強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百四十七話「ひゃっひゃっひゃっひゃっ、さぁとうとう追いついたぜぇぇぇっ!」

 

「あれか」

 

 まじゅうのつめで余計なモノを斬り捨てること三回。ようやく複数の人影を見つけた俺は、ちらりと後ろを振り返る。

 

(ばくだんいわ達は……まだ、かぁ)

 

 こちらと違って途中で魔物と遭遇したとかそう言うことは無いと思うが、移動手段が転がるしかない上に、俺も戦闘でロスした時間を埋める為に全力疾走とかしているので、無理もない。

 

(と言うか、まさかあれほど魔物と遭遇するとはなぁ)

 

 前をゆく集落の住人達には、気配を殺せぬ者も居て、同時に負傷者もいるのだろう。足元を見れば、転々と血の跡が続いている。

 

(こっらが気配を断ち忍び歩きで追いかけていても、あっちの気配とかこの血があれば魔物も寄って来て当然だよな)

 

 結果、おびき寄せられた魔物が住人達を追跡しようとするところへ俺が鉢合わせする状況になっていたのだ。

 

(まぁ、わざわざ迂回するより倒していった方が早いからこうなったんだけど)

 

 斬り捨てた熊の死体に他の魔物が寄ってくる可能性はあるが、後続のばくだんいわとその魔物が遭遇したとしても。戦闘になるとは考えにくい。

 

(手を出したら自分が痛い目を見ると言うか高い確率で死ぬことになる、動く危険物だからなぁ)

 

 岩なので倒して得る物も遭遇側の魔物には殆どない。余程馬鹿でなければ、スルーしようとする筈だ。

 

(うん、後ろは問題なし、と)

 

 ならば、気にすべきは、標的を逃さず確保することのみ。

 

(さて……「さっきの変態に頼まれて来た」と助っ人の態で接触するか、それとも奇襲してラリホーの呪文で眠らせるか)

 

 合わせ技でもいいが、とにかく逃がさないと言うことが重要だ。

 

(バラバラの方向に逃げられたら、全員を捕まえるのは難しいし)

 

 いっそのこと暫くは本当に応援に来たふりをして、寝込みを襲うか。

 

(もしくは、時間稼ぎしている間にばくだんいわ達に包囲してもらうかだけど)

 

 もう一度振り返っても、ばくだんいわはまだ姿が姿が見えない。

 

(ラリホー自体、効くか解らないって不確定要素があるけど、やむを得ないかぁ)

 

 じっと様子を見ていても仕方がない。

 

「おい、そこのお前達」

 

「っ、な、なんだ人か……」

 

「なんだとはご大層だな」

 

 声をかけつつ、歩き出した俺はこちらにようやく気づいた最後尾の覆面マントへ、同じ格好の男に頼まれてここへ来たと語ると、鞄を漁って見つけた薬草を差し出した。

 

「怪我人が居るのだろう? 血の跡が点々と続いていたぞ。あれでは魔物に付いてきてくれと言っているようなものだ」

 

「何? そうか、あの爺か。歩き方がおかしいと思ったらやっぱやられてたのか。すまねぇ、感謝する」

 

 頭を下げて変態が薬草を受け取ったのは、同じ格好の男に頼まれてと言う話のお陰だと思う。

 

「気にするな。それより、手当てしに行かなくていいのか? どのみち『頼まれもした』からな、少しぐらいなら『見張っていても』構わんぞ?」

 

 こういう時言葉って難しいなと思う。聞いたつもりはないが変態には頼まれたし、連中が逃げない様に見張っている必要は有るのだから、嘘は言っていないのだ。

 

「お、おぅすまねぇ。すぐ戻って来るからよ」

 

 本当に申し訳なさそうにもう一度頭を下げた変態が背を向けた瞬間、俺はほくそ笑んだ。

 

(まずは第一段階クリア)

 

 少し離れた位置からこっちを見ている少年が居たものの、変態がちょうど壁になってこちらは見えず。

 

「と、言う訳だ。宜しく頼むな」

 

「あ、うん」

 

 トーカ君に似た装備の少年にも変態に言ったのとほぼ変わらぬ内容の説明をしてから会釈し。挨拶に応じてくれたので、せっかくなので疑問に思っていたことを投げかけてみる。

 

「ところで少し気になっていたんだが、この辺りの成人男性は覆面で顔を隠す風習でもあるのか? お前は違う様だが」

 

「……やっぱり気になるよね?」

 

 少年の口が開くまでには少し間があり。

 

「聞いては拙いことだったか?」

 

「ううん、あれは……荒事用。魔物と戦ったりとかする大人がつけるモノなんだ。俺はまだ未熟だし、戦士じゃなくて狩人だから」

 

 失言だったかと言う態度をして見せた俺に少年は頭を振ってから話し出す。

 

(あぁ、要するに山賊仕事用兼戦闘用なわけか)

 

 後ろ暗いことをして素顔を曝す訳にはいかないからの格好だと言われれば、頷ける。同時に山賊行為をすると言うことは戦闘が発生することもあり、現状も魔物と遭遇することを考えてああいう格好なのだろう。

 

「そうか。だが、戦いになればその弓をとって矢をつがえるのだろう?」

 

 ただし、若い狩人が何故ここに居るかを考えれば、理由は一つしかない。

 

「もちろん。ここを抜けられたら母さんや姉さん達が居るもの」

 

「まぁ、弱い女子供を中心にと言うのは、基本中の基本ではあるな……だが、甘いぞっ!」

 

 俺は足下に転がる石をさりげなく拾うと、全力で空を飛ぶ『それ』に投げつけた。

 

「ベギ、ぎゃあああっ」

 

 石が直撃し、箒を手放して落ちてくるのは、薬草茶を振る舞ってくれた老婆と同じ系統の魔物。

 

「なっ」

 

「弓を持っている奴が、上空の魔物への警戒を怠ってどうする」

 

 実は石を投げるのを僅かに躊躇した俺の言えることではないかもしれないが、一応叱責はしておく。

 

「ご、ごめん」

 

「謝ってる暇があったら、構えろ」

 

 ただ、のんびり反省会を開いてやる時間もなかった。

 

「おのれ、よくも仲間を」

 

「じゃが、それまでじゃ。皆、高度を上げるのじゃ」

 

 同じ魔物が何体か、空に現れたのだから。

 

「厄介なことになったものだ。あれでは石も届くかどうか」

 

 とりあえず、俺が居るのに襲いかかってきた時点であの老婆と同じ種族だから手加減しようと言うつもりは半ば捨てた。

 

「ど、どうしよう」

 

「任せておけ。俺に良い考えがある」

 

 石が届かないなら、矢も似た様なモノということか、こちらを伺う少年に向かって俺は余裕の表情を崩さず、言ってのけたのだった。

 




逃げた住人を捕まえて一件落着かと思いきや、訪れた超展開。

空から魔法おばばが降ってくるって、誰得なんでしょうか。


次回、第二百四十八話「俺なりの作戦」

そろそろこの捕り物終わらせたい。


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