強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百三十七話「魔法おばば」

「なっ」

 

「ひぇ?」

 

 変態と老婆が固まるが問題はない。万が一に備えて物陰で補助呪文はかけ直してからの登場であるし、万が一襲いかかって来たとしても俺が二人を斬り捨てる方が早いのだから。

 

「とりあえず、あのばくだんいわはギリギリの所だったが処置した。別に欠片を回収する必要はないのだろう? 追い回されていたところを見るに、仲間の様でもないようだしな」

 

 あとは、先方が固まったままなのを良いことに言いたいことだけは先に言っておく。

 

「……なるほどのぅ。こやつを助けた恩人とやらが」

 

「まぁ、俺のことだろうな」

 

 案の定と言うべきか、先に復活したのは老婆の方だった。

 

「して、姿を見せたのはこやつの無事を確認する為かの?」

 

(さてと、どう答えるべきか)

 

 鋭く、それで居てこちらを値踏みするかの様な視線に晒され、迷ったのは数秒間。

 

「まぁ、表向きはな」

 

「ほぅ」

 

 わざわざ要らない事実を付け加えて俺は肩をすくめ、こちらに興味を示す老婆を見返しつつ言葉を続ける。

 

「助けた礼と言うと恩着せがましくなるが、聞きたいことがあったのでな」

 

「あ、え? き、聞きたいこと?」

 

「ああ。例えば、何故あんな危険物に追われていたのかとか、この辺りを歩くのに気をつけた方が良いこと、などな」

 

 流石に直球で「お前達は滅ぼさなければならない外道か」と問う程愚かであるつもりはない。

 

「まぁ、旅人としては事前に向かう先について情報を集めてから行くものかもしれんが、陸路は想定外でな。まさか、船があんな事になるとは思わなかった」

 

「船と言うことは、南の岬で呪いにでもやられなすったかの?」

 

「いや。『海の魔物』に、な」

 

 軽装であることを不審がられぬ様に、取り繕いつつ、聞いてきた老婆へ単語をあげることで言外に問う。

 

「俺は魔物に襲われたんだが、お前達は襲ってこないのか」

 

 と。

 

「ひぇっひぇっひぇっひぇ、成る程成る程。そう言うことじゃったか、それはお気の毒に。じゃがわしらのことなら警戒することはないわ。ふむ、この場合わしらの身の上話に付き合って貰った方が手っ取り早いかのぅ」

 

「おい、ばあさん! それはどういう――」

 

「ともあれ、立ち話も何じゃな。わしの庵においでなされ。薬草茶ぐらいしか出せるものはないが、外に居てはわし以外の魔物に出くわしかねんからのぅ」

 

 とりあえず、変態と違って老婆の方はこちらの知りたいことを察してくれた様だった。

 

「ならば、お言葉に甘えるとしようか」

 

 覆面マントを置き去りにしてのお誘いに俺は応じて、案内されたのは最初に見つけた森の一軒家。

 

「邪魔をする。中は土足で?」

 

「うむ、構わんよ」

 

「なぁ、ばあさん。一体どういうことなんだ?」

 

 相変わらず、デスストーカーの方は状況に理解が追いついていない様だが、まぁ放って置いても問題はなさそうに思える。

 

「後で説明してやるから今は黙っておくんじゃ。さて、お客人、失礼したのぅ。湯が沸くのに少しかかる、先に話をさせて貰うとしようかの」

 

「あ、ああ。頼む」

 

「ほいほい。まず、わしじゃが、見ての通り魔物じゃ。人間は『まほうおばば』と呼ぶようじゃがの。こんなわしらにも大きく分けて三つの考え方を持つ者が居る。一つは、かつておのれらが受けた迫害の復讐をなさんと人間を襲う者。一つは、誰にも従わず長年の研鑽で得た力を己が思う様に使う者。一つは、大魔王バラモスに従い庇護を受け、かわりにその命に従って動く者、とな」

 

 自分は二つめに挙げた者に含まれると老婆は言った。

 

「実を言えば昔は最初に挙げた側に身を置いたただの復讐鬼じゃった。それがのぅ、人間の射た矢に当たって死にかけておったとき、こやつの祖父に助けられたのじゃよ」

 

「まぁ、そん時はもめたらしいけどな。魔物を助けるとかとんでもないって」

 

「普通に考えればそれが真っ当な反応だったのじゃろうなぁ」

 

 何処か遠い目をした老婆は続ける、それでも変態の祖父は自分を庇ってくれたのだと。

 

「最初は人間が何の魂胆をもってわしを匿うのかと疑っておった」

 

「ふむ」

 

 話を聞いてる内に微妙にオチが読めてきたのは、気のせいだろうか。

 

(魔物を助ける、か)

 

 お人好しにも程があるとも思うのだが、非常に不思議なことに話にある変態の祖父は他人の様な気がしない。

 

(いや、だけどいくらなんでもありえないな。うん)

 

 俺に対してどこかの多頭痴蛇がしてくれやがったことをこの老婆が、覆面マントのお爺さんにしたとか。

 

(うぐっ)

 

 一瞬でも想像してしまったのは間違いだった。ビジュアル的におぞましすぎる。

 

(……とりあえず、これは俺の胸にしまっておいた方が良さそうだな)

 

 その後、老婆はいかにして今の考えに至ったかを語り、結果的に答え合わせをさせられた俺は引きつりそうになる顔を堪えつつ、不要な部分を端折って、話を整理する。

 

「つまり、この男はこの地へ流刑になった者の作った集落の一員で、そちらはその集落と交流を持ちつつここで半隠居生活を送っていると言うことか」

 

「概ね、そういうことじゃな。まぁ、集落は幾つかあって、方針も違う。しかもほぼ全ての集落が旅人を襲う山賊業を行って居ると言うところは付け加えておく必要があるじゃろうがのぅ」

 

「ちょっ、いや、確かにオレのとこも通行税は貰ってるけどよ? 金持ちと悪人からだけだぜ? だいたい恩人の前でそんなことを言うってのは」

 

「やかましい! そこをしっかり伝えておかねばその恩人が通行税をふんだくられることになるじゃろうが!」

 

「うっ、そ、そりゃそうだけどよぉ」

 

 口を挟んだ変態は老婆に一喝されると、小さくなる。他とひとまとめにされることも、脛に傷を持つ身であることをバラされたのも不本意の様だが、こればかりは仕方ない。むしろその辺りこそ知りたい情報だったのだから。

 

「だいたいのことは、解った。助言、感謝する。ところで、この男の集落の者と他の集落の者を見分ける手段はあるか?」

 

「ひぇ? 知ってどうなさる?」

 

「流石に助けた男の知り合いに怪我をさせる訳にはいかん」

 

 だが、縁もゆかりもない犯罪者なら話は別である。襲ってくるなら相応の報いをくれてやるだけだし、あまりにも悪辣ならここで壊滅させておいた方が良いだろう。

 

「だが、何より――面白い話も聞けたからな」

 

 ばくだんいわは身に危険が迫らなければ、自爆をしない。故に、俺が助けた変態の様にばくだんいわに追われるケースは珍しい、と。

 

(つまり、あれが事故でなければ爆弾岩が物騒に見えて大人しい習性を利用して危害を加えようとした奴がいるという訳だよなぁ)

 

 そも、この辺りには複数の覆面マントな変態の集落があり、利害関係やら何やらで幾つかの仲は宜しくないのだとか。

 

(きな臭いってレベルじゃないよなぁ)

 

 もう既にめんどくさいことになりかけている気がする。

 

(放っておくとそれはそれで寝覚めが悪そうだけど、明らかにタイムロスだよなぁ)

 

 これは、竜の女王の城に行くのは諦めるべきかも知れない。シャルロットと合流してからでも水色ドラゴンがいれば、行くことは可能なのだから。

 

「もし先程のばくだんいわが故意に転がされたモノだとすれば、同じ手口でお前達を害する可能性もあるだろう。旅人の襲撃に使われればこっちにまで被害が及ぶ可能性もある。寄り道になるが調べてみるほかあるまい。となれば、覆面マントの男と遭遇することもあるだろう。故に、どのみち見分け方は知っておく必要がある」

 

「ちょ、ちょっとまってくれ! それって」

 

「面倒な上に時間もとられるが、乗りかかった船だ」

 

 変態の声に、俺は苦笑し頷いた。

 




年をとった老デスストーカーと魔法おばばの濃厚なラヴシーン。

うむ、これは酷い放送事故。

何だかまた面倒なことに首を突っ込んだ主人公。

人が良すぎるのです。

次回、第二百三十八話「お節介は終わらない」

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