強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百二十一話「ピラミッド」

 

「オオォォ」

 

「ゴアァァァァッ」

 

「あらあら、やっぱりどこもかしこもミイラだらけだわ」

 

 曲がり角や通路の奥から現れた守人達を見て、おばちゃんは息を漏らした。

 

「せいっ」

 

「「ウゴ、ガァァァァ」」

 

 いや、息を吐いたと言う方が正しいか。ゲームでもアークマージの使った冷たい息がミイラ達の動きを鈍らせたところで、俺が鎖分銅を一閃。それだけでミイラ男達との何度目になるか解らない遭遇戦はあっさり終了した。

 

「真似したいとは思わないが、便利ではあるな。助かった」

 

「まぁ、どういたしまして」

 

 魔法使いのお姉さんが復活するやいなや、俺達は即座にピラミッドへ突入し、おばちゃんの案内を経て目的の場所までほぼ最短ルートを進んでいる。

 

(それでもこの手のやりとりを両手の指の数では足らない程繰り返して来たのは、たぶんあの命令のせいだろうなぁ)

 

 イシス攻防戦では味方してくれたミイラ男達への魔物を襲えという指示。ピラミッドの番人であるミイラ達と共生し普段から沢山の数が棲息していた魔物達をミイラ達が敵と見なしたら、どうなるか。答えは簡単だ、守るべき場所に大量の敵が入り込んでいるとミイラ達は判断した。

 

(そりゃ、最優先で殲滅しようとするわなぁ)

 

 結果、それまでの非では考えられない程のミイラおとこ達が眠りから目覚め、物量に負けたおばちゃん達は、ピラミッドからの撤退を余儀なくされた訳だ。

 

「お師匠様ぁ、すごろくけんの回収終わりましたよ?」

 

「ああ……しかし、やはり遭遇戦が多いな」

 

 おばちゃんがいれば戦闘回避も出来て楽に進めると思っていたピラミッドは、俺の予想を大きく裏切った。足音を殺し、遭遇回数を減らしているのにミイラが大フィーバーしてるのだ。

 

「……こいつらが、骸を晒しているのも当然か」

 

 おばちゃん達の逃避行で脱落した者なのか、別口か。ここまで来る間にも、そして今通っている道にも息絶えた魔物や最初から倒されていたミイラ達が点在していて、俺が目を留めたのもそんな魔物の一体。

 

「こうなってしまうと、もはや壊れた財布だな」

 

 それは、大量の金貨を持っている為にゲームでは乱獲された魔物。もはや顔のついたボロボロ袋でしかなくなった、「わらいぶくろ」という名の魔物の骸からは、中に入っていたらしいゴールドが外に零れ出していた。

 

「ふむ、これが話にあった『わらいぶくろ』ですか」

 

「ああ。盗掘よりもこの魔物目当てでピラミッドに訪れる者がそれなりに居たと聞く。出来れば全部回収して資金に回したいところだが、この現状ではな」

 

「確かに、こんなにミイラ達がうようよしている場所で欲をかいてはろくなことにならなさそうですわね」

 

 僧侶のオッサンの言葉に俺が解説すれば、杖の先端で倒れたミイラをつつきつつ、魔法使いのお姉さんは呟いた。

 

「解ってはいたけれど、これでは残った仲間達の生存は厳しそうねぇ」

 

「まぁ、高位の魔物ならある程度は耐えうるだろうが、消耗もするしな」

 

 ボロボロになった魔物の死体を背負ったまま、悲しげに漏らすおばちゃんへ相づちを打ち、視線を向けた通路の先にもやはりポツポツと死体がある。

 

「ごめんなさいね、精神力が残っていたら助けてあげられたのに」

 

 なんて死体に語りかけてるおばちゃんを見ると、俺としては色々とコメントに困る訳だが、ともあれ、見ていて気持ちの良いような光景ではない。俺がザオリクの呪文を使えるから、二重の意味で。

 

(流石に人前で使う訳にもいけないし、ましてや相手は魔物だもんなぁ)

 

 勿論、完全に救済していないかというとそうでもない。

 

「すみません、ボクの呪文がもっと成功していたら」

 

「まぁ、ごめんなさい。そういうつもりじゃないのよ?」

 

「そ、そうですとも、姫! 私は生き返らせて貰ったことを感謝しております」

 

 頭を下げるシャルロットを慌てるおばちゃんと一緒に宥めているのは、緋色の甲冑一式だった。

 

「うーむ」

 

 俺の知る限りキラーアーマーと言う名前だったそれは、ザオラルで生き返るや、シャルロットを主と認めたらしい。

 

(まぁ、ディガスの様ないかにもアンデッドな魔物も今はこっち側だもんなぁ、きっとツッコむのは無粋なんだろう、うん)

 

 シャルロットの蘇生呪文が変に作用した、なんて可能性もあるかもしれないし、ないかも知れない。

 

「まぁ、いいか。連れ歩けなければおろちの所にでも預ければ」

 

 一応、鎧と言うことで人型の魔物ではあるし、ディガスよりはマシだとも思う。

 

(このままなし崩しに仲間モンスターが増えて収拾がつかなくならなければ、だけど)

 

 蘇生呪文で生き返った魔物の内、同行を許しているのは魔王の影響を受けない高位の魔物に限定されてる訳なのだが、誰もがあやしいかげとしてこんな僻地に左遷させられていた連中である。

 

「まぁ、あの態度も仕方ないかもしれない……が」

 

 蘇生を恩に感じていきなり忠誠を誓っちゃうキラーアーマーにはちょっとドン引きしたが、このままだとバラモス親衛隊ではなくシャルロット親衛隊が出来てしまいそうで、ちょっと怖い。

 

「……いや、今は鍵を手に入れることだけを考えよう。確か、ボタンのある場所はこの先だったな?」

 

「そうねぇ、間違い無いと思うわぁ」

 

「そうか」

 

 おばちゃんの声にうろ覚えの記憶を補強された俺は更に通路を奥へと進んで。

 

「これが、あの歌の――」

 

 遂に、まんまるボタンだかちいさなボタンだかと対面を果たしたのだった。

 

 

 




最初はみんなのアイドル・ホイミンにしようかと思ったけれど魔王の影響で凶暴化する為、泣く泣く没に。

かわりに鎧が仲間になったぞ、やったね。

鎧に「ニーサン」とか言わせたいと思ったのは秘密。自重して騎士風にしましたよ?


次回、第二百二十二話「まほうのかぎ」

ピラミッド回、これで終わりに出来ると良いなぁ。


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