「……しかし、まさかそこまでとはな」
縛るだけでは手は塞がっていても口が自由なので、縛り終えた覆面マントへの尋問をついでに行ったところ解ったのは、叩き伏せた変態達がかつて砂漠で始末した魔女に匹敵する程の外道だったと言う事実だった。
(ばくだんいわで集落ごと吹っ飛ばすとか……まぁ、まだ未遂で済んでる訳だけど)
同行していたデスストーカー目掛けて転がしたのがテストを兼ねていて、上手くいけば同じ方法で集落まで狙うつもりだったらしい。当然だが、この集落には女性もいれば子供や老人も居る。
(それに、あのばくだんいわも「ただの実験」で命を落とすハメになった訳だし)
俺としては、自爆に巻き込まれかけただけだが、身の危険を感じないと自爆しないなら、あの岩も犠牲者だったと言えるのかもしれない。
「さて、どうしたものか」
わざわざ生かして捕らえはしたが、こうなってくると本当に処分に困る。
(解放しても悔い改めるとは思えないが、わざわざ生かして捕らえるという手間までかけてるしなぁ)
一応、人間を手にかけることに抵抗感があるというのも、俺自身を煮え切らなくしているのだが、計算尽くで動いた訳ではないので、この結果自体想定外でもあるのだ。
「集落に戻って人を連れてくることはできるか?」
「へ? そりゃどう言う」
「いや、お前の集落の者でこいつ等に捕まっている者が居れば交換材料になるかと思っただけだ。俺達は返り討ちに出来たから良いが、この状況を目撃したとか目撃しそうだからという理由で襲われてそのまま連れて行かれた人間が居たとしても不思議は無かろう?」
俺がした様に尋問して内情を吐かせるという利用手段もあるし、何処かの色違いな変態は部下に人攫いをさせていたのだ。
「最終的には労働力などとして売り飛ばす、何てことを考えたとしても不思議とは思わん。そも、俺が立ち寄ったのはあの老婆の庵だけだ。お前達の集落で行方不明者が出ていたとしても、知る術はない」
「なるほどなぁ。思いつきもしなかった。そう言うことなら、ひとっ走りして確認してくるぜ!」
「そうか、魔物に気をつけてな。俺はこの辺りで、こいつ等を監視していよう」
「おうっ」
覆面マントを頭忘れて、元気にお返事をした元同行者はパンツ一丁で山を駆け下りて行き。
「ふむ」
「ひっ」
足下で悲鳴をあげた変態を無視して周囲を見回す。
「まぁ、このままで良いか。下手に集めてお互いのロープを解かれたら投げ斧の的にするくらいしか使い道が無くなるしな」
「ちょ、ちょっと待て、投げ斧だ?」
「あるだろう、斧ならここに」
上擦った声を上げた変態には、当人から拝借した斧を拾い上げて、軽く弄んで見せると、徐に振りかぶる。
「でぇいっ!」
装備は出来ない武器とは言え、持つことと投げることぐらいなら出来る。
(そう言えば、投げ込むと拾って来てくれる精霊の居る泉があったっけ)
もっとも、俺が投げた先にあったのは、何の変哲もない大岩。
「ほぅ」
「あ」
形と大きさからばくだんいわでないのは把握済みのそれに向かって飛んだてつのおのは硬いモノ同士がぶつかった時の様な音を立てて岩の表面で潰れ、砕けて鉄片となった欠片が周囲に散らばる。
「なん……だそりゃ?」
「う、嘘だ」
「……くくくくく、ひゃははははは」
呆然とする者、現実を受け入れられず否定しようとする者、もう笑うしかないとでも言わんがばかりに笑い出す者。
「やはり、扱えぬ武器を無理矢理使おうとすればこうもなるか」
売ればお金になったかもしれないが、流石に全員分の斧は鞄に収まりきらない。釘を刺す為にもと、全力で投げつけてみたがゲームで言うところの会心の一撃と言う奴だろうか。正直に言うとここまで酷く壊れるとは思っていなかった。ただし、回りの反応からすると、一つ斧を潰した価値はあったと思う。
「どうやら、当たったらとても痛そうだと言うことは判明したな」
「冗談じゃねぇ、あんなの喰らったら死んじまう!」
すっとぼけていると即座にツッコミが返ってくる辺り、ノリの良い変態も居るようだったが。
「やれやれ、立場が解っていないと見える。俺はああいうことが出来るのに、敢えてお前達を殺さずに捕らえた訳だ」
「っ」
察しの良い者なら、ここまで言えば気づくだろう。
「生殺与奪の権利は、今俺が握っている。そして、あの男の集落の者が捕らえられているとして、多くても数人ぐらいだろう。つまり、交換に出すとしても全員生かしておく必要などまるで無いという訳だ」
こちらが、人一人殺せない甘ちゃんだと気づかれては、遣りづらくなる。故に、敢えて冷酷なふりをして、問う。
「反骨精神、結構。分をわきまえぬのも、いい。充分殺す理由になると思わないか?」
「ひっ、あ、すまねぇ、おでが悪かったぁぁぁ」
「ど、どうぞ、おゆるじを゛ぉ」
効果は絶大だった。
(けど、この手の輩って面白いように強者に弱いよなぁ。テンプレというか、何というか……あ)
半ば呆れつつ、子供には見せられない様な格好で縛られた猥褻物が、自由にならない身体で土下座に挑戦する姿を冷めた目で見ていた俺が「それ」を再発見したのは、たまたまだったと思う。
「ふむ。そう言えば……自力では上がれないのだったな」
目を留めたのは、凹みをゴロゴロ転がるばくだんいわ。
(流石にあのままもかわいそうかなぁ。よし)
芋虫の真似をする変態達は放置して凹みに近寄り、中へと飛び降り。
「じっとしていろ、ここから出してやろう」
声をかけた直後だった。転がっていたそれが動きを止めたのは。
「……人間の言葉を解するのか」
呟いてみれば、自分への質問ととったのか、ばくだんいわは少し前に傾いでから、元に戻る。
「これは驚いた」
どうやら、簡単な意思疎通ぐらいなら可能らしい。
「ま、そんなことより出すと言った以上、言ったことは守らねばな」
念のため、小声でマホカンタの呪文を唱えると、屈み込んでばくだんいわを抱える様に腕を回し。
「おおぉっ」
渾身の力を込めて引っこ抜く。
「ふっ、上手く……いった」
視界はばくだんいわに塞がれ前方が全く見えないが、だったら振り返りながら後ろに下がればいい。
「もう少し、大人しく……していろ。もう……すこ、っ、ふぅ」
少しだと言い切るよりも早く、俺は荷物を凹みの縁にのせ、一息つく。
「やれば出来るものだな」
ゲームだとこの手の岩は押すのが精一杯だったが、これがこの世界との差ということだろうか。
「さてと、これでお前はもう自由だ。今度はあんな変態共に捕まらんようにな」
一仕事終えた顔をしつつ、俺も縁にあがるともはやばくだんいわには目もくれず、変態達の元へと戻る。ただ、それだけの筈だった。
「ん?」
何かが転がる音を聞いて、ようやくこの場から立ち去るのだろうと思い最初は気にしていなかった音が、何故か後ろを着いてくるのだ。
「まさか、な」
恐る恐る振り返ってみると、そこにあったのは、仲間にして欲しそうに俺をじっと見てくる瞳。
(あるぇ、俺はシャルロットから手ほどき受けた訳じゃ無いんですけど、何これ?)
非常に認めたくないが、どうやら俺はばくだんいわに懐かれたらしかった。
教えてくれ、サンチョ。
ドラクエⅤの仲間モンスターなばくだんいわは、どうやってハシゴの上り下りをしている?
俺には解らない。
と言う別ナンバリングの素朴な疑問はさておき、恐ろしく物騒な魔物になつかれてしまった主人公。
どうする、集落の問題片づけたら、次は空の旅だぞ?
次回、第二百四十話「何度目の想定外かを俺は知らない」
むしろ知りたくないの間違いかも知れない。