強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百五十一話「竜の女王の城へ」

 

「竜の女王の城までは直線距離で行くなら山地と森を突っ切る形になる。土産話でしたようにこの辺りには山賊の集落やまほうおばばの庵も点在している、前者はともかく後者は空を飛ぶドラゴンに跨って空を行軍していても戦闘は避けられまい」

 

 翌朝、俺は荷物をくくりつけた水色の細長いドラゴン達の前で、最終確認がてらお復習いを行っていた。

 

「他にも仲間を癒す猛禽などが空を飛ぶ魔物としては確認されているが、山賊が弓を使って射てくる可能性も捨てきれん」

 

 この辺りはゲームと乖離するが、トーカ君のような狩人が存在することを鑑みると警戒するに越したことは無いと思う。

 

「その時頼れるのは、攻撃呪文の使えるお前達だけだ。俺やミリー、そっちの鎧はほぼ荷物にしかならん」

 

「そんなことありませんわ、目が多いだけ敵は見つけやすく、奇襲もされにくくなりますもの」

 

「ふ、そう言って貰えると助かる」

 

 勇者サイモンとおばちゃんの脱落に言及せずフォローしてくれる魔法使いのお姉さんの成長と気遣いを嬉しく感じつつ、ゆっくりと歩み寄る先はドラゴンの胴。

 

「お師匠様……危なくなったら遠慮しないで下さいね?」

 

「あ、あぁ」

 

 俺の前、ドラゴンの頭に乗るシャルロットは気遣ってくれるが、そのシャルロットの背中にせくしーぎゃるっていた時のことなどを思い出してしまうのは、こちらに問題があるのだろうか。

 

(まぁ、シャルロットは優しいし、変な意味で言った訳じゃないよね)

 

 こういう時こそ平常心が大事だと思う。

 

「姫、お側に居られぬこと断腸の思いですが」

 

「うん、ありがとう。ボクは大丈夫だから」

 

 同じドラゴンに乗れなかった赤い甲冑の魔物がシャルロットととの別れを惜しむ姿を眺めながら、出来うる限り意識しない様にしていた。

 

「そ、その、ご主人様……宜しくお願いします」

 

「ああ」

 

 後ろにはバニーさんという俺の理性を試すかの様なドラゴン座席表というか騎乗位置関係を。

 

「しかし、何も出来んと言うのは歯がゆいな。ブーメラン系統は戻ってくる時の問題があるから厳しいとしても、指弾に使う石ころでも拾っておくべきだったか」

 

 すごろく場でシャルロットは上がりの景品を手に入れただけでなく、万屋できちんとほのおのブーメランを俺の分を含めて購入して来てはくれたのだが、この武器、ドラゴンの背で使うと高価な使い捨て武器になってしまいかねない欠点があったのだ。

 

(そりゃ、投げればキャッチする必要があるしなぁ)

 

 陸や船の上ならキャッチしやすい場所まで移動してとることも出来るだろうが、空を飛ぶドラゴンの上で飛んでくるモノをキャッチしようとか、自殺行為である。

 

(やはり、腹話術死作戦用の人形なり武器なりを早急に用意する必要があるな)

 

 対策をしない限り人前で攻撃呪文の使えない俺は、よくて肉壁兼ナビゲーターと言ったところなのだ。

 

「さてと、では行くとしようか」

 

「「はい」」

 

「「フシュオオオオオッ」」

 

 複数の返事と二頭分の竜の咆吼が重なって、俺達を乗せたスノードラゴン達はゆっくりと浮かび上がる。

 

(昨日は予期せぬ所で時間をとられてしまったし、もう想定外の展開がないといいけど)

 

 トーカ君達の集落を中継点として使えそうなのが唯一の収穫だろうか。ばくだんいわによる集落爆破未遂事件は、犯人とその家族の身柄を集落ごと確保することで解決している。まだ、捕まえた者達の処遇という問題が残っていると思うので、お邪魔するべきか少し躊躇うところだが、あの老婆の庵に五人と二頭と一着で押しかけるのは非常識すぎる。

 

(かといって、せっかく知り合いの出来た場所があるのに野宿するのもなぁ)

 

 地図を見て再確認したのだが、すごろく場から目的地まではアリアハンとレーベくらいの距離がある。騎乗者三名に各種装備を積んだスノードラゴンの飛行速度では、強行軍をしても目的地直前の高山帯にさしかかる時には日が沈んでしまうだろう。

 

(明かりに乏しい中、高山を越えるのは流石に危険だし、仕方ないよね)

 

 ドラゴンだから鳥目ではないと思うが、万が一岩肌に激突して墜落しかけた場合、とれるのはルーラの呪文を使った緊急避難兼振り出しに戻る、だけなのだ。

 

(間近にまで達しておいて、バハラタからやり直しは流石に痛すぎる)

 

 だから、集落に宿泊することになったとしても、やむを得ず。

 

(いや、不安要素はあるんだけどね)

 

 まず山賊用の変態衣装の存在。あれがせくしーぎゃるっていた過去のあるシャルロットのトラウマを剔らないかという心配。

 

(そして、あの一件で距離の縮まったばくだんいわ達が高い確率で居ると思われること)

 

 ばくだんいわが日常的に存在する集落でお泊まりとか、ぐっすり眠れるのかという疑問がある。俺は懐かれているので、大丈夫だと思うけれど。

 

(最後に、山賊行為がシャルロットの正義感に接触しないかという点かな)

 

 一応、トーカ君の所は義賊に近い形だし、木こりとかちゃんと副業もやってるので、俺が捕り物やって捕まえた連中程外道な行いはしていない様だが、不安要素であることは間違いなく。

 

(シャルロットには一応説明しておいたけど、なぁ)

 

 こんな辺境で魔物がうろうろしてる場所を生きていると言う点を加味する様に、とも言ってある。

 

(大魔王の影響がなくなって魔物が大人しくなれば、暮らしやすくなるのは間違いないし)

 

 魔物に脅かされることがなくなれば、林業とプラスαだけで食べていける様になると思うのだ。だから、大切なのはまず世界を平和にすること。山賊行為に頼らずとも暮らしていける基盤を作ってやることだろう。

 

(後ろ暗いことをしなくなれば、交易網に組み込んで利益が出る様にすることだって可能じゃないかな)

 

 もっとも、今の俺達には他者を気にかけていられる余裕などなく、まだやることは山積み。

 

(まぁ、全部こっちで背負い込むこともないか。時期を見て「利益が地域に落ちる様に交易網に組み込んで」って要請だけしておいて、あの魔法使い三人や文官とかそう言う人に丸投げする手もあるよね)

 

 こう、ついつい余計なことを考えてしまうのは、きっと背中へ服越しに伝わる感触を出来るだけ、意識したくないからだろう。

 

(いや、よくよく考えると防寒着とかにまで気が回らなかった俺の自業自得なのかもしれないけどさ)

 

 上空は寒い。まして、ここから更に東に行くと雪の積もった場所が見えるような地域なのだ、ここは。

 

「す、すみません、ご主人様」

 

「いや、気にするな」

 

 俺の意識が向いたことを察したのか謝ってくるバニーさんは、やみのころもで俺と二人羽織している様な姿で密着中である。流石に遊び人の格好では寒すぎたのだ。

 

(気にしない、と言うか、気にしちゃ駄目だ)

 

 前に居るシャルロットの背中からは不機嫌さがヒシヒシと感じられ。微妙に直視しづらい。そんなこんなで、現実逃避に考え事に没頭するしかない空の旅。

 

「ライデインっ」

 

「ギャアアアッ」

 

 こちらを襲撃し、シャルロットの八つ当たりを受けて炭化しながら墜ちて行く魔物の断末魔はこれで何度目だろうか。

 

(集落、まだ遠いかな)

 

 今、俺はもの凄く大地が恋しかった。

 

 




主人公を襲う、シャルロットとバニーさんの板挟み。

現実逃避しつつ彼が望む大地に待ち受けるモノとは。

次回、第二百五十二話「集落に泊まろう」

いやー、暖かくなったと思ったんですけどね、目が覚めたら雪が積もっていた不思議。

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