強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百六十二話「だったら、相談してみるしかないじゃないか」

 

「……という訳でな。おろちが惚れたという竜は十中八九ドラゴラムで竜に変じたスレッジだと思われる」

 

「そう言えば、そんな修行をしましたわね。あの洞窟で」

 

 説明をしてみればレベリングされた一人である魔法使いのお姉さんの呑み込みは早かった。

 

「あ、あの時の……」

 

「本当に凄まじい呪文でしたな、あのドラゴラムという呪文は」

 

 そして同じ場所にはバニーさんや僧侶のオッサンも居たのだ。

 

「魔法使いと未来の賢者二人ならどのみちいずれは全員が使える様になる呪文だろうがな」

 

 と言うか、転職後で考えると俺を除いた勇者一行は本当に呪文重視のパーティーになるなぁと思う。

 

「ふむ、言われてみれば……」

 

「って、話がずれてますわよ?」

 

「そうだったな、すまん。ともあれ、おろちの思いを寄せる相手がスレッジだとすると、少々具合が悪い。竜の女王が望むのは自分の産む子供の親代わり。竜がどれ程生きるかは知らんが、老人のスレッジに父親代わりはとても務まるまい」

 

 魔法使いのお姉さんに指摘されて謝りつつ、話の軌道修正をした俺は、そのまま一番の問題を提示する。

 

「第一、バラモスに居場所を突き止められぬ様にする為、スレッジは自分の居場所をこちらにさえ知らせんからな。この件で話を聞こうにも連絡の付けようがない」

 

 もっとも、連絡が付いたとしてもスレッジの正体である俺はNOと言う答えしか持ち合わせていないのだけれど。

 

「それからもう一つ、おろちに話を聞いて解ったことなのだが、おろちは自分が惚れた相手がスレッジの変身した姿であると気づいていないようなのだ」

 

「まぁ、人が竜に変わる呪文など使える魔法使いなどかの御仁を知るまでは見たこともありませんでしたからな」

 

「だろうな。そこで、俺は気になっていることがある。ドラゴラムの呪文で変身した竜の容姿は変身前の人間の容姿や性別に影響されるのかと言うことなのだが……」

 

 頷く僧侶のオッサンに同意しつつ、俺は話を一気に核心へと持って行く。

 

「つまりだ、こういうことは竜の心を弄ぶ非道な行いかもしれん、だが、ドラゴラムで誰もが同じ容姿の竜になるなら、スレッジの替え玉を仕立て上げられるのではないかとも思うのだ。スレッジでは竜の女王の望みを叶えられず、俺もおろちの婿になる訳にはいかない。そうなってくると、状況の打開策として、な」

 

「お、お師匠様。けど、それっておろちちゃんを騙すってことですよね?」

 

「ああ。真っ当な方法でない上に、ドラゴラムで変身した姿が皆同じという検証もしていないこちらに都合の良い勝手な前提を元にしてのものだ。前提が間違っていれば、その時点で瓦解してしまう穴だらけの策でもある」

 

 打ち明けたら、シャルロットが質問してくることは、当然予想出来ていた。

 

「おろちちゃんを騙すなんて――」

 

 シャルロットが親しかったあのおろちを謀ることに難色を示すことも。

 

「解っている。お前が反対しても仕方ないとは思う。だが、真実を打ち明けておろちが女王の申し出より自分の思いをとったら、生まれてくる竜の女王の子は誰が面倒を見る?」

 

「そ、それは」

 

「こうなることも解っていたから、打ち明けるべきか迷った。だが、俺に思いついたのは先程の身代わりでっち上げがせいぜいだ。情けないことではあるが、全てが丸く収まる方法を思いつけなかった」

 

 だから、こうして打ち明け相談することにしたのだ。

 

「だいたい、スレッジがおろちの想いを受け止めるかどうかも現状ではわからんのだ。あの年齢で、竜の女王がおろちとその伴侶に自分の子供の親代わりになることを望んでいると知れば、後者を理由に首を横に振ることも充分考えられうる。更に言うなら、スレッジに自分の想いを容れて貰えなかった理由が女王の子の親代わりが務まらないことだとおろちが知ろうものなら、女王の申し出の方をおろちが蹴ることだって充分あり得るだろう」

 

「う……」

 

 正直に言えば、こんな理論武装でシャルロットをやりこめたくなどない。

 

「一理ありますな」

 

「アランさん!」

 

「勇者様、思い人の偽物をでっち上げてあてがうなどと言った行為がろくでもなく、発案者の人格さえ疑いたくなるものですが、事実を知った勇者様の言うおろちちゃんの行動予想については間違っているとは言い切れません」

 

 僧侶のオッサンは辛辣ではあるものの、こちらの立場の立場もまた理解はしてくれていた。

 

「シャルロット、卑怯な逃げ口上など口にしたくはないが……今回の件、時間がない上に、俺一人ではこの態だ。スレッジに出会ったら答えを聞くことにしておきつつも、NOと言われた場合に備えて替え玉を用意しておく。妥協したとしても、これ以上の案を俺には思いつけなかった。たった一つを除いてな」

 

「たった一つ?」

 

 正直、これは言うべきか迷った。だが、口にしてしまい、シャルロットが聞きとめた時点で、もはやとぼけることも不可能だった。

 

「モシャスという変身呪文がある。こっちも相手を欺く最低な案の上に、前言を撤回することにもなるものだが……『スレッジにモシャスで俺に変身して貰い、スレッジと俺が同一人物だったと言うことにした上で、俺がおろちの夫になる』というものだ」

 

「え」

 

「ご主人……様?」

 

 別人と言うことにしているところを逆用した発想であり、同時に自分が望まぬ結果を自ら口にした訳でもある。無論、これは実行に移す為の案ではない、俺がおろちの婿になることに反対するであろうシャルロット達反論を封じる為の外道な見せ札だ。

 

「そもそも女王は俺を父親にと最初に打診してきた。父親として不足はないと言うことだろう。知らなかった事とは言え、おろちの恋愛成就に協力しようと言ったのも俺だ。話を持ってきたのも、俺。一連の騒動の責任を負う必要は少なからずある」

 

「お師匠……さま、けど、けどっ!」

 

 シャルロットには悪いことをしていると思う。だいたい、そんな顔なんてさせたくなかった。

 

「スレッジに実質的な夫になって貰い、父親役の方だけ俺が引き受けるという手もあるが、いずれにしても替え玉を用立てる案以外はスレッジと接触出来んことにはどうしようもない」

 

「つまり、今口にしたのは最後の手段と?」

 

「あぁ、そう取って貰って構わん。俺に思いつくアイデアはだいたい出し尽くした。ロクでもない案さえ、出すだけ出してみせる程にな。だから――」

 

 僧侶のオッサンの問いかけを首肯すると、言葉を続ける。

 

「知恵を貸して欲しい」

 

 そうして、頭を下げたのだった。

 




案はある、だが殆どはおろちの気持ちを踏みにじる案。

シャルロットの反発は避けられず、シャルロットを押さえつけるほか現状打破する方法を見つけられなかった主人公は、仲間達へ頭を下げた。

次回、第二百六十三話「無論自分でも考えるつもりではいますよと誰に向けてか言ってみる」

いやぁ、どう見ても詰んでるって? はっはっはっはっは、どうなるんだろうねぇ、ここから。

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