強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百二十話「サラ」

「まんまるボタンはお日様ボタン~」

 

「お、お師匠様?」

 

 キャラ崩壊なんて生やさしいモノじゃないかもしれない、だが俺は敢えて歌っていた。

 

「イシスに伝わる歌でな、それがピラミッドにある仕掛けを作動させる為のヒントらしい」

 

「あ、あぁ……そう言うことですか、ボクてっきり……」

 

「いや、一応少しだけ現実逃避したい気持ちもありはしたのだがな」

 

 シャルロットとの会話中だが、結論だけ先に言うなら俺達のピラミッド探索は確定した。アークマージのおばちゃんにピラミッドへ取りに行きたい物があることを明かし、お仲間と戦闘にならないよう取りなしてくれと頼んでみたらあっさりOKを貰えたのだ。

 

「あ、あぁ……さっちゃん、大変でしたからね」

 

 逆に言うなら、魔法使いのお姉さんがガーターベルトの黒歴史を克服するのに時間がかかりすぎていると言う訳でもあるんだけれど、シャルロットはその辺りを察してくれたらしい。

 

「ま、それも説明の時間が貰えたと思えば……」

 

 おばちゃんが魔物であることとか、助けた経緯などの説明も魔法使いのお姉さん以外には終わっている。

 

「あとは、あいつがあの忌まわしい過去を克服出来るかどうかだ」

 

 シャルロットのように耐え切れたなら連れて行く、そうでなければアリアハンにお帰り願う。ただそれだけのこと。

 

「ちいさなボタンで扉が開く~」

 

 待つ間の時間つぶしを兼ねて再び歌い出しつつ、無意識に足を押さえる。

 

「ピキー?」

 

「あ、メタリン」

 

 静まれ、俺の右足。この灰色生き物は敵じゃない。

 

(ああ、時々スライムを蹴ってたせいでこの形状を見ると無性にシュートしてみたく……)

 

 習慣というのは怖いモノだとつくづく思う。決して、シャルロットと一緒に寝たりしていたのが妬ましいとか、シャルロットのパンツを被って駆け回ったと聞いて、ちゃんと躾をしておくべきと思ったなんてこととは全く持って関係ないと思う。

 

「始めは東ッ、次は西ッ」

 

 モヤモヤを振り切るように歌い続け。

 

「ん?」

 

「どうしました、お師匠様?」

 

「いや、何だか覚えていたモノと微妙に歌詞が違っていた様な気がしてな」

 

 問いかけてきたシャルロットへ反射的に、答える。

 

(んー、何だろうこの違和感)

 

 考えてみても、答えは出なくて。

 

「あ、そう言えばお師匠様の歌、ボクがお城で聞いたのと少し違う気も」

 

「本当か?」

 

「はい。確か、ボクが聞いたのは」

 

 謎が氷解したのは、うろ覚えと前置きしてシャルロットが歌ってくれた後のこと。

 

「成る程、そうか。ファミコン版とスーファミ版――」

 

 ゲームではリメイク作品と元のモノで仕掛けの作動方法が違っていたのだ。ちなみに、俺の覚えていたのが旧作の方だったのだと思われる。

 

「ふぁみこん? すーふぁみ?」

 

「いや、何でもない」

 

 そも、盗賊が職業として存在している時点で気づいておくべきだったのかも知れない。

 

(まぁ、うろ覚えだったから……じゃ、言い訳にならないかな)

 

 ともあれ、うろ覚えの知識通りに操作していたとしたなら仕掛けは作動しなかっただろう。

 

「すまんな、別の童歌と混同していたらしい。助かった」 

 

 本当に、シャルロットが居てくれなければどうなったことか。

 

「ピキー? シショ、コンドー?」

 

 だから、落ち着こうと思う。別に足下の灰色生き物は俺をおちょくっている訳ではないのだ。

 

「勇者様」

 

 ちょうどそんな具合に俺が己と戦っていた時だった、背後から声がしたのは。

 

「え? あ、アランさん。さっちゃんの様子はどうですか?」

 

「実は、そのことについてお話しがあるのですがな……」

 

 振り返ったシャルロットに神妙な面持ちで、僧侶のオッサンは頷き、切り出した。

 

「僧侶を辞めようと思うのです」

 

「「え」」

 

 俺とシャルロットの声が重なったのは、無理もないことだったと思う。

 

「な、何で……それに、いきなり過ぎると思うんだけど」

 

「あ、あぁ……説明して貰いたいな」

 

 だいたい、魔法使いのお姉さんが立ち直るのとオッサンが僧侶を止めるのに何の関係があるというのか。

 

「ん、僧侶?」

 

「おや、気づかれましたか……」

 

 ただ、一つの単語が妙に引っかかり、つい口に出してみれば表情こそ変えずオッサンは視線を逸らす。

 

「以前職業を変えることの出来るダーマの神殿のことをお話し頂きましたな?」

 

「ああ、言いはしたが……見たところ、全ての呪文を修めた訳ではないだろう?」

 

 転職後も覚えた呪文は行使出来る。そう言う意味で言うなら、オッサンがここで転職した場合、効率が悪い。まだ覚えていない僧侶の呪文を覚えたくなった場合、再び僧侶に転職して一から修行を積まなくてはならないのだから。

 

「と、言うことは――止める理由は」

 

 俺が思い至ったのは一つだけ。

 

「ええ、お察しの通りですな」

 

 そして、こちらの表情で考えを察したのか、オッサンは頷く。

 

「え? え? ど、どういうこと?」

 

 ただ、シャルロットだけが取り残されていたが、説明は後でいいとも思う。

 

「後悔はしないのだな」

 

「愚問ですな」

 

 視線を交わした後、口にした言葉は短く「そうか」とだけ。

 

「では、行って参ります」

 

 シャルロットと俺、ついでにメタリンにも頭を下げたオッサンが去り。

 

「……ご迷惑をおかけしましたわ」

 

 魔法使いのお姉さんがオッサンの法衣の端っこを握って現れたのは、暫く後のこと。

 

「いや……ただ、幸せにな」

 

「え? え? えええっ?!」

 

 さりげなく呟くと、耳に入ったのかシャルロットが俺とお姉さんついでにオッサンの顔を交互に見て驚きの声を上げた。

 

「……やはり、気づいてなかったか」

 

 きっかけは、おそらくナジミの塔。メラの呪文で焼かれたお姉さんの顔をオッサンがホイミの呪文で癒したことか。

 

「なんとなく、そんな気はしていた」

 

 そうコメントするのは、一緒に旅をしていた勇者サイモン。ぶっちゃけ、せくしーぎゃるったお姉さんがあそこまであからさまにオッサンに胸を押し当てたりしていたのも、多分あれが始めてではなかったのだろう。

 

「あらあら、まぁまぁ」

 

 おばちゃんが何故か嬉しそうなのは、うん、とりあえずスルーしよう。

 

「あ、その……お、おめでとうございます、お二人とも」

 

 そんな、空気の中、バニーさんはひっそりと祝福していて。

 

「あ、ありがとうございますわ」

 

 真っ赤になりつつ礼を言うお姉さんを眺めつつ、冷やかしと祝福半分に俺は拍手を送ったのだった。

 




ちなみに、闇谷が覚えてたのも古い方でした。

FC版はでんでろでんでろして一度もクリアーしてないにもかかわらず。

四コマ漫画劇場で男戦士が歌ってたののインパクトが強すぎたのです。

と、言う訳で、予定より前倒ししましたが、僧侶のオッサンと魔法使いのサラさんがくっつきました。

いやぁ、ナジミの塔の時点でこの二人がくっつくのは確定していたのですが、そう考えると長かったのかな?

ともあれ、僧侶のオッサンが責任を取りに行ったことによって、魔法使いのお姉さんは復活を果たしたのでした。

次回、第二百二十一話「ピラミッド」

ああ、ようやくまほうのかぎが手に入る




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