強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百十七話「もう一つの説明」

 

「ふふふ、命の恩人だというのにまだ何もお返しらしいお返しをさせて頂いてないでしょ?」

 

「い、いや……まぁ、確かにそうだが」

 

 義理堅いのか、律儀なのか。命の恩人であることを鑑みると、驚くような申し出ではないように思えるかも知れないが、このおばちゃんは魔物で、俺は人間。両者は敵味方に分かれた存在でもあるのだ。

 

「良いのか、そもそもお前には大魔王と言う主が居るのだろう?」

 

 そう、ついでに言うなら野良モンスターでもなく、大魔王に仕えていると自分から言っていた。

 

「しかも子供もいると言っていたな。お前が人間についてきて子供の立場が危うくなることは?」

 

 いらぬお節介のような気もするが、俺達について来るというならゾーマ配下の魔物達から見れば、裏切り者扱いされても仕方ない。

 

(ましてや、シャルロットの最終目標はその大魔王ゾーマを倒すことだからなぁ)

 

 このまま同行すると、最悪お子様達と刃を交える展開も考えられる。

 

「あらあら、こんなおばちゃんにお気遣いありがとうございます。けれど、大丈夫。あの子達もとうに独り立ちしているし、おばちゃんもあの状況なら戦死扱いされてるんじゃないかしら?」

 

「いや、『ないかしら』で済む問題か?」

 

 まぁ、確かに俺とシャルロットが通りかからなかったらそうなっていた可能性が高いが、アークマージは蘇生呪文が使えるのだ。俺達と違っておばちゃんの名前も知られていた筈だし、死体さえ見つかれば生き返らせて貰えるのでは、とも思う。

 

(と言うか、ゲームじゃ無限に出てきたからあれだけど、蘇生呪文使える者ってかなり貴重なんじゃ――)

 

 だいたい、こんな僻地に居るとは言え、本来ならゾーマの城に居てもおかしくない魔物なのだ。

 

「戦死したと見られたとして、ミイラの襲撃が落ち着けば捜索隊が遺体を回収しに来るんじゃないのか?」

 

「うーん、可能性としては0じゃないと思うけれど、限りなく低い確率だとおばちゃんは思うわ。ほら、ここ砂漠でしょ? 死体は砂に埋もれちゃうから」

 

「ふむ」

 

 言われてみれば、確かにこんな砂ばかりの場所での捜索活動は無謀か。おばちゃんも会った時は砂嵐にあって砂の中に埋まっていた訳だし、ミイラから逃げ出したという魔物達が体勢を整え戻ってきたとしても、その頃には踏んで解らない程砂が上に積もっていることも考えられる。

 

「それにね、貴方にはちゃんとお話ししておかないとと思ったの」

 

「は、話す?」

 

「ええ」

 

 急に話を方向をぐいっと変わり、思わず問い返すとおばちゃんは頷いてから続けた。

 

「だって、あの時はおばちゃんが子持ちで主人が居た何て知らなかったでしょ? いきなりキスなんて、人間の求愛は凄く大胆なんだなぁって思いましたけど……」

 

「待て」

 

 ええと、なにか ものすごい かんちがい なさって ませんか この おばちゃん。

 

「貴方は命の恩人でしょう。『私には主人がおりますから』とすげなく断るのではなくて、全てを明かし、しっかり納得し」

 

「だから、待て」

 

「……あら?」

 

「『あら』じゃなくて、いやそれはどうでも良いか。とにかく誤解だ」

 

 反応からして人工呼吸を誤解してるのはシャルロットだけだと思ったのに、全然気にしていないように見えてきっちり誤解してるとか、どういうことですか。

 

「誤解? ひょっとして」

 

「ん?」

 

「人妻でもおばちゃんでも構わないと仰るの?」

 

「ちょ」

 

 しかも誤解だと言えば逆方向に勘違いを進めてしまう仕様。

 

「そ、そんな……お師匠様は、お師匠様は……年上の人が好きだったなんて……」

 

「シャルロット?!」

 

 ちょっとまってください しゃるろっと さん、なんで こんな さいあく の たいみんぐ で ふっかつした あげく きかなくて も いいような ところだけ ひろって すな の うえ に くずれ おちるんですか。

 

(というか ししょう が としうえずき って そんなに わるいこと なんですか)

 

 断っておくが別に俺は年上好きではない。胸の大きさで攻略対象を選んで年上及び熟女好きのレッテルを貼られた知り合いとは違う。

 

「っ、何故こんなことになるっ」

 

 一体俺が何をしたというのですか。ただ、人と言うか魔物を助けただけじゃないですか。

 

「最大のライバルは……お母さんやおろちちゃんだったんだ……」

 

 などと しゃるろっと は いみふめい の きょうじゅつ を しており。

 

(って、現実逃避してる場合じゃない。だいたい、俺達は動く複数の影を見つけて、それの確認に来たんじゃないか)

 

 こんな所で時間を浪費しては見つけられるモノも見つけられなくなる、相手は動いていたのだから。

 

「二人とも、説明は道すがらする。こんな何もない砂だらけの場所に留まっている理由もない。とりあえず歩」

 

 気力を振り絞り、おばちゃんとシャルロットに声をかけ、俺は促そうとした。まさにその時だった。

 

「ご、ご主人様ぁぁぁぁぁぁっ」

 

 聞き覚えのある声が、聞こえたのは。

 

(今のは、バニーさんか?)

 

 妙に必死そうに聞こえたのは、気のせいで無いと思う。

 

「まさか、ミイラか魔物に」

 

 この辺りの魔物などバニーさん達には敵でない気もするが、おばちゃんの様な規格外が砂に埋まっている今、想定外の状況は容易に起こりうる。

 

「恩を感じているというなら、そっちの娘を頼む……っ、間に合えよ」

 

 俺は振り返ってまだ復活する様子のないおばちゃんへシャルロットのことを頼むと返事も待たずにバニーさんの声がした方へ駆け出していた。

 

 




ああ、結局説明出来なかった。

ちなみに主人公の知り合いさんはレッテル回避の為にロリ巨乳に手を出して(恋愛ゲーム的な方向で)主人公が最後会った時にはロリコン扱いされていたそうでつ、めでたしめでたし。

ともあれ、バニーさん久しぶりの出番です。(声の出演のみ)

次回、第二百十八話「そしてようやく合流ってことで良いんですよね?」

シャルロット、サイモン、いよいよ二人の勇者が揃うのか?

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