強くて逃亡者   作:闇谷 紅

278 / 554
第二百四十二話「さびしいむらだな」

 

「ある程度想像はしていたが、これは……」

 

 こんな山地に居を構えるからだろうか。魔物避けと見られる木製の塀で覆われた集落は、入り口と見られる場所にクレーターを残していた。余波は塀も巻き込んだらしく、木の破片が散乱し、横たわったまま動かない人影がクレーターの外縁に幾つか。

 

「まずはあそこで自爆したと言うことだな」

 

 まだ距離があり、大まかに様子を捉えられるのが精一杯なので倒れた者達の生死は不明だが、自己犠牲呪文による自爆へ巻き込まれたなら、楽観視はしない方が良いだろう。だいたい、爆発音は俺が懐いてきたばくだんいわと出会った場所から出発した後にも聞こえたのだから。

 

「一体目の自爆で、入り口を突破し、爆発音はその後に二度」

 

 集落の中で自爆した可能性は否めない。

 

「同時にまだ集落の中に居座っている可能性もあるな……その時は説得を頼む」

 

 足下でこちらを見上げていたばくだんいわに頼むと、俺は再び集落へ向けて歩き出す。

 

(さて、念のためにマホカンタだけはかけておくとして、どうしようかなぁ)

 

 先にばくだんいわが残っている可能性を挙げたが、同時に逃げ遅れたあの変態の家族や仲間が何処かに隠れているかもしれない。魔物の襲撃にあった場所などでは良くある展開だ、ゲームに限るが。

 

(うーん、レミラーマの呪文にお宝だけでなく隠れてる人とかまで反応すればいいのに)

 

 唱えればアイテムのある場所が一瞬光るレミラーマの呪文で生存者を捜すのは、おそらく無理だろう。それぐらいなら、宝箱に魔物が潜んでいないかを確認するインパスの呪文の方が成功の見込みはある。

 

「……しかし、静かだな」

 

 入り口の惨状を見れば、人がいなくても当然だとは思った。襲撃されたのだ。

 

「だが、だからこそか」

 

 ここで声を上げれば良く響く。

 

「おぉぉい、誰か居ないかぁぁぁぁっ」

 

 復讐に狂ったばくだんいわが残っている可能性がある状況下で、普通に考えれば自殺行為だが、俺には反射呪文があり頼りになる説得役も居る。

 

「ふ、あの入り口を通らず惨状を目にしなければ、まるで人だけ消えた様に見えたかもしれんがな」

 

 ごろごろと何かの転がってくる音を知覚し、足下へ頼むという意味合いの視線を送って、音から遠ざかる様に一歩下がった。

 

(途中でばったり会うよりは、呼びだして話を付けた方が危険は少ないもんなぁ)

 

 いくら素早く動けると言っても、先方に不意打ちされたらどうしようもない。現在進行形で集落を襲っていた場合、呼び声を集落側の救援と勘違いしその場で自爆されるかも知れないと、現場到着までは呼びかけを自重していたが、これだけ集落が静かなら問題ないと踏んだのだ。

 

(既に全滅してるか、何処かに隠れてるか、何とかこの集落から逃げ出しているか……とりあえず、一番最初のは止めて欲しいところだけど)

 

 生き残りをどうするかという問題は発生しないが、後味が悪すぎる。

 

(ともあれ、まずはあいつを何とかしないと)

 

 俺の視線の先には、こちらに気づいて転がるのを止めたばくだんいわ。

 

(側に仲間がいれば、巻き込むのを恐れていきなり自爆はしない。一つめの目論見は当たってくれたみたいだけど、問題はこれからだよな)

 

 思い返すとばくだんいわがメガンテの呪文以外を口にしたのは、見たことがない。

 

(説得してくれとは言ったけど、どんな説得をするんだろう)

 

 少なくとも人語は理解するし、身体を前に傾け得るか左右に傾けるかで「はい」「いいえ」の意思表示までは可能なのだ。説得を頼んだ時、頷く様に前へ傾ぐ姿は見ているので、今更説得出来ないと言うことは無いと思うのだが。

 

(不謹慎だとは思う、けどなぁ)

 

 お供のばくだんいわに全て任たのだからと、全て任せ邪魔をしない様に背中を向いていたら、きっと眠れなくなると思うのだ。どうやって説得したかが気になって。

 

(邪魔する訳じゃないし、いいよね)

 

 誰に向けてなのか解らない確認を声に出さずにし。

 

(さて、一体どんな説得を――)

 

 固唾を呑む俺の視界で、対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。

 

(成る程、最初は見つめ合うのか、そこから一体どんな説得に――)

 

 対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。

 

(これは、切り出すタイミングを見計らってるとか?)

 

 対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。

 

(……えーと)

 

 対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。

 

(もしや、瞳で語ってるのかなぁ?)

 

 対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。

 

(いかん、わからない。これは既に説得始まってると見ていいの?)

 

 対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。俺は困惑していた。

 

(ぁぁぁぁぁっ、わからない。わからないっ)

 

 きっと人類にはまだ早すぎるのだろう。思いっきり頭を振りたくなるのを堪えつつじっと見守る俺の視界で、対峙したばくだんいわ達は、ただ見つめ合っていた。

 

(……いかん、落ち着こう。ここで俺が取り乱してもどうにもならないし)

 

 そう言えば、お腹も空いた。

 

(説得中にお腹が鳴ったら迷惑だよな)

 

 一応、竜の女王の城まで行くつもりだったので、すごろく場を後にする時に保存食は用意してきていたのだ。

 

(まぁ、干し肉と硬いパンだけど)

 

 旅をしてすごろく場に辿り着く客向けにゲームには無かった雑貨屋があり、勇者サイモンの前でマシュ・ガイアーる前に色々買っておいたのだッ。

 

(ゲームでは端折られた部分までちゃんと補完されてるってのは凄いよなぁ)

 

 惜しむべきは、そのちゃんと補完されてる部分が律儀すぎると言うことか。携帯食料が、美味しくないのだ。日持ちさせる為に水分を抜き、塩気の強い干し肉も、カチカチで普通に噛んだら歯の方がダメージを受けそうなパンも硬く、水気でふやかしたり煮込んでスープにでもしないと食すことが俺には無理だった。

 

 




意外なところで主人公の弱点が露呈?

次回、第二百四十三話「お腹空いてる深夜に見る夜食テロの破壊力は異常だと思うんだ」

気分転換からーの、夜食タイムに繋がりかねないのです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。