強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百四十話「何度目の想定外かを俺は知らない」

「さて、始めるとするか」

 

「は、始める?」

 

 少々想定外があったが、変態山賊達には全員が外側を向く形で円陣を組んで貰い、円陣の中央にで「丸い岩」を担がせた。岩を置く時には目隠しをさせたから背中に何を背負ってるかを変態達は知らない訳だが、まぁ重さと大まかな形で理解は出来たと思う。

 

「何、簡単なことだ。背中の荷物を落とさぬ様にしたまま、俺の連れを待って貰う。時々暇つぶしに小石を投げるがな」

 

「ちょ、ちょっと待てくれ! その小石が背中の荷物に当たったら、あんただって無事じゃ済まねぇ筈だぜ」

 

「ふ、そうでもない」

 

 説明すると、想定通りの疑問を投げてきた変態が居たので、荷物から道具を一つ取り出して、よく見える様に突き出してやる。

 

「キメラの翼だ。効果ぐらいは知っているだろう? ばくだんいわの自爆には数秒ほどの時間を有す。俊敏さが自慢の俺なら、自爆する前にこいつで空に逃れるのは難しくない」

 

 一応反射呪文でも巻き添えは防げるのだが、わざわざ手の内を明かしてやる必要もなかった。

 

「ひでぇ、自分だけ逃げべっ」

 

「喧しい」

 

 自分達の行いを棚に上げて非難する変態が居たので小石をぶつけると減った小石を補充してから、俺は変態達に問うた。

 

「お前達に人を非難する資格があると思うか?」

 

「そっ、それは……」

 

「そもそもお前達が背中の荷物を落としたりしなければ何の問題もない」

 

 投げる小石も、最初に連中の一人を倒した時とは違う。

 

(転倒されたら背中に乗せたのがただの岩だってバレちゃうからなぁ)

 

 当初は背中に本物を乗せて集落まで歩かせようかとも思ったのだが、同行者を帰してしまった以上、戻って来るのを待たずに出発するのは拙い。

 

(まぁ、考えようによってはこの変態達の処遇を任せることだって出来る訳だし)

 

 あのデスストーカーの住む集落の面々からすれば、岩を担がされてひぃひぃ言ってる変態達は、一歩間違えば自分達をばくだんいわで消し飛ばそうとした連中なのだ。

 

(断罪する権利は、俺より遙かにあるもんな)

 

 俺はお節介で手を貸しただけの第三者。

 

「ほら、どうした? 身体で防がんと岩に当たるぞ?」

 

「や、止めてく、がっ」

 

 そう言う意味では、ばくだんいわを担がされてると思っている変態達へ小石をぶつける行為はやりすぎの様な気もする。

 

(しでかそうとしたことからすると、同情の余地は0だけどね)

 

 八つ当たりはするが、加虐趣味は持ち合わせて居ないのだ。第一、変態の悲鳴なんて聞かされて喜ぶ人間ってかなり稀少なのではないだろうか。録音・抽出して悲鳴で歌を歌わせる、みたいな一手間をかければ別だろうけれど。

 

「ふむ、やはり何というか……暇だな」

 

 背に乗せたのをばくだんいわだと誤解させる為、さっき懐いてきたばくだんいわには物陰でじっとしていてくれるようお願いしているので、話し相手になって貰う訳には行かず。

 

(いや、岩とお話しするってもの凄く寂しい人っぽいか)

 

 ともあれ、結局は変態集団をいたぶるくらいしかすることが無いのだ。割と不毛で酷い絵面だとしても。

 

「てめぇ、人を散々嬲っておいていぺぷっ」

 

「まぁ、是非もないか」

 

 いきり立った変態に小石を投げては嘆息し。

 

「全員ひとくくりに縛り直したのを忘れている様だな。俺が石をぶつけなければ左右の男達が引っ張られて転んでいた、感謝するが良い」

 

 尊大に言い放ってはしゃがみ込んで小石を補充する。

 

「ふむ、こうして見ると小石にも色々な種類があるものだな」

 

 何となく、石の色でクシナタ隊のお姉さん達と連絡をとった時のことを思い出すが、今頃クシナタさん達はどうしていることやら。

 

「何だか、童心に返る様だ」

 

 そんなことよりあのデスストーカー早く戻ってこないかなぁ、などとも思いつつ。変態はいっぱい居るのに孤独な俺の小石投げタイムはもう少し続いた。

 

「すまねぇ、遅くなった。いや、人を寄越して貰うのにちょっと手間取っちまっ……は?」

 

「足が、足が笑いだして、うぐっ」

 

「お願いだ、もう許してぐれっ」

 

 ようやく戻ってきた覆面無しパンツ一丁の男が見たのは、何の変哲もない丸い岩を背負わされ、俺から小石をぶつけられる変態達の図。あっけにとられたとしても、仕方ない。

 

「ふ、構わん。ばくだんいわだと勘違いして、背負った岩をひたすら落とさぬ様堪える姿は滑稽で結構楽しめたからな」

 

「ばくだんいわ? あ、あぁ……成る程、なぁ」

 

 俺の説明で、ようやく事態を理解したのだろう。

 

「それとな、ばくだんいわに懐かれた様なのだが」

 

「へ?」

 

 再びあっけにとられた覆面なし男に俺は事情説明しつつ、物陰にいたばくだんいわを呼ぶと、対面させ。

 

「こういうことは珍しいのか?」

 

「うーん、そもそもオレらはガキ達にも口を酸っぱくしてばくだんいわは危険だって言ってるぐらいだからなぁ。正直に言うとここまで近寄ったことすら初めてだぜ?」

 

「成る程」

 

 とりあえず、この事態が想定外だったのは俺だけでなかったらしい。

 

「となると、こいつには少し離れていて貰った方がいいな?」

 

 デスストーカーは言っていた、人を寄越して貰うと。捕まえた変態達を護送するのに追加人員が来るなら、その面々にも配慮しておく必要がある。

 

「もぉ。ニーサン、ちょっと急ぎすぎだよ! みんな置いてきぼりにしちゃ、意味が無いじゃないか」

 

「っと、すまねぇ」

 

 聞き覚えの無い非難の声に、覆面無しの変態が片手で謝って見せたのは、この直後。

 

(兄さんと言うことは、兄弟かな)

 

 そんなことを思いつつ、声のほうに視線をやれば、そこにいたのは、弓と矢筒を背負い革の腰巻きを付けた一人の少年だった。

 




変態をいたぶる作業が終了したと思いきや、現れたのは、変態の弟さん?

割とまともな格好なのには理由があるのか、それとも。

次回、第二百四十一話「そう言えばドラクエって味方側の武器としては弓あまり出てこないイメージだよね?」

 仲間になったキラーマシンのボウガンとか、別のナンバリングの武器であるビックボウガンとかぐらいでさ。





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