強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百三十一話「禁忌」

「サイコロの目に逆らうことは出来ない、そう言う意味で言っても仕方ないことかも知れんが、バリアと落とし穴、魔物には気をつけるようにな」

 

 すごろく場に関して、シャルロットに出来るアドバイスなどたかが知れている。

 

「お師匠様……」

 

「大丈夫だ。お前なら制覇出来る」

 

 それでも出来るだけ助言をしてから励まし、おれはすごろく場を後にする。

 

(そう言えば、すごろく場に宿屋のマスとか有って宿泊出来たけど、残されてる他のパーティーメンバーどうしてたんだろう、スタート地点で野宿?)

 

 立ち去る際、割とどうでもいい疑問が浮かんで、そも宿泊ではなく休憩だったことを思い出し、宿泊代のぼったくり度合いまで思考の脱線が飛んだのは、結局の所まだ迷っていたからだと思う。

 

「ゆくのだな、あの場所に」

 

「ああ」

 

 だが、勇者サイモンに問われれば俺は頷くしかない。

 

「誓ったからな。必ず戻ってくる、と」

 

 おばちゃんには先にスノードラゴンの所に行って貰い、今はサイモンと二人だけ。

 

「変・装ッ!」

 

 このかけ声を口にするのは、何日ぶりだろうか。徐に服を脱ぎ、バハラタでこっそり購入しておいた布で作った覆面マントを身につければ、俺はもう俺ではない。

 

「マシュ、ガイ、アーッ!」

 

 どこからどう見ても変態だった。いや、サマンオサのちびっこ達には未だに人気のあるヒーローの再臨であった。

 

「説明しようッ、私の名は『マシュ・ガイアー』。そう、複数の呪文を使いこなす謎の人物なのだッ!」

 

 しかも、サマンオサを救った救国の英雄でもある。攻撃呪文の使えない何処かの勇者のお師匠様とは別の人物なので間違えないで貰いたい。

 

「それは言うのか」

 

「うむッ、お約束だからなッ」

 

 ともあれ、私が復活したからには有言実行せねばならない。必ず戻ると言った以上、再訪問がこの格好でなければ嘘になる。

 

「勇者シャルロットの師は、一足早く竜の女王の城を探しに旅立ったッ! そう言うことにするのだッ」

 

 割と強引だが、マシュ・ガイアーの格好でなくてはアバカムの呪文を堂々と使えない。結果牢獄の鉄格子を開けられずに詰むという意味でも、この格好での同行は外せないのだ、ただし。

 

「成る程、しかし私と一緒ではその格好の正体を私と言うことにした意味が無くなるのではないか?」

 

 説明を聞いたサイモンが口にする反論も至極もっともである。

 

「うむッ、だからこそここを見て欲しいッ」

 

 頷きつつ俺は自分額を指で叩いた。

 

「そんなことも有ろうかと、『2』と数字を刺繍しておいたッ。つまり、今の私はマシュ・ガイアー二号なのだッ!」

 

 一応、一号に心酔して形から真似てみた元マシュガイアーのファンと言う設定も考えてある。

 

「それと、一号の覆面マントも用意してあ」

 

「解った。魔物と言えど女性を待たせる訳にはゆかぬ、行こう」

 

 何故か言葉を途中で遮ってサイモンが歩き出したのは解せぬが、女性を待たせる訳にはいかないという点についてはもっともだ。即座に後へ続いた私と対面を果たしたおばちゃんの第一声は、「あらあらまぁまぁ」であった。

 

「ともあれ、短い間だが宜しく頼むッ」

 

「こちらこそ。どうぞよろしく」

 

 正体を悟られないよう、私は作ったキャラのままおばちゃんと挨拶を交わし。

 

「ところで、話は変わるが」

 

 それを切り出したのはスノードラゴンの上、雑談の合間。

 

「蘇生呪文で生き返らせることの出来るのは、どのような状態までか教えてくれッ!」

 

 アークマージであるおばちゃんはザオリクの呪文が使える。そう言う意味で、これは聞いておきたいと思っていたのだ。だいたい、ここで聞いておけば、人体実験まがいの真似をせずに済むかも知れない。

 

「まぁまぁ、そうねぇ……それを説明するには、まずどこまで知っているかを先に教えて貰った方がいいかしら?」

 

「うむッ、まず蘇生呪文に必要なのは――」

 

 二度手間になると説明されれば、もっともであったので、私は正直に答え。

 

「あらまぁまぁまぁ、よくお勉強してるのねぇ」

 

 おばちゃんも感心した態であったのだが。

 

「衰弱死した者を蘇生?」

 

 問題は、ロディの一件に触れた時、起きた。

 

「何ッ?! 今、何と?」

 

「その、ね? あり得ないのよ……衰弱して亡くなった人を呪文で蘇生するなんて」

 

 判明したのは、蘇生呪文の使い手の常識すら覆す様なことであったという事実。

 

(つまるところ、アレについて詳しく知るには再現してみるしかないと言うことかッ)

 

 おばちゃんをしてあり得ないと言わしめた、それを検証すべきか否か。

 

「けれど、試させてくれないかしら」

 

 だが、ロディ蘇生のケースを話したことは、有る意味で失言であった。

 

「もし、通常の理を外れた蘇生の方法があるなら、ひょっとしてあの人も――」

 

 諦めた人に不確かな縋る糸見せてしまったのだから。もし、追い求めた先にあったのが、代償を必要とする様な禁忌であったなら。追い求め、されど叶わず、結局徒労で終わってしまったなら。

 

(口を滑らせた私の罪だッ)

 

「検証から始めるとして、まずは近い状態で死亡した人を集め……」

 

 このキャラに似合わず愕然とする私の視界の中で、一人の女アークマージはブツブツ呟きながら、心ここに在らずと言った様子だった。

 




まさかのマシュ・ガイアー再登場。

だが、おばちゃんは動じないのだった。

むしろ、別のことに反応を見せて。

次回、第二百三十二話「再訪」

再び訪れる、ほこらの牢獄。そこで女アークマージは――。

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