強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百三十八話「お節介が終わらない」

 

「けどよ、ホントにいいのかよ?」

 

「くどいぞ? 前にも言ったが、だいたいそんな連中を野放しにしては船に同乗していた者が被害に遭いかねん」

 

 覆面マントへはそう答えたが、船に同乗と言う部分を除けば嘘はないと思う。

 

(まぁ、あのメンツならバニーさんと赤い鎧くらいだよな。勇者一行でデスストーカーの相手が厳しそうなのは)

 

 僧侶のオッサンにも若干不安が残るが、効けば息の根を止めてしまう死の呪文があるのだ。魔法使いのお姉さんは攻撃呪文がある上、最悪ルーラの呪文で逃げることも出来るし、シャルロットとサイモンの勇者二人は真っ正面から複数を相手にしても余裕で勝つだろう。

 

「ばくだんいわは攻撃しなければほぼ無害なら、様子を見ている間にこちらが逃げれば済む。この辺りに出没すると聞いた熊やその集落の連中の方が余程厄介だ」

 

 もちろん、お茶をご馳走してくれた老婆と同じ種類の魔物も厄介ではあるのだが、覆面マントの男達と違ってどの辺りに住んでいるかという情報が全く得られなかったのだ。箒という機動力がある分、庵は人の踏み込まない山中や森の奥深くにかまえるらしく、探して殲滅するのは現実的とは言い難い。

 

(まぁ、ようやく探し当ててもあのまほうおばばと同じ中立の魔物でした何てことになれば、くたびれ損だしなぁ)

 

 だいたい、人間である覆面マント達と違って複数の個体が纏まって暮らしていないので、住処を潰して行くというのは、思いっきり非効率的なのだ。

 

「となれば、俺に出来るのは拠点の解ってる連中の制圧ぐらいだろう」

 

 幾つかのタチの悪い男達が住む集落を制圧してしまえば、同じ人間の手にかかって殺される旅人の数は減ると思う。

 

「別に暇な訳ではないからな」

 

 暇だったら熊の巣穴を回って絶滅させるのかと問われると、微妙に答えに詰まるけれど、それはそれ。

 

「なんだか、すまねぇな」

 

「気にするな。このまま目的地に向かい再びこの辺りを通りかかった時、あの老婆の庵やらお前の集落が無くなっていたら寝覚めが悪い」

 

 後ろをついてくる変態をばくだんいわで消し飛ばそうとした輩だ。自分で口にしておいてあれだが、今し方言ったことが予言になってしまう可能性は否めない。

 

「さてと、ばくだんいわが転がってきたのはこの辺りからの様だが」

 

 足を止めて見回すと、ごろりと身じろぎした岩が一つ。

 

「ふむ、これはあからさまだな」

 

 隠す気が無かったのか、ばくだんいわと知れた岩が居たのは、巨大なくぼみの中だった。形状を説明するなら、干上がった人工の池だろうか。高い段差がある為、ばくだんいわは自力でのぼれず。

 

「こうして転がす為のばくだんいわを逃がすことなく確保していたのだろうな」

 

 ごく普通の岩などを転がして、どう転がるかをチェックし、標的がそこにさしかかった時点でばくだんいわを転がす。

 

「お、おい。これって――」

 

「ああ。事故や偶然ではなく、故意。しかもこんな準備までしているとなると一人でやったとは考えづらい」

 

 俺は頷きながら、無造作にしゃがみ込むと、石を拾って投げつけた。

 

「ぎゃあっ」

 

「な」

 

 殺してはいない、と思う。

 

「他人の気配を察知するのが盗賊の仕事の一つでな。まぁ、ばくだんいわが側に居ればそっちに注意が行くとでも思ったのだろうが」

 

 この身体のスペックを舐めすぎである。何者かが潜んでいるのは、明らかだった。

 

「あ、ぐぅぅ」

 

「案の定と言うべきか」

 

 肩を押さえてのたうち回るのは、同行者と同じ覆面マント。

 

「問題の集落の連中とやらは、こいつらで違いないな?」

 

 確認をとりつつ、お前は覆面を脱いでおけと俺は言う。見分け方教えて貰ったので、立ち止まっていれば見分けられるが、激しく立ち位置を入れ替える戦闘のさなかでは、うっかり一緒に倒してしまいかねない。

 

「てめぇ、何者だぁ?」

 

「ふ、何者だと問われてもな。説明が面倒だし、説明する義理もない」

 

 だいたい、この連中がころがしたばくだんいわは一歩間違えば魔物を捜してうろついていた俺に向かって転がってきた可能性もあるのだ。

 

「とりあえず、そこでのたうち回っている奴を縛っておけ」

 

 いつもの様に腕を通していたロープの束を同行者の方に放ると地面を蹴って前に飛ぶ。

 

「なん、てめぇ舐べ」

 

「遅い」

 

 斧を振り上げた瞬間、懐に飛び込み拳を腹に叩き込み。

 

「は?」

 

「でやぁっ」

 

 あっけにとられた隣の変態へ回し蹴りを叩き込む。

 

「げへっ」

 

「これで二人」

 

 崩れ落ちる男の身体に巻き込まれないよう半歩下がり。

 

「うおおおっ」

 

「ふ」

 

 叫びながら飛びかかってきた三人目は声を頼りに姿を見ずに身をかわす。

 

「こ、こいつ」

 

「怯むな、全員でかかれぇっ!」

 

 業を煮やしたのだろう。

 

「やれやれ」

 

 だが、こちらも微妙にめんどくさくなったところだったのだ。腕に巻いた鎖を解くと軽く振って感覚を確かめる。

 

「本気という訳ではないが、これ以上やるというなら覚悟して貰おうか。こいつは素手より痛いぞ?」

 

 ついでにまとめて倒せる。

 

「はん、んなこけ脅しにびっ」

 

「が」

 

「ぐわ」

 

「げ」

 

 警告に耳を傾けないというのは、本当に残念なことだと思う。

 

「さて、とりあえずこんな所か」

 

「凄ぇ、こんな……あの集落の連中をあっという間に」

 

 戦闘不能の変態を量産し、とりあえず立っている者は俺と同行者しか居なくなった訳だが、問題なのはここからである。

 

(とりあえず、全員生きてると思うけど、どうしようなぁ、これ)

 

 相手が人間だからつい殺さずを貫いてしまったが、実はこの後どうするのかまるで考えていないのだ。

 

(まぁ、せっかく生かして無力化した訳だし、とりあえず情報源になって貰おうかな)

 

 そも、このまま無言で立っていても仕方ない。

 

「とりあえず、全員縛るぞ?」

 

 俺は覆面を脱いだ同行者に声をかけると、斧を没収しつつロープでのした変態達を縛り始めた。

 

 




まぁ、主人公相手ならこうなるわな。

次回、第二百三十九話「そういえばばくだんいわが居たんだよね」


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