強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百四十四話「熊って食材になったよね?」

 

「よくわからんが、説得は終わった様だな」

 

 対峙していたはずのばくだんいわと揃って出迎えてくれれば、嫌が応にも解る。

 

「これで、問題は一つ片づいた訳か」

 

 質問が確認になってしまったが、些細なことだと思う。肯定する様に身体を前に傾けてくれたばくだんいわ達を前に俺はポツリと呟くと、話し相手と目の高さが近くなる様しゃがみ込む。

 

「俺はこれからこの集落を逃げ出した連中を追う。お前達にとってここの集落の連中は仲間を殺した相手かも知れないが、この集落の人間は他の集落の人間もお前達を使って殺そうとしていた敵だ。だからこそ、残りの連中に関しては人間に任せて貰えないか?」

 

 助けると主張すれば反発を招くだろうが、復讐の権利はこちらにもあるので身柄を預からせて貰うと言えば反発も少ないと思ったのだ。

 

(やっぱり甘いのかなぁ、俺は)

 

 無言で見つめ合い、相談している様にも見えるばくだんいわを見たまま小さく息を漏らす。

 

「すまんな」

 

 ばくだんいわ達が結論を出すのにそれ程時間はかからなかったのだと思う。暫くすると視線をこちらに戻して前に傾いたのだから。

 

(相変わらずどういうやりとりが行われてるのは謎だけど)

 

 気にしている時間もない。

 

「ところで逃げていった住人を追いかけていったばくだんいわはいるのか?」

 

 という俺の問いに答えたのは、こちらで遭遇したばくだんいわの方だった。相変わらず無言だったが、前に向かって傾ぎ、これを材料に方針を定める。

 

「なら、ついてきてくれ。俺だけではこの集落の連中と誤解されかねん。それで、お前の他にこの集落に残っている者はいるか?」

 

 後半の質問は、引き返してきた住人とすれ違った場合を想定してのもの。

 

「そうか」

 

 こちらには横に転がることでばくだんいわは否定の答えを返してきて、少しだけほっとする。俺達が出発した後、隠れていた住人と残留したばくだんいわが鉢合わせて更に犠牲が出ると言うことだけはない訳だ。

 

(それに、この集落にも後でトーカ君達が来るかも知れないし)

 

 その時、事情を知らないばくだんいわが残ってました、では拙い。

 

「それだけ解れば充分だ。急ぐぞ」

 

 懸念事項が幾つか減ったところで、俺は先程窓から見た景色と住居の位置関係から出口におおよその目星を付けて駆け出した。

 

(くっ、こっちは拙いな)

 

 しかし、山地だけあってか集落内にも段差が多いのがめんどくさい所か。後続のばくだんいわ達のことを考えると、階段やある程度以上に急な登り斜面は避けざるを得ず。

 

(と言うか、だからばくだんいわから逃げ延びられたのか……)

 

 何かの転がった後があちこち迂回を余儀なくされているのを見て、被害の少なさに納得する。

 

(とは言え、ばくだんいわに襲撃されるなんて予想もしていなかったんだろうけど)

 

 逆に言えば、そのお陰で不意をつかれた状況から最小限の犠牲で逃れ得たのかもしれない。

 

「考えるのは後だな。レミラーマ」

 

 こういう時、アイテムのある場所が光る呪文は便利だと思う。

 

「あっちか」

 

 集落を出て前方が草だらけ道になっても、唱えるだけで落とし物が光ってどっちに行けば良いかを知らせてくれるのだから。

 

(囮だとしても、モノを落としていった誰かは居るはず。最悪そっちに事情を話して、本命がどっちに行ったかを聞けばいいもんな)

 

 逃げた人々は、下手をすればばくだんいわ以外にも野生の魔物に襲われかねない状況なのだ。おそらく非戦闘員も連れての逃避行となる。

 

(アテもなく逃げるよりは投降を選んでくれれば、犠牲は減らせる)

 

 もしとぼけようとしたなら、ちょうど良い具合にばくだんいわが同行してくれているのだ。脅すという手だってある。

 

「さてと、レミラーマ。……こっちか」

 

 どう情報を引き出すかを考えつつ、呪文を唱え、光った場所を辿るを幾度か繰り返した後のことだった。

 

「ゴアアアッ」

 

 血塗れの熊が茂みから飛び出してきたのは。

 

「っ、居ると思っていたがやはりか」

 

 血の臭い、気配、音。これだけ材料があって気づかない程俺は無能ではなかった。呟きながら横に飛び退きすぐ隣を通過して行く熊とすれ違う。

 

「ガ……アッ」

 

「ふむ」

 

 どさりと背後でした音に振り返れば、広がり始めた血溜まりの上でもがく瀕死の熊が居るだけだった。

 

「確か熊は食材になるはずだな」

 

 割とスプラッターな光景にもかかわらず、呟いてしまうのはやはりお腹が空いているからだろうか。

 

「やめ……とけ、ちゃん……と、処理しねぇ……と食えた、モン……じゃねえぞ」

 

「ほう」

 

 ちなみに、茂みの方から漏れてきた途切れ途切れの声に動じなかったのは、熊の時と理由は変わらない。

 

「助言、感謝する。と、のんびり話せる様子でもなさそうだな」

 

 熊の血が己の血であろうと返り血であろうと、原因は俺が礼を述べた声の主だろう。視界に映るのは、血で汚れた茂みに半ば埋まる様にしてへたり込んだ覆面マントの変態。全身タイツは破れ、皮膚どころかその中までを曝す傷はどう見ても至急手当を必要とするレベルだった。

 




レミラーマ、活躍する。

追跡の末、手負いのデスストーカーを発見した主人公。

果たして逃げた集落の住人の行方は?


次回、第二百四十五話「これはひどい」

酷いのは怪我か、それともビジュアル的変態度か。

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