強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百四十六話「強くて追跡者」

 

「これは……感心すべきか自分の愚かさを猛省すべきか悩むな」

 

 変態の話を聞いて引き返す俺が見つけたのは、脇道へ逸れて何かが転がっていった跡だった。

 

「問題の靴下よりも手前にあると言うことは、ここから道を逸れて先回りしたのか、あのばくだんいわ達は」

 

 レミラーマで光るあの変態の落とし物を辿る事に重きを置きすぎたとはいえ、これほどわかりやすい痕跡を見逃していたとは我ながら何をやっていたんだとも思う。

 

「靴下の所も……いや、今はとにかく引き返すことが先決か」

 

 後ろからついてきている筈のばくだんいわが終始無言なので、端から見ると今の俺はきっと独り言を続ける危ない人だ。

 

(まあ、自分が人からどう見えるかを気にしていられる状況ではないんだけど)

 

 先回りしたばくだんいわの数はそれなりに居た様だったが、あちらにも数が居たからこそ獣道の方へ入っていった個体が居てもおかしくはない。

 

(いくら集落の脱出時にある程度時間を稼いだと言っても、女子供が居れば足は鈍る筈)

 

 ならば、時間が経てば立つ程ばくだんいわに追いつかれるリスクは高まる。

 

「子供用の靴下、あれか……くっ」

 

 ようやく目印に至ったというのに顔をしかめたのは、靴下のつま先が指す方に生えた下生えが何かに押し潰されて一方に倒れていたからだ。つまり、獣道の更に奥側へと。

 

(まぁ、そうなるだろうな)

 

 あのわざとらしい道しるべで完全に騙せる相手と思っていたら、俺だって焦らない。

 

「狭いから並んで転がったのか……それとも」

 

 こちらに割かれた追っ手は少なかったのか。ちょうどばくだんいわ一個分の幅で草が押し潰されて出来た道は、茂みの小枝をへし折り、随分見通しの良い道をつくってくれている。

 

「途中で追いついたら、説得と説明は頼むぞ?」

 

 走りながら後ろのばくだんいわに声をかけ。ただ、伸された草の上を走る。

 

(しかし、けっこう距離があるな……ん?)

 

 更に暫く走って何かの気配を感じ。

 

「そこか……っ」

 

 思わず足を止めた俺が見つけたのは、川の前でたむろするばくだんいわの群れだった。

 

「成る程、追いかけたがここで足止めをくらった訳か」

 

 橋か何かがかけられていたのだろう草の一部が川の向こうと手前で一部消失しており、付近の草が倒されていたのだ。

 

(俺なら飛べるけどばくだんいわが渡るのは、無理か)

 

 地面の凹みからすると、かけられていたのはおそらく丸太か、それを半分に割ったような形状の橋だと思う。

 

(成程なぁ)

 

 周囲に木も生えているので、デスストーカーであれば、木を切り倒して橋をかけるのは容易だが、ばくだんいわには手も足もない。追いかけてきた味方だけが渡れる様にと考えて橋になっていた丸太を外して流したといった所か。

 

「とりあえず、あいつらの説得と説明を頼む」

 

 だが、追っ手に俺が加わっているとなれば話は別だった。

 

「せいっ」

 

 同行のばくだんいわにお仲間については丸投げし、手頃な太さの木に近寄るとただまじゅうのつめで薙ぐだけ。

 

「ついでだ」

 

 更に下から上へと斬り上げれば、三枚刃が付いている都合上、切られた木は四つに分かれた。

 

「後は枝を落とせば橋には充分だろう」

 

 倒れ込んだ橋の材料が大きな音を立てるが、既に同行者が説得に向かっている筈なので、足止めを喰らって群れていたばくだんいわ達のことは気にしない。

 

(ま、刺激しない方が良いだろうし、めんどくさいからここで良いかな)

 

 最寄りの川辺まで伐採した木を引き摺ってゆくと、一度引き起こしてから反対側へとかかる様に倒す。

 

「ふ、こんなものか」

 

 間に合わせの橋つくり終えた俺はそのまま橋を渡って向こう側へと辿り着くと、ちょうど見つめ合い中のばくだんいわ達と反対側に回り込む。

 

(さっきは自重したけど、とりあえず言うことだけは伝えておかないと)

 

 声なきお話しにどれ程時間がかかるか解らない以上、このまま待つのも拙いと思ったのだ。

 

「説得と説明の最中にすまん。俺は逃げてる連中を追う。向こうの方に簡単な橋をかけておいたから、話が終わったらそれを渡って来てくれ」

 

 足止めされてここで留まっていたなら、説得要員に同行して貰う必要ももはやない。

 

(と言うか、どうしても気を遣うからなぁ、歩幅とか)

 

 転がるのを歩幅と言うのもおかしい気はするが、それはそれ。

 

「くくく、待っていろよ。相手は女子供連れ、すぐにでも追いついてやる」

 

 踵を返し、口の端をつり上げた俺は、再び走り出し。

 

「ゴアアアッ」

 

「また貴様か、邪魔だっ」

 

「ガアッ」

 

 茂みから出てきた熊をすれ違い態に斬り捨てた。

 




逃避行を続ける集落の住人達へぇ、遂にあの男が追いついたっ。

力なき者も多い中、彼らの運命やいかにぃぃぃぃっ!

次回、第二百四十七話「ひゃっひゃっひゃっひゃっ、さぁとうとう追いついたぜぇぇぇっ!」


?「あ、あれは……ネタバレを次回予告の勢いで誤魔化して行く型っ」


あと、今回短くてごめんなさい。

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