強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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「ねぇ、シャルロットおばあさん。その後おばあさんはどうしたの?」

 安楽椅子に腰掛ける老婆に問うのは、まだ幼い女の子だった。

「うーん、この先を話すのは、お前にはちょっと早すぎるねぇ」

 白髪になってもツンツン頭の老婆は、困った様に笑うとちらりと横目で壁を見る。そこには、一組の夫婦の絵が飾られていた。

「ただね、お前達の顔を見るとあの時のボクの判断だって間違っていなかったんだなぁって思えるのさ」

 大魔王ゾーマを倒す場に立ち会えなかったのは、勇者として失格だったかも知れないけどねぇと老婆は苦笑し、今度は窓の外を見た。

「もう、あの集落にも、アリアハンにも戻ることは出来ないけれど、ボクは幸せだよ……お師匠様、ううん、あなた」




第二百五十五話「ねぇ、シャルロットおばあさん。その後おばあさんはどうしたの?」

(って、何、この打ち切り展開?!)

 

 無意識の願望とかそう言うモノではないと、願いたかった。

 

「どうしたんです、お師匠様?」

 

「……いや、何でもない。今後のことを考えていただけだ」

 

 その結果、ツッコミどころが多すぎてどうしようもない光景が見えた気もするが、きっと気のせいだろう。

 

「しかし、昨日は本当にすまなかった。無理をさせてしまったな」

 

「え、あ、ううん。そんなことないです」

 

 俺とシャルロットが言葉を交わすのは、ドラゴンの上。昨晩、シャルロットが部屋を尋ねてきた後、言葉を尽くして説明したのだ、主にポルトガの一件を持ち出して。

 

(時間がかかった上、出立の準備を手伝うってシャルロットが言い出して)

 

 途中で寝てしまったシャルロットを前にして、俺は頭を抱えた。集落に泊まる際、借りた部屋は男女別だったのだ。俺は気絶してた部屋をそのまま割り当てられたので一人部屋だったが、シャルロットにあてがわれた部屋には、バニーさんと魔法使いのお姉さんが居る。

 

(まぁ、夜も遅い時間帯に女性の寝てる部屋にお邪魔なんて出来るはずもないもんなぁ)

 

 イシスでクシナタさん達の所に行った時とは違うのだ。結果、シャルロットは俺の寝ていたベッドで眠らせ、一人朝までに出立の準備を済ませた訳だが。

 

(たにん から みる と どう かんがえて も あさがえり です。 ありがとう ございました)

 

 途中まで手伝っていて若干睡眠不足気味だった、シャルロットが寝ぼけて女性陣に変なことを漏らしていませんようにと密かに祈った。

 

「それより、先に寝ちゃってすみません。ボク……上手くやれてましたか?」

 

「まあ、ああいうモノは慣れればな」

 

 習慣というのは恐ろしいものだと思う。いつもやってることだからか、うつらうつらしつつもシャルロットが纏めた荷物はほぼ完璧だった。

 

(と、行っても俺だって荷造りとかの経験はこの身体になるまであまりなかったんだけど)

 

 憑依する前に身体の持ち主がし終えていた旅の準備を再現しようとしたら、身体が覚えているかの様に動いたのだ。あれがなければ、きっと俺はレーベにたどり着けたかさえ怪しかったと思う。

 

「緩くもないし、食い込んでもいなかっただろう?」

 

 魔物との戦闘や、状況によっては逃亡。長距離の移動などを考えると荷物によっては縛って固定しておく必要もあって、それは面倒でも疎かに出来ないのだ、もっとも。

 

「あ、あの……ご主人様。すみません、何のお話を……」

 

「ん、ああ。昨晩、夜まで寝させて貰ったからな、出立の準備を朝までしていたんだが、訪ねてきたシャルロットに手伝ってもらってしまってな」

 

 話に付いてこられないバニーさんを一人置いてけぼりにしてしまったのは、失敗だったとも思う。

 

「あ、そ、そうでしたか……」

 

「ん? ひょっとして、変な誤解でもされていたか?」

 

 僧侶のオッサンは男部屋で赤い甲冑と一緒だったので、バニーさんとは別の部屋だったのだが。

 

「い、いえ。すみません」

 

「そうか、それならいい」

 

 昨日は誤解どころかシャルロットに色々見られちゃったりしてるのだが、あれは出来れば忘れようと思う。

 

(けど、一人だと思って変なことしなくて良かったよなぁ)

 

 本当に危ないところだった。メタ発言とか、クシナタ隊のこととか、今後の原作展開とかに言及してたら、フォローが出来たかどうか。

 

(だいたい、俺の記憶通りなら、きえさりそう、販売してる店のある町とか幾つかあった訳だし)

 

 シャルロットはイシスの防衛戦で手に入れたらしいが、あの戦いに参戦していない面々とて、町で購入は出来るのだ。

 

(今回は、何とかなったけど、一歩間違えば……)

 

 取り返しの付かない事態になっていた可能性もある。

 

「気を引き締めていかねばな」

 

 呟きは、見られちゃった一件に限ってのはなしではない。今、俺達が目指しているのは、竜の女王の城。竜の女王はゲームで大魔王ゾーマの力を弱める重要なアイテム、ひかりのたまを授けてくれる人物であるが、当竜も神の使いとかそんな設定だった気がする。

 

(神の使いなら、俺の正体に気づかれたとしてもおかしくないし)

 

 逆にそう言う重要人物だからこそ聞いてみたいことも多々あるのだが、この女王は勇者へひかりのたまを授けた後病の身を押して卵を産み、命を落とすのだ。

 

(蘇生呪文での延命はおそらく不可能だよなぁ)

 

 蘇生後のレベルアップで助けられるのは、衰弱した者のみ。そも、病であることは知っているが、女王の病がどんな名かも知らない。

 

(女王が卵を産む前に治療法を見つけられれば)

 

 原作とと比べて遙かに早いタイミングでの訪問になるのだ、可能性は0ではないと思う。

 

(行き当たりばったりだが、試して損はないかな)

 

「あ、お師匠様。お城が見えてきましたよ」

 

 シャルロットの背中を見つつ考えていれば、そのシャルロット自身が声を上げ。

 

「そうか、思ったより早かったな」

 

 結局、考えが纏まらぬ内にドラゴンは下降し始めていた。

 

 




まさかの前書きで打ち切りパロディ。

肝心の部分をすっ飛ばし、何とか竜の女王の城へとたどり着いた勇者一行。

主人公は果たして竜の女王を救えるのか。

次回、第二百五十六話「竜の女王」

短くてすみません。

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