強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百五十二話「集落に泊まろう」

 

「おう、久しぶり……ってモンじゃねぇな。どうした、忘れモンでもあったか?」

 

「いや、そう言うことではない。実はな――」

 

 俺は先触れとして一足早く集落を訪れ、トーカ君の兄である変態装備のデスストーカーと再会、再来訪の理由を説明していた。

 

(スノードラゴンの棲息する地域じゃないもんなぁ、この辺り。東に行くとスカイドラゴンは出没するらしいけど)

 

 いきなり見慣れぬ魔物で乗り付けては騒ぎになるからなと高度を下げて貰って、一人水色ドラゴンから飛び降りたのがつい先程。シャルロット達はドラゴンの背で、こちらの合図を待って上空に待機していると思う。

 

「魔物使いの知り合いと合流出来たのは、幸いだった。空を飛ぶ魔物に跨れば難所が難所でなくなるのでな」

 

「はぁ、あんた凄ぇとは思ってたが、知り合いまですげぇんだな……話はわかった。水色の細長いドラゴンが近づいてきても攻撃しない様に集落の皆にゃ俺から言っとくぜ」

 

「手間をかける。ではな、こちらも仲間に連絡してくる」

 

 とりあえず、呆れ半分に納得してくれたトーカ君の兄に軽く頭を下げると、踵を返し。

 

(さてと、流石に集落の中で狼煙を上げるのは拙いからなぁ)

 

 一応、義賊風味とはいえトーカくん達も山賊を兼業している身、拠点を特定されかねない様な真似は避けるべきだと集落を出た俺が向かうのは、ドラゴンから飛び降りた場所。勿論、狼煙を諦め歩いて戻ろうとしたのではない。

 

(シャルロット達も狼煙を目印にこちらへやって来るだろうし、集落から距離をとらなきゃいけないなら)

 

 待機してる場所に近い場所で狼煙を上げた方が、合流までの時間が短くて済む。

 

(……と、思っていたんだけどなぁ)

 

 いや、間違いではない。間違いではないのだが、集落を出た辺りからゴロゴロと何かの転がる音が後ろを付いてきていたのだ。

 

「……やっぱり、お前か」

 

 振り返れば、肯定する様に前へ傾いだばくだんいわ。

 

(そう言えば、このばくだんいわが居たんだった)

 

 一日ぶりの再会だが、後を付いてくる辺り慕ってくれているのは間違いないと思う。

 

(けどなぁ、流石に空の旅には連れて行けないしなぁ)

 

 手も足もないのでは、ドラゴンに掴まることも出来ず、ほぼ球体なので縛り付けるのは難しい。

 

(サッカーボールとかスイカぶら下げるネットみたいなのを編むにはロープの残りが足りないし)

 

 そも、俺達の旅は危険が伴う。攻撃手段が自爆呪文のみのばくだんいわを連れて行く理由なんて、何処をひっくり返しても出てこなかった。

 

(せめて人間なら……って、いけない。下手なことを考えてもし、顔に出でもしたら)

 

 相手は睨めっこで説得を行う種族だ、こっちの心理を見透かされる可能性がある。

 

(だいたいおろちだって人の姿になれ訳だし、この世界には変化の杖だってある)

 

 魔物は人間になれない、何て決めつけてポロッと零してしまった日には、どうなることか。目を閉じれば、駆け寄ってくる見知らぬ少女のイメージ。

 

「僕、ばくだんいわです。人間になれたんです、だから、これからはずっと一緒に――」

 

 抱きついてくるのが、少女なのは俺の願望なのだろうか。いや、確かに男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。男に抱きつかれたところを見て喜びそうな僧侶の少女には心当たりがあるけれども。

 

(って、これ以上女性同行者を増やすなーっ!)

 

 自分の想像力に渾身のツッコミを入れる。

 

(まったく、我ながら何を考えて……あ)

 

 そして、ため息をつきつつ我に返った直後だった。ばくだんいわと目があったのは。

 

「……すまん、醜態を見せた。忘れてくれ」

 

 とりあえず、一連の心の声をばくだんいわが理解していないことを今、切に願う。

 

(忘れよう、こんな生まれたての黒歴史)

 

 そうだ、くべてしまえばいい。狼煙を上げる為のたき火に。

 

「これから狼煙で仲間を呼ぶ。人数が多いからな、少し下がっていてくれ」 

 

 ドラゴン二頭は降りられそうな空き地を選び足を止めはしたが、ばくだんいわが降りてくるドラゴンの下敷きになったら笑えない。俺が促すと、ばくだんいわは素直に後ろへ転がり。

 

「助かる。さて」

 

 目で感謝の意を送ってから、俺は狼煙をあげた。

 

「お師匠様ぁ~」

 

 普通のたき火とは異なる色の煙が立ち上ってから、シャルロットの声がするまでにそれ程時間はかからなかったと思う。

 

「来たか、ここだ」

 

「っ、お師匠様ぁ」

 

「な、ぷっ……ぐっ」

 

 手を振り、出迎えた俺の上へとシャルロットが降ってきたのは、やっぱり二人羽織っていたせなのか。

 

(女の子一人ぐらい、受け止められると思っていたんだけどなぁ)

 

 きっと不幸な事故だったのだと思う。視界を柔らかな何かで遮られ、バランスを崩した直後、後頭部に受けた衝撃で、俺の意識は飛んだ。

 

(で、起きたらベッドに寝かされてたって言うのが定番なんだろうけど)

 

 意識を失ったのは、ホンの一瞬であったらしい。

 

「お師匠様っ? え、あ……」

 

 上からはシャルロットが悲鳴っぽく呼ぶ声がするし、視界は相変わらず何かで塞がれたまま。

 

「ん゛んぁ」

 

 無事だと言おうとしても口元も塞がれているのでろくに返事も返せない有様だった。

 

(けど、シャルロットが怪我をしなかったと思えばまぁ、いいか)

 

 俺の身体がクッションになったはずなので、深刻な事態にはなっていないと思う。もっとも、よっぽど酷い怪我でなければ僧侶のオッサンの回復呪文で何とかなるだろうとも。

 

「っ、嫌ぁぁぁぁぁぁっ」

 

(え?)

 

 だから、シャルロットが悲鳴をあげるまで、気づかなかった。このままだと息が出来ないとは思っていたが、一つの疑問に。そう、シャルロットはだいちのよろいを着込んでいた。スノードラゴンに跨るのに邪魔なので股間を守るパーツの前後だけを外した形で。

 

(じゃあ、この柔らかい感しょ)

 

 その後、俺は今度こそ意識を失ったのだと思う。

 

「う……」

 

「ご主人様? 気が、気が付かれました?」

 

 何があったかは、解らない。気が付いた時にはベッドの上だった。

 

 




こんな泊まり方、あってたまるか。

誰がどうやって主人公を気絶させたのか。

1.窒息 2.雷撃 3.殴る蹴るの暴行 4.その他

さて、どれでしょう。

次回、番外編18「集落の夜(勇者視点)」

きっと看病パート他の予定

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