強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百十四話「勇者を捜しに」

「さて、行くとするかシャルロット」

 

「はい、お師匠様」

 

 女王から褒美として目当ての品を譲って貰う約束を取り付け、イシスの城を後にした俺は、城下町には寄らず北西に向けて歩き出した。

 

(しっかし、あれは本当に焦ったなぁ)

 

 式のさなか、いきなり兵士の一人が叫び声を上げるという珍事に思わず動揺してしまったのは、商人のお姉さんの下着をシャルロットに渡してしまったからだと思う。幸いにも女王の前に進み出る時の出来事だったので、シャルロットは気づいていないようだが、危ないところだった。

 

(ともあれ、イシスの件はほぼ片づいたと見て良いよな)

 

 幾つかに別けられたクシナタ隊のうち、ダーマ神殿を探す面々へ元親衛隊のエビルマージ達はローブを脱いでついていった。目的は、魔物でも転職可能かを試す為だ。

 

(まぁ、エピちゃん達は耳を隠せば人間で通せそうだし、問題はない)

 

 逆に言うとその他の面々は色々問題があると言うことになるのだが、残る親衛隊の面々にはおろちと一緒にジパングに行って貰うことになっている。

 

「ピキー?」

 

「あ、メタリン」

 

「ふ、こいつがお前の側を離れたくないと言うのでな」

 

 例外的に同行を希望した灰色生き物を一匹だけ荷物に詰め込んで連れてきたが、経験値の固まりであるこいつを置いてきぼりにして、勝手についてこられるよりは目の届く場所に置いた方がマシだろうという苦渋の決断である、ので。

 

「パンツ被るな」

 

「ピキー?」

 

 ぴきー、じゃねぇ。と言うか、荷物に入れたのは俺だが、何がどうして人の下着を被ってるんですか、この灰色生き物は。

 

「……シャルロット?」

 

「え、あ、違っ、ボ、ボクが教えた訳じゃ、と言うかボクのパンツだっ……あ」

 

 思わず視線を向けてみれば、シャルロットは取り乱しつつも弁解する途中で何かに気づいたかのように固まって。

 

「や、あ、ち、違うんです! 被って欲しいのはメタリンじゃなくてお師匠様で」

 

「は?」

 

 真っ赤になってブンブン手を振るシャルロットの言葉に今度は俺が凍り付く。

 

(あるぇ? ガーターベルト は ぼっしゅう した はず ですよ?)

 

 ならば、一体何があったというのか。

 

「くっ、メダパニか」

 

 消去法で考えられるのはただ一つ。ただ、イシスの周辺に対象を混乱させる呪文を使う魔物は棲息していないはずだった。

 

「ぬかった、魔物の侵攻があったことで魔物の生息域にも変化があったとは」

 

 この状況で俺まで混乱したら、詰む。俺は周囲を見回し、必死に魔物の姿を探す。混乱してるとは言え、シャルロットの前で反射呪文を唱えるのはリスクが高すぎたからだ。

 

(考えられるのは、ミイラが無差別に相手を襲うようになって、ピラミッドから逃れてきた魔物か、侵攻軍の残党か)

 

 推測の域を出なかったが、じっくり考えている暇はない。

 

「オ゛オオオオォ」

 

「そこかっ」

 

 俺は砂を盛り上げて姿を現したそれ目掛け、腕に絡ませたままになっていた鎖を解き、先端の分銅を叩き付けた。

 

「オ゛ゴッ」

 

「っ、ミイラ男?!」

 

 だが、一撃の命中した相手は全く関係ない雑魚の魔物で。

 

 

 

「……まったく、一体何だったのだろうな」

 

「え、ええと……」

 

 包帯でぐるぐる巻きになった動く死体を元の死体へ戻して暫し。周囲の気配を探っても魔物のモノと思わしきものが耐えたことから、シャルロットへと向き直ると、混乱は解けていた。もっとも、不意打ちされて混乱した未熟を恥ずかしく思ったのか、顔を赤くして俯いていたのだけれど、俺とてそこを指摘する程鬼ではない。

 

「ピキー、シショ、早イ」

 

 シャルロットと違って早さに特化した肉体なので、灰色生き物はあっさり捕まえて下着は回収したが、昨晩も下着で大ポカをやらかした。ガーターベルトも下着とするなら、ひょっとして俺は下着に呪われているのだろうか。

 

「これでも素早さこそウリの盗賊だからな」

 

 灰色生き物から受ける尊敬の眼差しに応じつつもパンツを肩掛け鞄の中へ戻し、空を仰ぐ。

 

(ま、そうは言ってもおろちはジパングに帰ったし、シャルロットのガーターベルトは俺が持ってるし、クシナタ隊の中にいたひょっとしたらせくしーぎゃるかもしれないお姉さんも別行動。もう、せくしーぎゃるに悩まされること何てないんだ)

 

 さっきはシャルロットをいきなり混乱させられるなどという醜態をさらしたが、二度同じ失敗をするつもりもない。

 

「シャルロット、聖水を」

 

「はっ、はいっこれでつ」

 

 まだ顔を赤くして目を合わせてくれないシャルロットからとりあえず、目的の品を受け取ると、俺は瓶の蓋を開け、中身を振りまいた。

 

「これでこの辺りの敵が不意打ちしてくることはもうあるまい」

 

 と言うか自分より弱い敵を近づけない聖水を肉体の強さで人間の限界に近い位置にいる俺が使ったのだ、敵対したままだったならレタイト達ですら、近づけないだろう。

 

「このまま北東に進めばやがて北の海岸に至る。サイモン達がこちらに向かっているなら、何処かで合流するはずだ」

 

 シャルロットに同行してバラモスを倒すなら、元々のパーティーとの合流は必須だ。それに、世界を旅するには、勇者サイモンがポルトガから俺達が目指している北の海岸へと至る為に乗り込んだ船も居る。

 

「サラがアバカムを覚える程成長していてくれれば、魔法の鍵も必要ないのだがな」

 

「さっちゃん、ですか。アランさんやミリーも大丈夫かな……」

 

 ようやく少しだけいつもの調子が戻ってきた様に見える、シャルロット。

 

「問題ないだろう、あちらにも勇者はいるのだからな」

 

 だが、俺に出来ることと言えば気休め言うことぐらい。見渡す限り一面砂の世界にはまだ動くモノを捕らえられなかったのだ。

 

 




と言う訳で、主人公パーティーは現状、当人とシャルロット、それにメタリンの二人と一匹パーティーになっております。

親衛隊のスノードラゴン一頭借りて乗り物にする案も出たのですが、サイモン達に魔物の群れと勘違いされ呪文攻撃される可能性を考慮し、断念したとかいう裏話があるとかないとか。

次回、第二百十五話「もう、せくしーぎゃるとはむえんのはずなんだ」


……まぁ、お約束ですな。

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