「で、レーベの村に戻ってきた訳だが……」
誰に説明しているつもりなのかは自分にも解らなかった。おそらく現実逃避したかったのかも知れない。
(まずはシャルロットの所に行くべきか)
塔の宝箱に入っていたキメラの翼でレーベに戻ってきた俺と女戦士そして勇者一行は、まず宿屋に向かった。戦いの疲労と精神的疲労の両方から勇者を休ませるべきと言う意見が半数を占めたのだ。
(まぁ、それだけじゃなかったけど)
ちなみにバニーさんは魔法使いのお姉さんに引き摺られて連行されていった。きっと今頃はお仕置きが始まっているのではないだろうか。
(うん。結局の所、シャルロットの所以外の選択肢は無かったのかもな)
女戦士の所に詫びに行こうかとも思ったが、腕輪を外して入浴している可能性に思い至った時点で選択肢から消した。僧侶のオッサンは、この村の教会に出かけてくると言って宿には居ない。
(行こう。取り込み中だったら、外で待つとか出直せばいいし)
客室に引っ込んだ勇者が入浴や着替えをしているかもと、いったんは自分もあてがわれた部屋に入り、ベッドに腰掛けていた俺だが、このまま座っていても仕方ない。
(まずは謝ろう、それから話すべきことをきちんと――)
そこまで考えて、前に踏み出そうとした足が止まる。
(話す、かぁ)
どこまで話せば良いのだろうか。打ち明け話をするなら、最初はバニーさんにすべきと俺は思っていた。卑怯なのは重々承知だが、バニーさんいは俺に借金を肩代わりされているという負い目がある。
(口止めは絶対に必要だ)
勇者達を見てふと気づいたのだ、ただのゲームキャラにも自我があり自分の判断で動いていると言うことに。何を今更と言われるかも知れない、だがバラモスやゾーマのような倒すべき相手にも自我と思考する知性があったとしたら。
(まだ過程に過ぎないけど、俺の介入で予定を変更してくることは充分考えられるもんな)
アリアハンに自分を単独撃破出来るスペックの人間が居ると知れば、バラモスの立場なら最優先で対策を考えるだろう。
(普通に考えれば手段を問わず倒すか無力化する、場合によっては味方に引き込む……ぐらいしか今は思いつかないけど)
「ワシがバラモスじゃ、お主に世界の半分をやろう。ワシの部下になる気は――」
ろくでもない展開になることだけは想像がつく。一瞬浮かんだベタ展開は無いにせよ。
(確か何処かのお城の猫は魔物が化けたモノだった筈)
イシスという国だった気がするが、同じことをアリアハンでもやられてるとしたら、誰かに打ち明けるだけでも危ない橋である。
(もっと、今の時点じゃただの仮説。保身の為に呪文を使わなかったことの言い訳に過ぎないかぁ)
逆にこの仮説が正しいなら「勇者の取り乱しように慌てて、賢者の石を使って見せたあげく説明までしてしまった」のは大ポカだ。
(その辺抜きにしても、賢者の石のことは口止めしておこう。よくよく考えたら、あれって平和な時代には戦争を引き起こしかねないし)
本当に賢者の石の一件は酷いミスだった。護衛の面々を女戦士の元に向かわせていて、目撃者が勇者パーティーに留まったのがせめてもの救いか。
(はぁ、自業自得とはいえ……頭痛い)
全て俺が甘んじて受けるべきモノだとは思う、だが。
(って、こんなとこで凹んでる暇はないな。早く勇者のと)
「お、お師匠様」
頭を振って部屋を出ようと思い直した直後だった、ドアがノックされたのは。
「どうした、シャルロッ」
「お師匠様、ボク……」
戸口に居たこともあって、ノブに手をかけてドアを開けるとそこにいたのはまくらを小脇に抱え、パジャマ姿のシャルロットだった。
(はい?)
一瞬、俺の思考は停止した。
(ピロートーク? いや、まくら投げか?)
前者は同性とやるようなモノの気がするし、後者は二人でやるようなモノだろうか。
「傷は治っても、ボクのせいでお師匠様の顔に傷を負わせちゃったことは変わらないし、その……責任を」
(セキニンッテ、ナンデスカ?)
誰だ、誰が勇者に妙なこと吹き込んだ。
(バニーさんか、女戦士か、それともあの魔法使いのお姉さんと見せかけて僧侶のオッサンか?)
俺は混乱していた。逃げだそうにも一個しかない部屋の入り口は勇者が立っている。
(なら、窓から……って、逃げてシャルロットが気に病みでもしたら)
駄目だ、逃げても解決にならないどころか状況が悪化しそうな気がする。
(か、考えろ。少なくともこの身体は元賢者、賢さの数値だってそれなりにあるはずだ)
一瞬中身が俺の時点で賢さ関係あるのかとか冷静な部分がツッコんできたが、敢えて無視する。
(まず、勇者は自分が原因で俺が怪我をしたと思いこみ、気にしている)
それで、罰というか償わせて欲しい、そんなところなのだろう。
(いや、どう考えてもペナルティ受けるのは俺の方なん……ん? ペナルティ?)
閃いたのは、一つの案。そして、それを起点にした二つの展開。
「いや、むしろ詫びるのは俺の方だ。お前は、良くやったシャルロット」
首を横に振って、頭を撫でると勇者の瞳が涙で潤み。
「お師匠ざま……おじじょうざまぁぁ」
「すまんな」
抱きついてきた勇者の身体を受け止めた俺は、腕の中のシャルロットに詫びながらドアを閉めた。
別の意味で暴走するところだった勇者は誰の差し金か。
悩み、追い込まれた主人公の脳裏に浮かんだひらめきとは、彼は勇者に何を話すというのか。
次回「昨晩はお楽し……じゃなかった、第二十七話「告白と選択」。
提示した選択肢に勇者の選ぶ道は、己が罪と向き合う機会となるのかそれとも別れの序章か。