのか。自分でもちょっと解らなくて。

 

(って、訳のわからない自己弁護してる場合じゃないし)

 

「ええと、風邪をひいてアリアハンに残ったボクは教会で出会ったロディさんという魔物使いの人にまず魔物使いの心得や、魔物との接し方などを学びました。その後――」

 

 俺は、シャルロットの話に耳を傾けることにした。

 

「さっちゃん達がスレッジさんの修行で強くなろうとしてたことは知ってましたから、その修行法のことを知ったら強くなる糸口があるんじゃないかと思って、ジパングに向かったんです」

 

 シャルロット曰く、一緒に修行していたさつじんきのジーンと話が出来れば修行法について詳しいことも解るだろうと思ったらしい。ところが、ジパングでジーンを探していたら何故か女王の所まで連行され、おろちと対面するハメとなったとか。

 

「ふむ、スレッジから聞いた話と概ねは同じだな」

 

 シャルロットが連行された理由も俺が面倒を見てくれと預けたジーンを追っ手から守ろうとしてのことだったようなので、残念だが失点には出来ない。

 

「はい。それで、その後お師匠様の話をして」

 

「俺の話?」

 

 ただ、続いてシャルロットの語り始めた話は初耳で、気づけばオウム返しに尋ねていた。

 

(魔物を仲間にすることが出来るようになった経緯は先に聞いちゃったし、あの時はサマンオサ王入れ替わりの手口を知ってそれどころじゃなかったからなぁ)

 

 おろちは俺の報復を恐れて力を貸したのだと思っていたから、深く追求しなかったのだ。

 

「……あの、お師匠様。これから話すことは誰にも言わないで貰えますか?」

 

「口外無用か、それは内容によるぞ?」

 

 何やら意を決した表情で切り出したシャルロットへ俺が頭を振ったのは、何も意地悪でとかこれからおろちとOHANASIを控えているからとかそんな理由ではない。

 

「っ」

 

「シャルロット、お前は人が良い。黙っていてくれと言うことにも理由があるのだろう。だが、俺には師としてお前を守る義務がある。女手一つでお前を育ててくれたお前の母から……シャルロット、お前を預かっている身としてはな」

 

 そして、約束もしたのだ。魔王を倒すまでシャルロットの身は自分が命に替えても守る、と。クシナタさん達との同行ではなくシャルロットと共に行くことを選んだのは、アドバイザーが必要だと思ったのもあるが、この約束があったからでもある。

 

「お師匠様……」

 

「そもそもな、シャルロット。お前が黙っていたなら俺はおろちに聞くぞ? どんな手段を使っても」

 

 相手は魔物だ。しかも、女王に化けてジパングの人々を欺いてきた魔物である。だからこそ、完全に信用していないが、例外もある。あの魔物の命にしがみつく姿勢だ。

 

(そもそも保身からバラモスを裏切るところまでした訳だからなぁ)

 

 今のところこちらに味方しているようだが、俺はやまたのおろちの寿命を知らない。このまま憑依が解けずずっとこの身体で過ごすことになったとしても、寿命や老化に依る身体能力の低下を鑑みれば、おろちを抑えておけるのは五十年程度。つまり、寿命が尽きて抑える者が居なくなるまで従っていれば、あとはやりたい放題出来ると言うことでもある。

 

(と言うか、まずおろちが保身以外でこっちに味方する理由がわからないし)

 

 ひょっとしたらシャルロットが他言無用と前置きした話にその答えがあるのかも知れない。

 

(シャルロットがわざわざ内緒にしてくれとまで言うぐらいだもんなぁ)

 

 考えようによっては、それこそこの後のOHANASIに有用そうな情報が含まれている可能性もあり。

 

「ありがとうございます、お師匠様」

 

「ん?」

 

 聞くか聞かないかの迷路をぐるぐる回っていた俺の思考を断ち切ったのは、シャルロットの発した感謝の言葉。

 

「けど、大丈夫でつ。ボクが黙っていて欲しいってお願いしたことにだって、話せばお師匠様ならきっと納得して下さると思うから……」

 

 俺の前言を聞いても尚、話すと決めたのだろう。

 

「ならば『やっぱり聞かない』とは言えんな。いいだろう、聞かせて貰おうか」

 

 俺はそう答えて、約数分で自分の決断を後悔した。

 

「待て……本を燃やした?」

 

「あ、はい。だけど重要なのはそこじゃなくて――」

 

 いいや、しゃるろっと。おれ には じゅうぶん じゅうよう な おはなし ですよ。

 

「あの駄蛇……」

 

 そも、ブックバンドの件だってあの爬虫類がせくしーぎゃるってたからわざわざ性格矯正の本を探してきてやって起こった悲劇だったというのに、燃やしたとか、燃やしたとか。

 

「くくく……ふふ、ふははははは」

 

「お、お師匠様?」

 

 とりあえず、改心したとやらは少しぐらいなら信用してやってもいい。だが、とりあえず、OHANASIだけでなくOSIOKIも必要であることはよくわかった。

 

(問題は、せくしーぎゃるにとってご褒美になってしまう可能性と、また身体を差し出してきて有耶無耶にされる可能性だな)

 

 一応これについては、対策がある。脱がれる前に縛ってしまえばいいのだ。そして今の俺には多種多様なOSIOKIレパートリーもある。

 

「ふっ、いつまでもしてやられると思うなよ」

 

 まさに、リベンジの時来たれり。ニヤリと口の端をつり上げると、俺は歩く速度を少しだけ早めた。

 




あーあ、あの時シャルロットにポツリと洩らしただけで誤魔化したから……。

しゅじんこう は おいかり の ようです。

次回、第二百十一話「主人公の逆襲?(閲覧注意にならないと良いなぁ)」

ちなみに、ドラゴラムした主人公に見とれたのが原因とかその辺は誤魔化されてシャルロットも聞かされていないので、当然主人公も知りません。

と言うか、謎のドラゴンに惚れたからのくんだりもおそらく聞いていなかったと思われます。

そして始まるおろちとの対面

はたして、おろちの運命は?


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