強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百五十九話「話をしよう」

「それでも、そなたには詫びておきましょう。無断で心を読んだこと、申し訳ありません」

 

「謝るなら、シャルロットにも詫びて貰いたいところだが」

 

 それはかえって藪蛇でもあった。おそらくシャルロットはまだ自分の心を読まれたことさえ気づいていないと思うから。

 

「故に、謝罪は受け取っておく」

 

 口に出した部分だけなら、文章として繋がっていないが、心が読めるなら別に構わないだろう。

 

「それで、お話しとやらだが」

 

「はい。まず私の病についてです。あなたが勇者シャルロットの前で口に出来た方法での延命及び蘇生で私の死を回避することは叶いません。ほこらの牢獄で検証した方法も『勇者シャルロット一行の一員と見なす』の部分でおそらくは躓くでしょう」

 

 切り出した俺について女王が語り出したのは、推測ではあるものの、俺が考えていたことへの答えであり、その瞳には幾つかの感情が交ざって揺れていた。

 

「ならば、シナリオの変更は叶わない、か」

 

 女王が健在であれば、展開も大きく変わる。女王の産んだ卵は後にアレフガルドで竜王という名の魔王として君臨し、ロトの勇者の子孫、つまりはシャルロットの子孫と壮絶な戦いを繰り広げるというのが、本来の流れだ。

 

(そも、この女王はひかりのたまを託してくれた訳だし)

 

 その女王が命を賭して産んだ子が邪悪に染まり、次代の勇者に討たれるなどと言う悲劇は無理にねじ曲げてでも回避したくて、俺は賭に出たのだ。

 

(サイモンは救えた、クシナタさん達も然り。なら、今回も――)

 

 上手くいく、何らかの方法があると思っていた。

 

「……そなたの気持ちは嬉しく思います。他を思いやる気持ちとはそれ自体が尊いもの」

 

「だが、救えなければ自己満足に過ぎん」

 

 ここで、我が子と生きられなくて良いのかと喚けるほど、俺は無神経なつもりはない。

 

(ただ、心の中でちらっと思っただけでもおそらくは拾われちゃうから大差はないと思うけどさ)

 

 出来れば救いたかった。

 

「ありがとうございます」

 

 まだ何処かに見落としはないのか、女王と一緒に考えれば想像もしていなかったような解決策が見つかるのではとも考えしてしまうのだが、女王は感謝の言葉と共に頭を振るのだ。

 

「なら、せめて子供の方はどうにかならないのか?」

 

 こんな条件の切り替え方も不本意だが、女王の死が不可避であったとしてもまだ生まれてさえいない女王の子供についてなら話は違ってくる。

 

「……この子についてであれば、運命を変える方法はあります。そなたはかってジパングを荒らし回った竜の魔物を屈服させましたね?」

 

「おろちのことか……まさか」

 

 この流れであれが出てくることは意外だったが、竜という単語が混じっていたことで、あまり考えたくない予想が立ち、俺の顔は思わず引きつった。

 

「ええ、そのまさかです」

 

 そして、頷いたと言うことは俺の想像が正解だったことを意味する。

 

「あれを母親代わりにするだと?!」

 

 気が付けば、叫んでいた。いや、確かに母親の不在が原作の竜王へ至る経緯だというなら、ちゃんとした母親代わりがいれば原作ブレイクも夢ではないとは思う、ただ。

 

「……悪いことは言わん、考え直せ」

 

 せくしーぎゃるな義母である時点で嫌な予感しかしない。

 

「と言うか竜の寿命は知らんから勝手なことを言うが、最悪母親代わりが嫁になりかねんぞ、あの蛇では」

 

 種族がかなりかけ離れている人間の俺にすらあれだったのだ。魔物と神の使いという違いはあっても、同じ竜であるなら年の差なんて無視しておろちが襲いかかっても不思議はない。

 

「……そなたの言いたいことは解ります。ただ、その想像は何と言いますか」

 

「あ、すまん」

 

 無神経なつもりはないと言っておきながら、ちらりと脳裏によぎった光景は、何というか大失敗だった。

 

「もっとも、心配は杞憂です。そのやまたのおろちにも夫、つまりこの子の父親代わりになってくれる存在が居れば全ては丸く収まるのですから」

 

「そうか、言われてみればそうだな」

 

 全く、何で思いつかなかったのだろう。そもそも、おろちは種族の違いさえ乗り越えてくる様な肉食系なのだ。適当な男をあてがってやれば問題解決である。確か、ジパングにはその為に連れて行った様な気もするさつじんきさんがいたではないか。

 

「……ところで、何故俺の顔を見る」

 

 いや、会話してるのだから互いの顔を見ていても不思議はないのだが、こう、何というか視線に意味を感じましてね。

 

「そなたの事情も知っては居ます。ですが、そのジーンと言う男と比べてしまうと……」

 

 いや、よくよく考えるとやむを得ぬ事情があったとは言え殺人者を竜の女王の父親代わりというのは酷かったかもしれない。

 

(それを言うならおろちも酷いと思うけど、というか)

 

 ひょっとして その しせん は あれ ですか。

 

(まさか おれ に おろち と けっこん しろ と?)

 

 いや、そんなことを言うはずがない。相手は、神の使いなのだ。

 

「……お願いします」

 

 ええと、そのお願いしますはまさか肯定ですか。

 

「ま、待て。と言うか、そもそもこの話、肝心のおろちには伝わって居ないのだろう? まず、おろちの気持ちを確かめる必要がある」

 

 それに、ジーンが駄目でも俺じゃなきゃNGと言う訳でもないと思う。

 

(確かシャルロットはおろちとそれなりに親しげだったよなぁ)

 

 竜の女王が病であることは知っているのだから、残して逝く我が子のことが気がかりで育ての父母を求めたと言う形なら、シャルロットに相談することだって出来るだろう。

 

(とにかく、何としてでもおろちにあてがう男を見つけないと)

 

 他人の身体で人外の嫁を貰うなんて超展開になりかねない。相手は神の使いで、子供の未来がかかっている母親だ。

 

「病の身とはいえ、今日明日の命という訳ではないな? なら、少し待て。ジパングに行って――」

 

 おろちに今回の件を伝えた後、全力でおろちに相応しい男を捜し出す。

 

「では、俺はこれで失礼させて貰おう。吉報を持って戻ってくるつもりだ」

 

 と言うか、持って行きたい。自分が人身御供にならない為にも。

 

(男、男……レタイト辺りじゃ、強さに難があるか。うーん)

 

 城の通路を来た時とは逆に辿りながら、俺はおろちの婿候補をひたすら吟味していた。

 

 




竜の女王からまさかの提案。

このままではおろちのお婿さん確定か?

あ、以前考えてたおろちの子供が主人公のお話は、現主人公がおろちのお婿さんになってしまった場合起こりうる未来のお話でした。

若干以前公開した設定と齟齬がありますが、追加で考えた部分とか有りますので、ご理解ください。

次回、第二百六十話「助けてシャルロット、おろちのお婿さんにされそうなの!」

突然、おろちと結婚することになるかも知れないとお師匠様から告げられた勇者シャルロット。

やっぱり、一波乱あるよね?

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