「ふむ、なかなか厳しいですな。スレッジさんと連絡が付けば、おろちと対面したスレッジさんに説得して頂くと言う方法も考えられますが、連絡手段がないとなると」
「成る程、スレッジが思い人だと明かした上で、スレッジに説得を任せる、か」
僧侶のオッサンが口にした案は俺が想定した状況をカバーするものだった。
(父親代わりになれないことを理由に断れば、おろちが親代わりを断る可能性はあるけれど別の理由でごめんなさいした上の説得なら、確かにスレッジや俺がおろちの婿になる結末は避けられるよな)
ただし、説得を担うスレッジとしてうまくおろちを説き伏せることが出来ればと言う条件は付いてくるが。
(まぁ、失敗したら一気に夫にされそうだから諸刃の剣でもありそうだけど)
下手に偽物をでっち上げるよりは誠実である。ただ、人の意見を聞いて気づかされることがあると言うことは、俺もまだまだだったのだなと思う。
「ところでお師匠様、ふと気になったんですけど……そもそもスレッジさんって独身なんですか?」
「ん?」
「えっと、もし奥さんとか居るなら――」
「奥さん?」
おずおずと手を挙げて質問してきたシャルロットが提示した問題など、思いつきもしなかったのだから。
(そうか、スレッジに好きな人がいるとか配偶者が居るからと言う理由で断らせて、その後でこっちが用意しておいた父親候補を出して打診すれば良いんだ)
それこそ奥さんか好きな人を用意する手間はかかるが、今のおろちは女性恐怖症。以前なら二号でも妾でも良いとか言い出しかねなかったが、他の女性の存在があれば、おろちもせくしーぎゃってこないと思う。
「やはり俺もまだまだだな。こんな初歩的なことに気づいていなかったとは。これは是が非でも何処かでスレッジと接触して話をする必要があるか」
分裂なんて器用なことも出来ないので、その時は一人で赴いて一人で聞いてきたことにすると思うけれど、スレッジと話をして来るという大儀名分があれば単独行動が可能だ。
(この機会を利用してクシナタ隊のお姉さん達に接触出来れば、打てる手も多くなる)
もの凄い年の差カップルになるが、スレッジのお相手をクシナタ隊のお姉さんの誰かにしておけば、おろち避けとしては最大級の効果が見込めるだろう。
「冷静になって考えてみると、俺には対話と情報、これらが足りなすぎたな」
ドラゴラムで変身していた可能性まで示唆した上で、人間であればどんな男が好みのタイプかとおろちに話を振ることで好みの男性像をリサーチし、要望に出来るだけ近い相手を用意するという方法だってあったかも知れない。
(もっとも、用意するお相手の方にもおろちの正体を知った上で一緒になってくれる相手じゃないといけないんだよなぁ)
これは割とハードルが高そうに見えるが、偽ヒミコの時のおろちは文句の付けようのない美女なのだ。
(人の姿で連れ回して、魔物でも構わないと思う程好意を寄せる男が現れれば……)
所謂逆アプローチ。おろちが惚れるのではなく、おろちに惚れた男性を魔法使いにした上で修行させドラゴラムを覚えさせて告白させる。
(ドラゴラムの容姿に個人差がないなら、両思いに発展してハッピーエンドじゃないか)
割と都合の良いところだけ見ている気もするが、試してみる価値はあると思う。
(まずは何処の町に……ん、待てよ。おろちは確かシャルロットと一緒にバラモス城からイシスに飛んだ筈)
なら、あの国には偽ヒミコ姿のおろちを目にした者も居ることだろう、全裸の。
(おろちを見てどう思ったのかって感想を集めれば、指針ぐらいにはなるかな)
いい女だったとか結婚したい何て反応が多数返ってきたなら、この思いつきだって成功の可能性はある。
(それに、そろそろエリザともいったん合流しておきたいし)
テドン方面に向かった別働隊と合流する意味でもイシスはちょうど良い。
「とりあえず、俺はもう一度おろちと話をしてこよう」
「……え、ご主人様?」
「そも、おろちとのことだけにかかずらう訳にはいくまい。バラモスを倒す為の準備と並行作業で行わねば、時間の方が足りん。ならば、情報を集めて動ける様になっておくべきだろう」
最後の鍵の入手にダーマへの到達、オーブ集めとラーミアの復活、カンダタから金の冠を取り返し、ノアニールの呪いを解く。為すべき事は結構残っているのだ。
「アラン達にはバハラタへ向かって貰いたい。あの町であればダーマに到達した者が通りかかる可能性がある。もし、ダーマへ連れて行って貰えれば、二名が賢者へ転職出来るからな。バラモスとの決戦を考慮するとなるべく早く賢者になり、経験を積んでおく必要がある」
賢者になったバニーさんと僧侶のオッサンのレベル上げは、おろちに協力して貰い灰色生き物との模擬戦を行うことにすれば、おろちの目をそちらへ向けることも出来る。
「シャルロットは俺がおろちとの会話が終わったら一緒にイシスへ飛んで貰う。一応元親衛隊のドラゴンを連れてな」
エリザとの合流も狙いの一つだが、場合によってはランシールに向かって単独での攻略が要求される洞窟、地球のへそを制覇しオーブを手に入れることまで視野に入れての行動になると思う。
「竜の女王の依頼を忘れる訳ではないが、あくまで勇者の役目は魔王討伐だからな」
おろちと会話して情報収集し、イシスでも調査はする。後回しにしたとか、棚上げしたという訳でもない。
「駄目なら徒歩でダーマを探すとしても四日あればバハラタに戻れるだろう。こちらは成果が出なければ四日目にはバハラタへ行く。俺達が帰ってこなければ、ジパングに戻りおろちの協力の下修行を積んでおいてくれ」
「それは、割と長い期間の別行動ですな」
「やることが多いのだ、是非もあるまい」
僧侶のオッサンに肩をすくめてみせると、俺はそのまま歩き出す。
「ではな」
「お師匠様」
「おろちの男の好みを聞いてくるだけだ、たいして時間はかからん」
「はい、いってらっしゃい」
こうしてシャルロットの声を背に部屋を出た俺は、先程戻ってきた道を引き返すのだった。
主人公、あがきつつ同時にバラモス撃破に向け動き出す。
次回、第二百六十四話「あの、おろちさんってどういう男性が好みなんでしょうかね?」