強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百十三話「新たなる旅立ちへ」

 

「……女性を怒らせては、いけないな」

 

 後は自分達だけで大丈夫だと言われてしまえば、反論は難しい。こう、ちらっとでもおろちがナニをされたかを知ってしまえば。

 

(いや、 みなかった、おれ は なに も みなかった。おろち と くしなたたい の おねえさんたち は はなしあい で へいわてき に わかい したんだ)

 

 おろちの縋るような目なんて見なかった。スミレさんがめちゃくちゃイキイキしていたのも、持てる技術の全てを出し尽くしました、みたいな感じにされちゃってたおろちの姿だって見ていない。きっと、和解するシーンを見られたくないお姉さんの一人がマヌーサの呪文で幻を見せたのだ。

 

「立ち去った俺は、その後何があったかを殆ど知らない」

 

 誰に向けてか、ナレーションの様なことを呟いて頭を振ってみる。

 

「とりあえずこれでおろちの件は終了でいいな」

 

 流石にジパングを長く空ける訳にも行かない。人の姿へ姿を変えていたのだって、俺が来なければジパングに戻る為だった可能性もある。

 

「さて……シャルロットはもう戻ってきても良い頃か」

 

 自分自身はあまり長く話したつもりもないが、万が一蘇生呪文が必要になることを考え、クシナタ隊のお姉さん達がおろちとOHANASIをする間、殆どここで待機していたのだ。簡単な買い物なら終わらせて戻ってくるぐらいの時間は総合的に経過している。

 

「お師匠様ぁ」

 

 故に、噂をすれば影という奴だろうか。呼びかけられて声の方に顔を向ければ、鎧姿でこっちに手を振るシャルロットの姿がそこにはあった。

 

「どうだ、資金は調達出来たか?」

 

「はい、お店繁盛してるみたいで、ちょっと待たされちゃいましたけど」

 

「まぁ、無理もない。魔物の皮や鱗を持ち込んだ者が多かったのだろう?」

 

 昨日の攻防戦で倒された魔物は相当の数に上るはずだ。全部が使い物になるといかなくても水色の東洋風ドラゴンな魔物だけでどれだけの素材がはぎ取れることか。

 

「そうですね。倉庫に収まり切らなくなっていたみたいです」

 

 何という供給過多。

 

「それで、キメラの翼を売ったら凄く感謝されました」

 

「だろうな」

 

 ある程度予測はついていたのでシャルロットには、資金調達に余っているキメラの翼があったら売っておくようにと言っておいたのだ。

 

「この調子で素材が持ち込まれれば値崩れする。防ぐには他所で売るなりして在庫を捌く必要がある。だと言うのにキメラの翼は品薄。このままでは何処かで行き詰まる」

 

 暴動にでもなろうものなら、クシナタさん達やシャルロット、イシスの兵士及び戦士達がこの国を守った意味がない。ただでさえ商人が襲撃された件でイメージが悪化していると言うのに、ここで暴動が起きれば、商人からみたイシスの評判は地に落ちるどころか地面にめり込む。トドメ以外のなにものでもない。

 

「シャルロットにはルーラがあるからな。緊急用に持ち歩いておくのは当然だが、今すぐ使う訳でないなら、別の町で補充すればいい」

 

 問題が一つあるとしたら、これから向かう先への移動手段がルーラではなく徒歩、目的地も町ではないと言うことだ。

 

「ともあれ、本格的に動き出すにはまずサイモンと合流せねばな。その前に一度城に戻る必要がある訳だが」

 

 このイシスを救った英雄の一人であるシャルロットには、女王から褒美が贈られることになっている。当然、この恩賞を授与式っぽいイベントをすっぽかす訳にもいかない。

 

「しかし、俺は大したことをしていないと言うのに……」

 

「け、けどお師匠様はスレッジさんの知り合いですし、アッサラームで呪いを解いたことの方が主な表彰理由じゃないですか」

 

 シャルロットはフォーローしてくれるが、直接活躍した訳でもないことになっている人間が恩賞を賜るとか、周りの視線がとっても痛いことにならないかという不安がある。

 

(一応、報酬については欲しいモノがあったから、そう言う意味では都合が良いのだけど)

 

 俺が望もうと思っているのは、ピラミッドに安置されているまほうのかぎと言うアイテムだ。ゲームでは存在する三種類の鍵がかかった扉の内二種類を開けてしまえる品であり、アイテム集めなどでは色々とお世話になったものだ。

 

(アバカムの使える俺には実質不要だけど、魔法使いの呪文は使えない盗賊ってことになってるからなぁ)

 

 シャルロットの前でほいほいアバカムする訳にはいかない以上、これはどうしても手に入れておく必要があった。

 

(ピラミッド行って直接持ってきたら墓荒らしだし)

 

 事前に許可を得るのは、シャルロットを墓荒らしの一味にしない為である。

 

(ピラミッドかぁ……黄金の爪を失敬して笑い袋狩りしたのはいつのことだっけ。確かあそこもあやしいかげも出るんだよなぁ)

 

 俺が鍵を探しに行くと、またアークマージが出てきかねないので探索自体はクシナタ隊の一パーティーに頼むとは思う。

 

「すまん、気を遣わせたか。式は昼からだったな?」

 

「はい」

 

 その後、城に戻った俺達を恩賞授与の場でちょっとしたハプニングが襲うのだが、この時の俺はそんなことなど知るよしもなかった。

 

 

 




ぎゃぁぁぁ、出発出来なかったぁぁぁっ。

次回、番外編16「恩賞授与式にて(クシナタ隊商人視点)」

と言う訳で、どんなハプニングかは次回となります。

え、もう予想はついてます?
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