強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百六十八話「えっ、本当に一目惚れですか?」

「その方と出会ったのは、僕が見張りをしてくれている人達に差し入れとして使用人達と軽食を持っていった時のことでした」

 

 バラモスの居るであろうネクロゴンドの方角から何かが凄い速度で飛翔してくるのが見え、周囲は騒然となったという。

 

(あぁ、シャルロット達がイシスへキメラの翼で飛んでいった時のことかな)

 

 俺が話を聞いて推測する最中も、何人かの戦士が地面へ降りてくる者達のところへ走っていったのですとマリク少年は話を続け。

 

「ええと、それってひょっとして」

 

「はい、飛翔してきたのは、あなたとそのお仲間でした」

 

 声を発したシャルロットに頷いて見せた少年は、頬を染め、恥じらってか視線を微かに逸らして言う。

 

「一目惚れだったと思います」

 

「え」

 

「な」

 

 告白に俺が声を漏らしたのは、ほぼ同時に固まったシャルロットとはきっと別の種の驚きからだったと思う。

 

(話がうまく行きすぎてるよね? いや、待て。まだ確定じゃない。ここで一目惚れの対象がおろち以外って言うオチになることだって充分にあり得る訳だし)

 

 混乱もした。だが、人は自分に都合の良いモノを望んでしまう生き物だ。胸中で慌てるなと自分に言い聞かせつつも望んでいた展開が訪れることを期待している自分は確かに存在していて、だから気づかなかった。

 

「シャルロットさん」

 

 いや、気づいていたのを敢えて無視していたのかも知れない。マリクの視線は個々にいない誰かに向けたモノではなく、明らかにシャルロットを向いていたのだから。

 

「お願いがあります」

 

「ひゃう」

 

「ぼ――」

 

 いきなり手を握られて声を上げるシャルロットへ熱の籠もった視線を向けて、少年は叫んだ。

 

「僕のお尻をそのはがねのむちで思い切りぶっ叩いて下さいっ!」

 

「「え」」

 

 その時、俺とシャルロットの思考は確かに停止した。

 

「その、定間隔で棘のあるフォルム、四方へ棘の付いた一際大きな先端の棘、それで叩かれたらどれ程痛いんだろうと、寝ても覚めてもずっと考えていました」

 

「……ひょっとして、一目惚れというのは」

 

「ええ、その鞭にです」

 

 これは、どこからツッコめばいいのか。

 

(性癖か、性癖からなのか?)

 

 もの凄くまともなことを行っていたのに、一皮剥くとただの変態とか斜め上過ぎだろう。

 

「一応言っておくけど、これ市販品だよ?」

 

「ええっ、そうなのですか? 後で使いを出して取り寄せないと」

 

 シャルロットの言葉に驚きつつも本当に嬉しそうな姿に、俺は思う。王族がこれで大丈夫か、イシス、と。

 

「お師匠様ぁ」

 

「すまん、シャルロット。流石に俺もここからどうすればいいかはわからん」

 

 助けて貰った手前、要求は受け入れないといけない様な気もするのだが、だからといってシャルロットへ変態行為を強要出来るはずもない。

 

「ただ、一つ知っていることがあるとすれば――」

 

「お師匠様?」

 

 俺は徐にシャルロットへ近寄るとその腰に手を伸ばす。

 

「え、あ、駄目です、お師匠様。ひ、人の前で」

 

「シャルロット、何も言うな」

 

 顔を赤くしわたわたする弟子へ軽く頭を振って見せてから、伸ばした手でシャルロットが腰にぶら下げた鞭の輪をとる。

 

 そう、俺にも出来ることがあるということだ、シャルロットのかわりをし、精神的な苦痛を引き受けるという。

 

「あっ、え?」

 

「……叩いて欲しい、と言うだけなら俺でも問題は無かろう?」

 

「はいっ」

 

 何故か驚きの声を上げるシャルロットをスルーしてマリクに問えば、嬉しそうな笑顔で返事をし。

 

「ただ、シャルロットの言うとおりだ。人前でするのもどうかと思うが……それとも人前でシて欲しいのか?」

 

 続けた質問について、俺としては部屋を移動する口実のつもりだった。

 

「はいっ」

 

 だが、マリクの変態レベルは俺の想像を遙かに超越していたらしい。もの凄く良い笑顔で答えると、その場に四つん這いになったのだ。

 

(ちょっ)

 

 思わず顔が引きつりそうになるが、これも身から出た錆。

 

(というか、俺は一体なにをやろうとしてるんだろう)

 

 シャルロットから鞭を取り上げたのには理由がある。この少年王族の変態的おねだり自体が、王族に狼藉をはたらいたと言いがかりを付けて俺達に何らかの要求を呑ませる罠の可能性を考慮したからなのだが、人前は拙すぎる。

 

(二人だけなら怪我をしてもラリホーで眠らせてホイミで癒すとかこっそり証拠隠滅を図ることだって出来るけど)

 

 人の目があっては誤魔化しづらい。

 

(とは言え、一度OKしといて反故にもできないしなぁ)

 

 ここは覚悟を決めるしかないのだろう。

 

「すまんな、シャルロット。俺は師としてこんなことしかしてやれん。かわりに王族の尻を鞭でしばくと言うことしか」

 

「うぐおっ」

 

 振るってやると、はがねのむちは程良い風切り音をたててマリクの尻に炸裂し。

 

「どおおお、ぐああああっ」

 

 もの凄い顔芸を見せながらマリクは絨毯の上を転がったのだった。

 

(なんだ、あの表情)

 

 まさにBETU☆GEIFUU。

 

「いいねぇ、この痛み。快感が走るぜ」

 

「口調まで変わっているだと?!」

 

 どういうことなのか、まるで訳がわからない。

 

「うへへへへへっ、ははははは、じゃあこいつを見てみな」

 

 呆然としているとマリクは急に笑い出し、一枚のカードを引いて俺に見せてきた。

 

「な」

 

 そこには、こう書かれていたのだ。

 

「エイプリルフール、突発企画」

 

 と。

 




 ご都合展開だとか、その裏をかいて別の女性に一目惚れだと思いましたか?

 前回のサブタイトルから含めて全部、これがやりたかっただけの仕込みです。

 そう、今日はエイプリルフール。

 このお話はエイプリルフール企画という名の悪ふざけだったのです。(他作品パロの顔芸含む)

 本当の第二百六十八話は、次回ですので誤解為されませぬ様に。

 尚、このお話は機を見てきっと消すと思います。流石に同じ話数が並んでると紛らわしいので。ご理解ください。

 そんな訳で、次回、第二百六十八話「えっ、本当に一目惚れですか?」

 今度こそ本当の第二百六十八話です。
 

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