強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百六十話「勘違いの代償」

「久しぶり……と言う程でもないか」

 

 元親衛隊のスノードラゴンに同行して貰う為訪れてから数日、一週間も経っていないジパングは、ほぼあの時のままだった。

 

(けど、ここも最初に訪れた時と比べると結構変わったよなぁ)

 

 田んぼの中央には案山子代わりに石像が立ち、入り口の左右にも門番のごとく動く石像が立っているのだ。いや、おろちに元バラモス親衛隊の魔物を預けたのは俺なのだが。

 

(魔物との共生、そして、交易網が確立されたことで店や宿屋も出来てるし)

 

 面影が迷子になる程ではないが、魔改造してしまった感はある。

 

「おぉ、あなたはスーザン殿ではないか」

 

「あぁ、女王に用事があってな」

 

 そして、それなりに足を運んだ為か、名乗った偽名を覚えられていたりもする訳で、苦笑しつつ出会ったジパング人にこれから屋敷に向かうつもりだと告げると会釈してすれ違う。

 

(さてと、おろちとも色々あったけど、それも好きな竜とやらを見つけるまでだ)

 

 俺からすればおろちに悩まされず済むようになり、竜の女王からすれば我が子を育ててくれる義理の両親が出来ることで憂いがなくなる。となれば、こちらとしては応援するだけだ。

 

(相手が父親に適さない輩だったら話は別だけど)

 

 その辺りを判断する為にも、まずはおろちに話を聞いて手がかりを得る必要がある。

 

(……肝心のおろちが女性恐怖症になってなければなぁ)

 

 少し迷ったのだが、仲の良かったシャルロット相手でも怯える可能性を考慮し、念のため他の皆は宿屋に置いてきた。よって、屋敷に向かうのは俺一人。

 

(まぁ、おろちが失言や問題発言やらかす可能性だってある訳だし、一人の方がかえって都合は良い筈)

 

 なのに、こう、胸騒ぎというか嫌な予感がするのは何故なのか。

 

「……ふむ、ひょっとして苦手意識的なモノがそうさせるのやもな」

 

 これまでおろちにはさんざんせくしーぎゃられてきた。そのせいで、無意識のうちに警戒というか身構えてしまっているのだろう。

 

(けど、今日はそれを終わらせに来たんだ。だから――)

 

 躊躇うべきじゃない。

 

「女王に会いに来たのだが」

 

「ヒミコさまに? 暫し待て」

 

 屋敷に辿り着いた俺は用件を伝えると、指示に従いつつ言づてに屋敷の奥へ消えて行くジパング人の背を眺め。

 

「ヒミコ様はお会いになるそうだ。通られよ」

 

「そうか、邪魔をする」

 

 戻ってきたジパング人の脇を抜けて屋敷に足を踏み入れる。

 

(とりあえずは、竜の女王からの提案を伝えるのが先だよなぁ)

 

 思い竜について訪ねるところから始めるのは不自然すぎる。

 

(「俺がおろちに好意を寄せていて、恋敵の存在を知り情報収集に来た」とでも勘違いされた日には自制出来るかどうか)

 

 相手はせくしーぎゃるだ。否定の言葉さえ照れ隠しとか歪めて受け取る可能性がある。

 

(言葉選びは慎重にしないと)

 

 長い謁見になりそうだなと密か思いつつ、やがて訪れるおろちとの対面。

 

「先日は世話になったな。スノードラゴン達のお陰で目的は半ば達した」

 

「何、あの者達を軍門に下したはおまえ様ではないかえ。それより、わらわに話があると聞いたが、話してみりゃ」

 

「……そうだな。これは、口外無用で頼む。まず――」

 

 屋敷に入りヒミコの部屋へと至るまでに組み立てたとおり、俺は訪れた竜の女王の城で女王が我が子の育ての親になってくれないかと打診した件について説明し。

 

「そして、シャルロットからおまえには意中の相手が居ると聞いた。もしお前がこの話を受けるつもりならば、その意中の相手とやらのことを放置する訳にもいかん」

 

「そ、それは……あの方を探すのを手伝ってくれると、手伝ってくれると受け取って良いのじゃな?」

 

「っ、あ、あぁ。……もっとも、探す為にも、情報が居る。そこで、だ。そのあの方とやらとどういう経緯で会ったのかを聞きたいのだが」

 

 もの凄い勢いで食いついてきたおろちに頷きを返し、詳しい事情を聞くことにした。

 

「は?」

 

 ただ、流石に想定外である、これは。

 

「じゃから、あの方は洞窟でわらわの配下を狩っていたのじゃ。人間と共に」

 

 話を聞く限り、おろちが一目惚れした相手というのは、俺以外の何者でもないような感じがそこはかとなくする様であり。

 

(ドラゴラム、あのドラゴラムでのレベリングかぁぁぁっ)

 

 俺は頭を抱えた。何ですか、このオチ。協力するって言った矢先にこれとか。

 

(自分を探すのに協力する自分って)

 

 バラモス城在住のスノードラゴンさんじゃなかったですか、何でよりによって俺。

 

(落ち着け、考えるんだ、俺。おろちが見たのは、ドラゴラムした誰か。つまり、ドラゴラムの呪文が使える男なら誰でも良い可能性だってある)

 

 ドラゴラムで変身する竜の外見に個人差があったら詰むが、そも俺は他人がドラゴラムの呪文で変身した姿を見たことがない。

 

(確認するだけなら魔法使いのお姉さんにドラゴラムを覚えて貰うのが早いけど、雄と雌の性差で外見が違うと検証にならないんだよなぁ)

 

 かと言って、ドラゴラムの使える男性を用意するには、登録所で素養のある人を捜してきて貰ってレベリングしなければならない。

 

(しかも、育成場所としておろちに筒抜けなジパングの洞窟は使えない……というか、シャルロットが一緒の時点でレベリングなんてほぼ無理っ)

 

 割と八方ふさがりな状況である。

 

(一応「おろちの恋した相手はスレッジさんでした」っていう話の持っていき方もあるにはあるんだけど)

 

 この場合、老爺ではすぐに寿命が来てしまう為、父親役は務まらないからと言う理由で他の竜にしたらとおろちを説得する形になると思うが、問題は果たしてそれをおろちが受け入れるかどうかだ。

 

(むしろ中途半端に真実を教えてしまったせいで事態が悪化する未来しか見えない)

 

 勘違いの代償は重かった。

 

「……話はわかった。その竜は人間と一緒にいたんだったな? 知り合いに当たってみよう」

 

 この時の俺には、そう声を絞り出してヒミコの部屋を後にするのが精一杯で、足取りも重かった。

 




手の込んだ自滅をしかけていたことにようやく気づいた主人公。

だが、時既にお寿司?

次回、第二百六十一話「俺、途方に暮れます」

打開策は、見つかるのか。それとも観念してしまうのか。

諦めたら、そこでスピンオフだよ。(おろちの子供のお話に続く的な意味で)

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