「質問内容については先程と変わらない。人の中に身を置く理由ともしかつての同胞や家族と戦うことになった場合にどうするかだ」
理由の方に関しては、一つ思い至るモノがある。俺がゾーマのことをどうやって知ったかを探る為、と言うモノだ。
(そうであれば、同行理由はこれでなくなる筈)
もっとも、この説に自信はない。こちらの実力を察していた上で、ゾーマのスパイとして動くなら、つい今し方の様な直球の質問をするとは考えにくいからだ。
(シャルロットはともかく、勇者サイモンがゾーマの部下であるバラモスと敵対してることぐらいは知ってるだろうし)
かなり高い確率でゾーマの敵となりうる俺達だ。ゾーマの僕、スパイとして同行するつもりなら、直接聞きはしない。こちらを警戒させない様に味方顔をしつつ、盗み聞きしたり俺以外の誰かから聞くなりして情報収集すると思う。
(だからスパイの線は薄いと思うんだけど、それでかえって読めないんだよなぁ)
わざわざ肉親を敵に回す形で俺達についてくるメリットがおばちゃんにあるというのか。
(一応命は助けたけどその恩返しだとしても……)
俺であれば、自分の子供と敵味方に分かれてまで恩を返すなんて、とても出来ない。おばちゃんが答えを返すまでに、俺はそれだけのことを考え。
「それじゃ、あなたについて行く理由から言うわね。それは、あの子達を救う為よ」
「は?」
おばちゃんの返答に思わず聞き返していた。
「だから、子供達を救う為なの。あなたが少なくともおばちゃんじゃまるで話にならないぐらい強いことはおばちゃんも解ってるわ。だから、このままあなた達がバラモス様や大魔王ゾーマ様と戦うつもりなら、バラモス様はまず間違いなく倒されるし、ゾーマ様の所まで辿り着く可能性も高いわ。それこそ、行く手を塞ぐあの子達を倒してね」
女アークマージは、続けた。
「おばちゃん、それは防ぎたいの」
と。
「あなた達に同行して、あの子達と出会わなければそれはそれで良し。会うことがなければ、あなた達に殺されませんからね。ただ、もし出会ってしまった時は、おばちゃんが全てをかけて説得するわ。『戦わないように』って」
「……全ては子供のために、と言う訳か」
「まぁまぁ、そう言うことかしらねぇ」
俺の呟きに頷いて見せたが、おばちゃんの告白は終わらない。
「もしあなた達がおばちゃんの見込み違いで、あの子達の元にもたどり着けず殺されてしまうようなら、それはそれで、あの子達は無事でいられるもの」
「成る程な」
つまるところ、おばちゃんの同行は子供の命を守る為の保険、と言うことらしい。子供の命を最優先にした見事な日和見だ。
「そして、お前は元の主の元に戻ると?」
裏切り者のそしりを受けはするかも知れないが、それこそその場合はゾーマに対する脅威かも知れないから仲間になったふりをして情報を探っていたとでも弁明すればいい訳だ、だが。
「あらあら違うわよ」
女アークマージは、頭を振った。
「その時は、おばちゃんも一緒に死んであげる。元々、あなた達に救って貰った命だもの」
「な」
「おばちゃんの忠誠心はね、あの日……ラダトームから来たって言う人間達とあの人が戦って倒れた日に尽きたわ……そう、あの日に」
驚きの声を上げた俺には構わず、何処か遠くを見てため息をつく。
「しかし、お前はザオリクの呪文が使えるのだろう、蘇生は叶わなかったのか?」
直後は雰囲気に呑まれていたものの、我に返り問いかけたのは、ふと疑問を覚えたから。ただ、すぐに公開することになる。
「おばちゃんもね、そう思ってあの人の戦死の報を聞いた直後に尋ねたわ。蘇生出来なかったのかって。ただ……」
おばちゃんが言うに、夫の遺体は跡形もなく消し飛び回収さえされなかったとのことだった。
「人間にもごく僅かだけど、蘇生呪文の使い手がいるでしょ? あの人を倒した程の人間なら人間側だって死体を回収して蘇生させようとする。そこまで計算に入れていたのね」
遺体回収を不可能にする為、瀕死だった最後の生き残りがほぼ自爆するような形で敵味方、生者死者の区別なく爆発呪文を発動させ、おばちゃんの夫が所属した隊は壊滅。
「それでも諦めきれなくてね、おばちゃん戦場に足を運んであの人を探したわ。結局見つからなくて、持ち場を勝手に離れたことを咎められて、数日牢で過ごしただけで終わったのだけど」
だから、自分に残されたのは子供達だけなのよとおばちゃんは言う。
「おばちゃんはね、あの子達の為ならなんだってするつもり。もし、あなたの人工呼吸とか言う蘇生法、あれがただの建前で、私が欲しいと言」
「そこまでにしておけ」
流石にそれを言わせてしまうのは許されない気がして、俺はおばちゃんを黙らせた。
(……重い)
そも、子供の為に何処までも捨て身になれる母親に、俺が勝てるはずもなかった。
「覚悟はわかった。第一、それでは二つめの質問は聞くまでもなかったな」
嘘の可能性もある。だが、その必死さが嘘とは俺にはとうてい思えなかったのだ。
俺のターンの筈が、完全にイニシアチブを奪われてしまった主人公。
どうしてこうなった。
そして、おばちゃんの決意を聞かされ、主人公は。
次回、第二百二十九話「オリビア岬」
スノードラゴンについてはキラーアーマーがきちんと借りてくれました。