強くて逃亡者   作:闇谷 紅

262 / 554
第二百二十七話「問いと答えと」

「私が『大魔王ゾーマ様にお仕えするアークマージの末席に身を置いている』と語った時、驚かれたのは覚えています」

 

 それ自体は不自然じゃないのよとおばちゃんは言う。

 

「けれど、それなら『大魔王バラモス以外にも魔王が存在したのか』と言う意味合いの驚きだったらの話。だけど、あなたは驚きはしたけどゾーマ様について何も聞いてこなかったわ」

 

「……そこが問題だと」

 

「はい、良くできました。その通り。あなたの様な人間であれば聞き慣れない大魔王の名前が出てきたのにまるっきり関心を示さないのは、不自然すぎるわ。つまり、あなたはゾーマ様のことを知っていたのよ」

 

 おばちゃんは相変わらずのお茶目さを見せるが、話の内容、特に推理については鋭い何てものじゃない。

 

(ああ、初手から対応を間違えていたのか)

 

 確かに、ゾーマのことを知らなければ、あんな反応はしない。

 

「ゾーマって誰だ、バラモスの間違いじゃないのか?」

 

 と、訝しむか、いかにも始めてその名を聞いたという態で、質問したはずだ。

 

(まぁ、バハラタであやしいかげのアークマージが漏らしてたからなぁ。「立ち聞きしたから知っていた」で言い訳には充分のような気もするけど)

 

 立ち聞きで知ることの出来る情報などたかが知れている。

 

(となると、やっぱりゾーマについてまるっきりおばちゃんに質問しなかったのが不自然になってくるか)

 

 その辺を無視して立ち聞きしたと言うことにしても、今度は情報源になったあやしいかげはどうなったかと聞かれる可能性がある。

 

(とは言え黙りという訳にもいかないよなぁ)

 

 迷う。話すべきか、そのまま何処まで明かすべきか。

 

「さて、どこから話したものか……ん?」

 

 思わせぶりな前振りで考える時間を、決断する為の時間を稼ぎ、そこでふと気づく。前に出会ったあやしいかげは朧気ながらも強者の気配を察知出来ていた。

 

(と言うことは、このおばちゃん――俺の実力を察している、とか?)

 

 背筋を嫌な汗が流れた。以前のアークマージは見つかる前に不意打ちして始末したが、おばちゃんとは砂漠で助けてからほぼずっと一緒にいるのだ。

 

「あらあら、どうかなさって?」

 

「いや、何でもない」

 

 引きつりそうになる顔をポーカーフェイスで隠して、考える。おばちゃんの真意を。

 

(実力が解っているとしたなら、何故問い詰めてくるんだろ?)

 

 最悪都合が悪くなってこちらが口封じに始末する可能性だってある。勿論、俺はそんなことをする気はないけど。

 

(腹を割って話せってことかなぁ)

 

 少なくともこちらが話せばおばちゃんも話すということになっているのだ。下手に取り繕っても、ここまでポカをやっちゃっている以上どうしようもない。

 

「バハラタと言う町の北東に洞窟があるのだが、知っているか?」

 

「洞窟? 確か……ええ、聞いたことがあるわ」

 

「そうか。そこにお前同様、黒いシルエットに化けた魔物が居た。洞窟は人間の犯罪者が罪もない人々を掠って閉じこめていて、その魔物は犯罪者共と協力関係にあったらしい」

 

 意を決して切り出した俺は、ゾーマの名については、そのあやしいかげが独言で漏らしていたと明かす。

 

(とりあえず、ここまで嘘は言っていないな)

 

 ただ、全てを話していないだけだ。

 

「もっとも、あの時は大変だった。俺の目的は誘拐され洞窟に囚われた人々の救出だったのだが、魔物に遭遇したのは想定外だったしな。その後、何やら騒ぎが起きたのでそれに乗じて掠われた人々は助け出したが」

 

「あらまぁ、それは大変だったわね」

 

「まぁ、な。ゾーマの名はその時聞いていたからな。同じ名が別の口から出て来れば信憑性は増す。あの時驚いたのも『あやしいかげの口にしていた内容が俺の聞き違いでなかったのか』という類の物だった訳だ。そして、お前の主とやらについては他に聞いた覚えがない」

 

 一刀両断したアークマージのことは敢えて伏せ、それっぽく言い訳が出来ていると思う。

 

「そして、良く聞くのも大魔王バラモス。そのバラモスさえまだ健在な状況で、ほぼ聞いたことのない大魔王のことを詳しく尋ねることに意味があるかというのが、一つ。聞いた場合、お前が正直に答えてくれるのかという問題もあった」

 

 一応、正直に「大魔王ゾーマの部下だぞー」とは明かしてくれたものの、あれ自体こっちにとっては想定外だったのだ、本当にいろんな意味で。

 

「まぁ、予め情報を仕入れておくことでお前の主へと何らかの形で備えておくことは出来るか」

 

 うろ覚えとはいえ原作知識がある時点で備えるにしてもわざわざおばちゃんから聞く必要はないのだが、それはそれ。

 

「さて、こちらは答えたぞ。次は俺が尋ねる番だな?」

 

 言及しなかった場所をツッコんで聞かれる可能性がある以上、完璧とは言えないが何とか取り繕えた。

 

(なら、このまま一気に押し切る)

 

 質問されたくないなら、こっちから質問してやればいい。こうして、攻守は逆転し今度は俺の質問時間が始まるのだった、

 

 




何とかしのぎきったように見える主人公。

さて、では主人公の投げる疑問に対するおばちゃん側の答えとは?


次回、第二百二十八話「俺のターン」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。