「まず、マシュ・ガイアー2号さんのお話を聞く限りであり得ないのは、死後時間がかなり経った遺体の蘇生ね」
おばちゃん曰く、くさった死体よろしく蘇生ではなく魔物にする方法なら存在はするが、時間が経ちすぎてしまった死者を生き返らせる術がまず無いのだという。
(まぁ、魔物は戦闘中しか蘇生呪文使うの見たことないもんなぁ)
魔物側も命を落とした直後でなくてもある程度までなら蘇生は可能らしいが、ゲームの勇者一行の様に棺桶にぶち込んで一年後に蘇生させるなんて言う真似はまず不可能らしい。
「つまりッ、人間と魔物では蘇生呪文の仕組みが違うと言うことかッ」
「そうねぇ。と言うか、人間と言っても勇者一行だからこそ許された特別措置という可能性もあるのだけれど」
ドラゴンの背の上でゾーマ配下だったアークマージと蘇生呪文について議論する一時。他人が見れば目と耳を疑う光景だろうが、話をすりあわせることで、解ってきたことがある。
「おそらく、ロディ(やサイモン)が生き返れたのは、勇者一行であるからこその特別措置の可能性が高いと言う訳だなッ」
「まず、間違い無いでしょうねぇ。けれど、無理矢理勇者一向にねじ込んでしまうなんて無茶を良くやろうと思ったものだとおばちゃん感心しちゃったわ」
「うむッ、正直上手くゆく確信は無かったそうだがなッ」
そもそも、マシュ・ガイアー化したテンションがあったからこそ出来たこじつけである。
「ただ、あり得ないことは可能にされた訳だけど」
言葉を濁したおばちゃんが続けるのを躊躇ったのは、覆したルールだけでは夫を生き返らせるに足りないことが解ってしまったからだろう。
「呼び戻す相手の名前と、遺体が一定以上残っていること」
このうち後半をおばちゃんの旦那さんは満たしていない。時間の経過だけなら、もう解決したも同然なのだ。
「おばちゃんは勇者一行に加わったから、旦那さんも勇者一行ね」
と強引に引き込んだことにしてしまえばいいのだから。クシナタ隊とロディさんと言う成功ケースがあるので、遺体さえ回収出来れば成功すると思う。ちなみに、遺体が無いなら他の死体で代用すれば良いかというと、駄目だそうで。
「魂と身体が拒絶し合うから、それを無理に通そうとしても『くさったしたい』みたいな魔物が出来るだけなのよ」
なんておばちゃんに言われてしまった。
(けど、じゃあ何で私は憑依出来てるのかって話になる様な……いや、この身体は死んだ訳じゃないからかッ)
色々とややこしいというか、かえって増えてしまった疑問もあるが、スノードラゴンの上での議論だけでは机上ならぬ竜上の空論である。
「やはり実地で確認してみるしかあるまいッ」
そも、おばちゃんと私だけで議論してもサイモンが思いっきり蚊帳の外である。もちろん、ただ感傷の為に連れてきたとかではなく、サイモンを連れてきたことにも意味はあるのだが。
「時に、サイモンは牢に囚われていた人の名を何人くらい覚えているんだ?」
そう、私が知りうる死者の名はどうしても所持品に名前があったり遺書を残している者に限られる。流石に呼び出す名前を必要とする部分は、超越出来なかったのだ。
(だから、おそらく生き返らせることが出来るのは、サイモンが覚えてる人数プラス数名ッ)
サマンオサとか獄内に収監されていた人間のリストでもあれば更に大勢救えたかも知れないが、ゲームでサマンオサの城の牢へ投獄された勇者一行がそのまま抜け穴から出てしまっても騒ぎにならなかったぐらいだ、同じサマンオサの管轄下なら、几帳面に記載してるとは思いにくい。
「それでも救える命があるなら、動かぬ理由はないのだッ」
説明しよう。助けられる者が居るなら躊躇しない、それがマシュ・ガイアーなのだ。
「とうッ」
熱意の炎を消さぬ為、私はスノードラゴンの背から飛び降りると、着地するなり目的地であるほこらの牢獄へ向き直る。
「ついに戻ってきたッ」
これから始めるのは、地味にして楽しいとは言い難い遺体を運び出す作業だ。
(この作業はどうしてもサイモンの協力が不可欠ッ)
私にとってはただのしかばねも、放置されてる場所次第でおなじ牢獄に幽閉されていたサイモンなら生前の名前を知って居るかも知れないのだから。
「あらあら、牢獄って言うだけはあるわねぇ」
「うむッ。さて、ここからは私達で行くッ、蘇生の準備をしていて貰えるかッ?」
周囲を見回すおばちゃんに同意しつつも問いかけて。
「――これで、最後だ」
そこから、名前の判明した遺体を全て運び出す作業を二人でこなし終えれば、いよいよ本番。
「ふ、この牢獄に囚われていたと言うことはサイモンの仲間、すなわち勇者一行の一人ッ」
私がまずこじつけて、覆面をずらして指を口にくわえると勢いよく息を吹く。
「何をしていると言われる前に説明しようッ、前のケースの再現と言うことで『くちぶえ』を使って敢えて魔物を呼び寄せたのだ」
説明はしたッ、ツッコミは受け付けないッ。
「ゲコッ」
私の口笛に釣られたのか、奴らは現れた。
「ザオリク」
すかさずおばちゃんが呪文を唱える。
「良しッ」
半ばミイラと化していた骸に反応があったのを確認した私は、力強く頷く。検証を兼ねている以上、出来うる限り状況を似せるのは必須。
「ゆくぞッ、来て貰って早々だが倒させて貰うッ」
片手を突き出し、唱える呪文も前と全く同じ呪文で。
「協力に感謝しようッ。そしてさようならだッ、イオラッ」
「ゲ」
「シャ」
ほぼ同じ台詞に続いた呪文によって魔物の群れは消し飛んだ。
ほぼおばちゃんとだべって考えるだけの回でした。
次回、第二百三十三話「理(ルール)」
いよいよ、そが明らかに。