強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百二十五話「死中に活路を」

「何処かの井戸にすごろく場があるという噂を耳にしたことがあってな、アリアハンの井戸にもメダルを集める変人が家を建てて住んでいただろう?」

 

 シャルロットにガーターベルトなんか渡してくれやがったメダルのオッサンに唯一感謝することがあるとすれば、それはこうして言い訳の事例を提供してくれたことだけだと思う。

 

「ああ、そう言えばあのおじさん井戸に住んでるって言ってました」

 

「まぁ、そう言う訳だ。思い出したタイミングで近くに井戸があったからな。この井戸には何かあるのかと思ったのだが……俺の思い過ごしだったらしい、すまんな」

 

 とりあえず、井戸に飛び込む奇行については、これで何とか言い繕うことが出来た。

 

(問題はここからだよな)

 

 シャルロット達に向けて下げた頭を上げると、みんなの顔を見回し、内の一人へと目を留めた。

 

「それで、預け物の件だが――」

 

 この時、俺の中ではシャルロット達への回答が完成していた。

 

「アラン、『毒をもって毒を制す』と言う言葉を聞いたことがある。そこで、ふと思ったのだが、あの女僧侶に着せたら回り回ってまともな性格になるのではないか?」

 

「な」

 

 その根拠、送り主へと繋がる理由、腐とせくしーぎゃる、明らかに相反する物だからこそぶつかり合って中和する可能性を僧侶のオッサンに投げかけたのだ。

 

「……おっしゃりたいことは解りますが、それは一歩間違えば最強最悪の存在を産んでしまうことになりかねませんかな?」

 

「かもしれん、だからこそ言い出しにくかったのだ」

 

 我ながら、ナイス言い訳だと思う。オッサンの問いかけに答えつつ、更に俺は迷っていたのだと告白する、

 

「お前の言うことも解る。だからこそ、誰も言及することがなければ、俺が密かに回収しに行き、人目のつかない場所に封印することも考えた。生憎、取りに来る時間的余裕もなく、こうして言及されてしまった訳だが」

 

「……そうでしたか、あれを何とかしようと考えて下さったこと、同じ神に仕える者として感謝致します」

 

「いや、考えはしたが……結局の所危険な賭けでもあったのだ」

 

 シャルロットや魔法使いのお姉さんでも持て余し気味だったのだ、悪い方に転がったらどうなったことやら。だからこそ、俺はオッサンの感謝をまともに受け取ることが出来なかった。実際は口から出任せだったという意味でも。

 

「まぁ、そう言う訳だ。そもそも、アレの恐ろしさについては説明不要だろう?」

 

「あぅ、で、ですね」

 

「そうですわね」

 

 酷い目に遭わされたシャルロットと魔法使いのお姉さんにはぼかしつつもガーターベルトのことに触れれば、それで充分だった。

 

(とりあえず、窮地はしのげたな)

 

 作成を頼んで放置も拙いので、最悪俺が女性にモシャスしてモデルになり回収するしかないかなとも思うのだが、それは思い切りイシスで出来た心の傷を剔るものでもある。

 

「ともあれ、そう言うことでしたら刀鍛冶には『元となった品が着用者へ副作用を及ぼすことが解った』とでもして依頼を取り下げれば宜しいでしょう」

 

「そ、そうだな」

 

 僧侶のオッサンがフォローしてくれたこともあり、こうして俺は窮地を切り抜けた。せっかく作って貰おうとした品だが、せくしーぎゃられる精神的負担と引き替えに手に入れる程の物でもない。

 

(そもそも、まかり間違ってあの言い訳が採用されてしまったとしたら……)

 

 せくしー腐ぎゃるな女僧侶という大魔王ゾーマよりも色々な意味で恐ろしいラスボスが誕生するところだったかもしれないのだ。

 

(うん、考えるのは止めよう……とりあえず、今はおろちと会って、スノードラゴンを借りてくることだけを考えないと)

 

 色々とピンチだったり、うっかりパンドラの箱もしくは禁忌に触れてしまった感はあるが、本来の目的を見失ってはならない。

 

「では、改めて俺は女王に会いに行ってくる。刀鍛冶の所の品は封印する分には回収してきても構わんが、扱いはくれぐれも慎重にな」

 

「わ、解ってますわ」

 

「はい。あ、あの、ご主人様……行ってらっしゃいませ」

 

「いってらっしゃい、お師匠様」

 

 釘を刺しつつ向けた背にかかる声が三つ。

 

「ん?」

 

 そう、三つ。

 

「どうしました、お師匠様?」

 

「あぁ、いや……シャルロット、お前が連れてきた魔物やあのアークマージの姿がないなと思ってな」

 

 ピンチだったから失念していたが、そう言えばジパングに着いた後あたりから声を殆ど聞いていない気がする。

 

「それでしたら、ここが新しい住処になるかも知れないと言うことでおろ……女王様の所に挨拶に行ったみたいですよ?」

 

「そうか、よくよく考えれば通常の町には入れられないような魔物もてなづけていたからな……ん?」

 

 シャルロットの声に疑問も氷解し、それなら良いかと思いかけたところで、気づく。

 

「だが、アークマージは思い切り女ではないのか?」

 

「あ」

 

 そも、おろちが女性恐怖症と聞いた時点でおばちゃんは既に居なかった気がする。

 

「急いで行ってくる、もう遅いかもしれんが」

 

「ええと、お気を付けて」

 

 間に合ってくれと祈りつつ、俺は全力でヒミコの屋敷へ向け駆け出した。

 

 

 




「わたしは『せくしー腐ぎゃる・エミィ』……男同士、男女、女同士、どこから来て、どこへ行く? その全てを堪能し、書き、拡散させて、やがて桃と薔薇、百合色で世界を染め、新たなる楽園へと導こう……ですぅ」

せくしー腐ぎゃる・エミィ が あらわれた!

(BGMはお好みのラスボス戦をおかけ下さい。ちなみに闇谷のイメージしたのはネオ・エ○スデス戦でした)




いやぁ、一歩間違うと上のように本当に大変なことになっていたのですね、うん。

次回、第二百二十六話「おばちゃん、そしておろち」

主人公、果たして間に合うか。

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