「おっ、お前様、助け、助けてたもぅ」
「あらあらまぁまぁ」
可能性としてはあり得た。涙目で抱きついてくる偽ヒミコ=おろちとその光景をにこやかに見つめるアークマージのおばちゃん。
(うわぁい)
シャルロット達を同行させなかったのは有る意味で正しかったと思う。
「これは……一体どういうことなのでしょうか?」
「ああ、ここの女王は女性恐怖症らしくてな。女性が会いに行くのは危険だと慌てて追いかけてきたら、こうなった訳だ」
「成る程」
シャルロットを姫と呼んでいた動く赤甲冑の問いに答えると質問者が納得したところまで見てから、俺は視線を胸元へ落とした。
「で、いつまでそうやってるつもりだ?」
おばちゃんに見られたのも拙くはあるが、まだ一人ならフォローのしようはある。だが、もし、僧侶のオッサンが後ろをついてきていて目撃されたら、更に面倒なことになる。あのオッサンには一度、とんでもない勘違いをやらかした前科があるのだ。
「い、嫌じゃ。女子怖い、女子は怖いのじゃ! あ、あぁ、止めてたもう、わらわの、わら」
「……そんなに怖いなら赤渦作り出して洞窟に逃げれば良いだろうに」
言ったはみたものの、錯乱して聞いている様子のないおろちを見たまま、ポツリと漏らす。
「……と言っても聞いてないか」
流石にキラーアーマーやおばちゃんも人の目のあるところで顔合わせするのは拙いとお付きの人が居ないタイミングを見計らって会いに来たようだが、ならばおろちとしての力を使ってしまっても何の問題も無かっただろうに。
「ともあれ、そう言うことなのでな。アンは席を外した方が良かろう」
「まぁまぁ、そう言うことなら仕方ないわねぇ」
「ついでに俺も要らぬ誤解を招く気はないのでな、席を外そう。代わりに元親衛隊のスノードラゴンを二頭ほど借り受けたいと言っていたことを伝えておいて貰えると助かる」
「はっ」
とりあえず、おばちゃんの了解とキラーアーマーの敬礼を貰うと、俺は無言のまま偽ヒミコの着ている服の襟を手で摘む。
「嫌じゃ、嫌じゃ、助けて、助けてたも。助」
「ふむ」
せくしーぎゃるっているおろちのことだから、服に手をかけた瞬間自分から脱ぎ捨てるぐらいはしてくるかと思ったが、OSIOKIはよっぽど堪えたらしく、未だに復活する様子もない。
「なら、好都合か、ふんっ」
「うあっ」
本性のおろちと比べてもたぶん俺の方が力はあるのだ。貼り付いたおろちを引っぺがすのは簡単だった。
「女王は任せる」
「は? は、はい、承知致しました」
「アン、ここへ来い」
そのままおろちの身体は一瞬面を食らいつつも応じてくれたキラーアーマーに押しつけ、代わりにおろち除けのおばちゃんを手招きする。
(連れ出さなきゃ面白がってこのまま居座りそうな気がするんだよなぁ)
ついでに女性が側にいればおろちも再びこっちには来ないだろう。
「あらまぁ、今日は積極的なのねぇ。おばちゃん驚いたわ」
「……解ってて言ってるだろ? いいから、来い」
誤解は解いたのだから、おそらくはからかっての物と思われる反応に、少し迷ってから問いを挟んで手を引き。
「この辺りでいいか」
卑弥呼の屋敷を出て、屋敷の裏手に回った所で足を止める。
「……お前とは話しておく必要がありそうなことが幾つかあったからな。ちょうど良い機会だ」
そう、よくよく考えると人工呼吸の一件で有耶無耶になってしまい、しっかり聞けなかったことが幾つもあった、
(それに、このおばちゃんを何処まで信用して良いかという問題もあるんだよなぁ)
ついてくるとは言った、一応命の恩人という形ではある。だが、連れ出した女アークマージは魔物であり、大魔王ゾーマに仕えているのだ。
「ついてくる事は聞いた、理由もな。だが、人間と魔物はここみたいな例外を除けば、敵同士だ。ピラミッドは例外的に魔物と人間、どちらにも襲いかかってくるミイラ達が相手だったから問題なかったが――」
「まぁ、仰ることはわかります。おばちゃんが、魔物を前にした時どうするかということね?」
「ああ。シャルロットが生き返らせた連中はいい、大魔王を見限ってシャルロットに忠誠を捧げるつもりのようだからな」
だが、目の前のアークマージは違う。違うと思う。助けたのが俺で恩人だからついてくると言うのなら、あの赤い甲冑と大差ないが、この女アークマージには子供が居るのだ、大魔王ゾーマの僕に。
「子供が居ることは聞いている、なら最悪子供と敵対することにとてなりかねん」
直接戦わないにしても、このままの流れならシャルロット達は子供の同僚や部下を手にかけ、最終的には主であるゾーマをも討つはずだ。
「失礼を承知で言わせて貰えば、お前は疑わしい。人の誠意を疑うなど誹られて当然の行いだが、俺にはシャルロットを守る義務がある。故に聞く、何故、人の中に身を置ける?」
家族を残し、敵中に身を置く理由を俺は問うた。このおばちゃんの能力が裏切られた場合、最悪の結果にすら繋がりうるから。
「まぁ、そう仰るのも当然ね。ただ、おばちゃんも気になることがあるのよ」
俺の視線を真っ直ぐ受け止めたおばちゃんは、小首を傾げ、続ける。
「それに答えて下さったら、おばちゃんもお話しするわ」
「気になること?」
切り返しは「意外」とは言い切れない。ただ、幾つかの心当たりがあって戸惑う俺に向け、おばちゃん問うた。
「なぜ、貴方は大魔王ゾーマ様を知ってらっしゃるの?」
と。
ようやくシリアスさんが来て下さいました。
次回、第二百二十七話「問いと答えと」
おばちゃんの問に、主人公はどう返すのか。