強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百六十話「助けてシャルロット、おろちのお婿さんにされそうなの!」

 

「――と、持ちかけられてな……シャルロット?」

 

 どう切り出すべきか散々迷った結果、話して拙い部分を端折り素直に説明してみたのだが、失敗だったか。

 

「お師匠様が、結婚……」

 

(そりゃ、父親代わりと見ていた師匠に結婚話が持ち上がった何て言われればなぁ)

 放心してしまったとしても無理はないと思う。いや、ちゃんと持ちかけられただけで保留してきたとも説明はしたのだ。

 

「ご、ご主人様が……」

 

「……インパクトが強すぎたようだな」

 

 ちゃんと話を聞けば俺にその気がないところまで解ると思っていたのだけれど、何故かバニーさんまで放心している始末である。

 

「そう言う問題ではないと思いますわよ?」

 

「となると、話が唐突すぎると言うことか」

 

 まぁ、話を竜の女王に振られた段階で俺自身も理解に時間を要する程のとんでもない提案だったのだ。むしろ、割と冷静にツッコんで来ている魔法使いのお姉さんの方が落ち着き過ぎというとらえ方だって出来る。

 

「確かに急な話だとも思う。だが、竜の女王に残された時間は少なく、母であれば共に生きられぬ我が子のことを憂うのもある意味で当然だろう。無論、俺としては人外の嫁をめとる気などさらさらない訳だが」

 

 そう、この身体が借り物でなかったとしても、相手は比喩ではなくモンスターである。ついでに言うなら性格もせくしーぎゃるなのだ。

 

「「そ、それは本当ですか」」

 

「っ、あ、あぁ……さっきもそう言っただろうに」

 

「「良かった」」

 

 二度目の意思表示で我に返って急に食いついてきたシャルロットとバニーさんへ仰け反りつつ応じれば、二人は揃って胸をなで下ろすリアクションを見せる。

 

(だいたい、シャルロットを守るって約束してる訳だし)

 

 ここでパーティーを抜けるというのはまず、あり得ない。

 

「そもそも、俺がこうして説明したのは、真逆の理由だぞ?」

 

 どうすればおろちの夫に収まらずに済むか。結局の所、良い夫候補を思いつかなかったからこそ、相談する為に打ち明けたのだ。

 

「あ、だったら」

 

「ん、どうした、シャルロット?」

 

「たしか、おろちちゃん好きな竜が居るって話を前にしていたんです」

 

「な」

 

 だからこそ、徐に口を開いたシャルロットのもたらした情報は、吉報だった。

 

「はぁ……、知らずに悩んでいたのが少々馬鹿らしくなったが、それなら話は早いな」

 

 元バラモス親衛隊の水色東洋ドラゴンのいずれかだろうか。

 

「ならば、さっさとジパングへ赴き、おろちに女王からの申し出を伝えてしまおう。何なら、結婚を後押ししてもいい」

 

 神の使いからの要請という大義名分もあることだし、おろちも夫を得てしまえば以前の様に自分から身体を投げ出してくる様なことだってしなくなるはず、良いことずくめである。

 

「そうと決まれば話は早い。シャルロットルーラを頼」

 

 時間を無駄にする必要もない、俺は即座にシャルロットへ移動呪文の使用を頼もうとし。

 

「待って下さい、お師匠様」

 

 当人から制止された。

 

「何だ?」

 

「その、おろちちゃんの好きな竜は――」

 

 俺からすれば、もう問題は解決したも同然だと思っていたのだが、続くシャルロットの補足説明で早合点だったらしいことを知る。

 

「一目惚れで、片思い。しかも相手の名前さえ知らない、か」

 

 あっさり解決するかと思えば、とんでもない。

 

(ジパングにいる元親衛隊のスノードラゴンって説はこれで消えたな。となると、シャルロットと一緒にバラモス城へ跳んできた時に見かけた相手ってことかな)

 

 あの溶岩が煮え立つ洞窟はおろちの支配地域の上、竜の魔物は出なかったはず。消去法でゆくなら、やはりバラモス城にいる親衛隊ではないスノードラゴンと言うことになる。

 

(イシスでは格闘場の檻の中だったはずだから、おばちゃんと一緒に左遷されたアレフガルド出身の魔物が居たとしても、遭遇する機会はない筈だし。俺が見せた首だけキングヒドラはもう装備品や素材に加工されちゃってるから、どっちもあり得ない、となるとやはり……)

 

 自分より格下の水色東洋ドラゴンと言うところがちょっと引っかかるが、弱くても竜族の美的感覚手見るともの凄い美形だったとか、スタイルがストライクゾーンど真ん中だったとか、人間では理解出来ない理由で惚れた可能性だってある。

 

「すみません、お師匠様」

 

「いや、早合点した俺が悪い。ともあれ、そう言うことなら尚のことおろちに直接会って話を聞かねばなるまい」

 

 現状では情報が少なすぎるが、当人もとい当竜から話を聞けば、解ることもあるだろう。

 

(ついでに元親衛隊の面々からも聞き取りをすれば、おろちの惚れた相手という竜だって特定出来る可能性もある訳だし)

 

 おろちの夫にされない為にも、おろちの片思いを恋愛へ成就させなくてはならない。

 

「シャルロット、ルーラを」

 

「はい」

 

 再び俺が頼めば、シャルロットは頷き。

 

「お師匠様……」

 

「どうした?」

 

「ううん、何でもありません」

 

 何かを言いかけ、問うてみれば頭を振った。

 

「そうか」

 

 シャルロットも年頃の少女だ。まして、つい最近仲間の二人が結ばれている。

 

(そこに来て今回の一件だ、思うところがあっても不思議はないよな)

 

 もっとも、勇者であるからには大魔王を討つまで恋愛など許されない。アリアハンの国王がその点を憂慮して俺に女戦士を押しつけようとしたことさえあったぐらいだ。

 

(辛いのかもな、シャルロット)

 

 そう言う意味でも支えになってやるのが、おそらくは俺の役目。

 

(なら、尚のことこの一件もさっさと片付けないとな)

 

 原作知識という名の反則によってこの後シャルロットに待ち受ける運命を知っている、だからこそ少しでも――。

 

「ルーラっ」

 

 やがてシャルロットの呪文が完成し、俺達の身体は浮き上がった。

 

 




シャルロットの話でおろちに思い竜の居ることを知った主人公は、勇者一行と共にジパングへ飛ぶ。

そして、そこに待ち受けているのは、頭を抱えたくなるような真実であった。

次回、第二百六十話「勘違いの代償」

人の話は、詳しく、そして最後まで聞かなくてはならない。

そうすれば、気づけたこともあったはずなのだ。

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