強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百三十話「すごろく場に挑む者」

「何というか、本当に洞窟だな」

 

 ここがすごろく場だと原作知識で知らなければ、きっとダンジョンか何かと勘違いして装備を固めてから来ていたかもしれない。

 

(そもそも、周辺に国も町も陸続きで何もない場所にすごろく場を建てると言うのも謎すぎるか)

 

 知る人ぞ知る秘密のすごろく場にでもしたかったのかも知れないが、時々思うのだ。このすごろく場の運営ってどう成り立っているのだろうか、と。

 

「普通に考えると採算がとれると思えんのだがな」

 

 ロマリアとカザーブの間のものは解る、旅の途中に立ち寄るのにちょうど良い場所にあるのだから。百歩譲って大きな寄り道になるがアッサラームとイシス間から少し外れた位置にあるすごろく場も良しとしよう。徒歩で行ける場所にあるのだから。

 

「元々は西の川の何処かに橋が架かっていて、何らかの理由で崩落でもしたか」

 

 もしくは最初から利益を度外視した限られた人間だけの為のすごろく場だったのか。

 

「お師匠様?」

 

「ん? すまん、少々考え事をな。まぁ、何にしてもここのすごろく場は景品も万屋の商品もそれなりのものだと聞く」

 

 実際、このすごろく場では万屋の商品を買う為、何度サイコロを振ったか解らない。もちろん、ゲームでだったけれど。

 

「個人的には万屋で購入出来る炎のブーメランという投擲武器がオススメだな。出来れば俺も欲しい程だが」

 

「え、お師匠様が?」

 

「まぁな。ブーメランは視界内の敵を纏めて相手に出来る武器だ。威力の方は今ひとつだが、攻撃呪文の使えない者には多数の敵を相手取る時に重宝するからな、そも」

 

 驚くシャルロットに、全体攻撃武器の良さを説きつつ、俺は自分の腕を示す。

 

「この通り、今俺が使っているのはチェーンクロス。ただの鎖分銅だ。纏めてなぎ払えると言う意味合いではこれも便利ではあるが――」

 

 ただのとか付けている時点で威力の方は察して貰えるとありがたい。

 

「じゃあ、お師匠様の武器確保も兼ねてるんですね」

 

「ふ、否定はせん。そう言う訳でシャルロット、お前に金を預けておく」

 

「えっ」

 

 シャルロットへ肩をすくめてみせるなり、数万ゴールドほど入った袋を俺は差し出し、呆然とする弟子を諭す。

 

「いいか、シャルロット? すごろく場は一人で挑まねばならない施設だ。盤上では魔物と戦うこともあり、罠もある。魔物と戦う戦闘力と戦闘や罠で傷ついた時に自分を癒す回復能力の双方を兼ね備えた者にしかこれは務まらん」

 

 呪文を使ってOKなら俺でもいけるのだが、敢えて俺自身はごく普通の、いや、ちょっぴり強い盗賊と言うことになっている。シャルロットの前で、回復呪文を使う訳にはいかない以上、参加候補者からは外れざるを得なかったのだ。

 

「消去法でサイモンかお前ということになるのだが」

 

 原作では幽閉された上命を落としてしまう勇者サイモンにリアルラックを期待する訳にはいかない。

 

「なるのだが、何です?」

 

「サイモンはここまで来たなら寄りたい場所があるらしくてな」

 

 正確には、サイモンではなくて俺なのだが、同時にサイモンの協力も必要になる為、俺は告げた。

 

「お前がすごろく場に挑んでいる間、別行動をとりたい」

 

 と。

 

「別行動って、お師匠様もついて行くんですか?」

 

「ああ、盗賊の手も必要らしい」

 

 ポーカーフェイスで最もらしく続けて頷くが、こちらは嘘だ。

 

「ば、場所……どちらに向かわれるのか聞いてもいいですか?」

 

「あ、ああ。複数回る可能性はあるが、一つは『ほこらの牢獄』」

 

「あ」

 

「そう、サイモンが囚われていた場所だ。サマンオサの一件で抜け出しては来たものの、獄中で命を落とした者達がそのままになっているらしい」

 

 シャルロットの二人目の師匠の様に助けられるかは解らないが、俺以外ににザオリクの呪文が使える同行者がいるのだ。

 

「そっか、アンさんのザオリクで」

 

「そう言うことだ。上手くいくかはわからん。そして、二つめの行き先は『竜の女王の城』。このすごろく場の東、高山に囲まれた場所にあるらしいが、俺の同行する理由はもっぱらこちらだな。タカのめによる、城の探索」

 

 ゾーマを倒すつもりなら、その身を包むバリアを消滅させることの叶う光の玉の入手は必須。うろ覚えとはいえ、その光の玉を竜の女王が持っていることは覚えていた。

 

「高山の方はドラゴンに乗って越えられるからな。『竜の女王の城』には名の通り竜の女王が住むと聞く」

 

 原作では不死鳥ラーミアを得なければたどり着けない場所だというのに、水色ドラゴンたちの協力は本当にありがたいと思う。

 

「竜の女王……ですか?」

 

「ああ。幸いにもバラモスの城に乗り込むメドはついているが、だからと言ってバラモスがこのまま何もせんとは限らん。暫くは親衛隊が抜けた穴も埋めねばならんし、イシスにした様な侵攻もないだろうがそれでも備えておかねばならん。その点で、人の治める国には船さえあれば連絡がつく、交易網の作成ついでに協力関係を築いておけば、バラモスが小細工してきた時にも対応出来よう」

 

 ただ、いくら船があっても竜の女王の城にはたどり着けない以上、放置してしまっては対策を練っていない竜の女王の城をバラモスが狙ってくる可能性がある。

 

「奴の狙いがこの世界の掌握なら、人の国家のみが侵攻対象ではあるまい。ならば念のためこちらの状況を伝えるぐらいしておかねばな」

 

 以上、シャルロットに対する言い訳でした。

 

(流石にまだほぼ名前すら出てこないゾーマに備える為なんて言えないからなぁ)

 

 だが、何処かで入手はしないといけない品でもある。

 

(後は、オリビアの呪いも解かないとな)

 

 やらなければいけないことが多いからクシナタ隊にも複数グループに分かれて貰ったというのに、すごろく場攻略を入れれば、四つもやることがあるのだ。

 

「流石にすごろくの盤上の上までついていってやることは出来ん。なら、その時間を無駄にせん為にも動こうと思う」

 

 と言う建前で、シャルロットの元を離れれば、呪文の使用を自重する理由もなくなる。

 

(ロディさんだっけ? ともあれ、衰弱して命を落とした人の蘇生には成功した。だったら、竜の女王を助ける方法だって――)

 

 見つかるかも知れない。もっとも、その場合、ほこらの牢獄で行うことになろう蘇生呪文の行使が純粋な人助けでなくなってしまう可能性がある。

 

(人体実験だよなぁ、これって)

 

 結局の所、クシナタ隊のお姉さん達やロディさん、サイモンを蘇生出来たものの、俺はこの世界における蘇生呪文のルールを完全に把握している訳ではない。

 

(それを知れば、助けられる人はきっと増える。増えるけど)

 

 同時に、どうやっても助けられない人との境界線を知ってしまうと言うことでもある。

 

(命の重み、か)

 

 だからこそ、俺は迷い。結論はまだでなかった。

 




まさかのこのタイミングで竜の女王の城へ。

果たして光の玉は託して貰えるのか。

そして、主人公は死者達を前にどう決断するのか。

次回、第二百三十一話「禁忌」

踏み込むことが救いに繋がるのか、まだ誰も知らない――。



と言うことで、この世界での蘇生呪文のルール、ようやく公開出来るかも知れません。

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